
中国には過去7年間で上海×5、北京×2、広州×2の計9回足を運んでいる。F1と万博がらみのシボレーボルト試乗の他はすべてモーターショー取材という内訳だ。7年前の第一回上海F1GP以来、訪れる度に猛烈な勢いで変化するこの国のダイナミズムに圧倒されっぱなしだが、残念なことに現地でステアリングを握ったのは昨年のボルト試乗会のただの一度だけ。それもリゾートの私有地内のごく限定的な試乗コースを何周か走っただけでしかない。
基本的に現地在住者以外に運転する機会を与えない仕組みになっているので仕方がないが、考えてみると妙な話ではある。昨年実績で1700万台超/年の自動車販売記録し、今年は2000万台という未踏の領域に迫ろうかという近代国家でありながら、そこを走ろうという外国人は限られる。まあ、日本も閉鎖的かつ排他的なシステムやインフラを放置したままなので他国をとやかく言えた筋ではないのだが、これだけ情報が加熱しているのに日本のメディア/ジャーナリストでまともに中国を走った者がいない。
街を埋めつくすクルマは見慣れたメーカーの良く知るブランドだったりするのに、目に映る光景はバーチャルに近い具体性を欠くものになっている。日本も欧米も韓国も、単にモノとしてのクルマを供給しているだけで、グローバルな枠組みの中にあるはずのモータリゼーションに関与している姿勢は希薄だ。
道路をはじめとするインフラは国際規格との間にそれほど隔たりを感じさせないが、国民性に根ざしたドライビングスタイルやマインドが醸成するソフトについては急成長を繰り広げる途上国らしい隔靴掻痒感が残る。すでに昨年の時点で保有台数で日本を超えたといわれるが、路上を行くクルマでシートベルトを締める者は少数派。乗ったタクシードライバーの装着率は見事にゼロだった。
クルマの生産台数や販売台数やシェアや将来展望などのマーケティングデータばかりを聞きたがる新聞TVの取材陣は、メーカー目線のビジネスやプロモーションしか興味がないようで、この国のモータリゼーションという儲け話以上に重要な未来についての展望を探ろうとはしない。走っているクルマは見るけれどそれを操る人々には無関心に見える。そろそろ視点を変えて本質に迫らないと、この国のモータリゼーションが持つ数のパワーが世界のクルマ作りのデファクトスタンダードになりかねない。
中国の地場メーカーは、かつてのフルコピー、そっくりの真似っこさんは相対的に減ったが、その分グローバル化による均質感は増した。下の写真は、中国民族系最大手の第一汽車(FAW)が今回出展したコンセプトカー。上から、(レクサスIS風の)GO、(レガシィがお好き?カムリの路線? の)B9、(マツダの流れデザインにインスパイアされちゃったの?の)T012。GOとT012は見栄えのわりにエンジンは小さめの1.5ℓ(TO12は1.3ℓも想定)。


第一汽車は、トヨタやマツダとも合弁を組む企業集団。相手の影響を受けるのは無理からぬところではあるけれど、この手の洗練はいくら突き詰められても脅威には感じられない。他の民族系についても言えるのだが、ここに来て中国ブランドは世界との実力差を自覚し、現実を直視するに至ったような印象を受ける。牧歌的な真似っこ車は少なくなり、自らの需要層に届くようなメッセージやクルマそのもののあり方を考えるようになった。
その分、4年前に初めて見たハチャメチャ感は薄れ、面白みも減ったといえるが、外国メーカーの進出によって磨かれ揉まれたセンスはやがて実を結びそう。2年後の上海はどのような変貌を遂げるのか。やっぱ、この国、取材対象としての奥行きが深く、ハマるわ。なるべく早く現地を走れるようにならないと。
Posted at 2011/05/01 23:57:02 | |
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