プリウス・プラグインハイブリッド(PHV)のEV走行は最大23.4㎞。これを短いとみるか十分と考えるかは、各自の日常の生活感によって異なると思います。
クルマに乗るのが仕事の僕たちだと、そんな距離はプロセスの入り口みたいなものですが、一般的な都会のサラリーマン家庭では、週末以外ではお買い物の足としてちょこちょこ走る程度。公共交通手段の乏しい地方都市などでも通勤で片道10㎞を超えることは少ないのではないでしょうか。
以前発表された一般家庭の平均走行距離のデータは確か13㎞ほどではなかったか。一日の走行距離が長いといわれるアメリカでも平均40mile(64㎞)程度。それくらいの航続距離があれば、デイリーユースには対応できるということで、それがPHVやEVの実用性を考える尺度になっていたと思います。
バッテリーをたくさん積めば、その分航続距離は伸びますが、そのエネルギーを保証するバッテリーの重量は100㎏の桁に達し、自らを動かすためのバッテリー運搬車という色彩を濃くしてしまうことになってしまいます。バッテリーの飛躍的な性能向上がないかぎり、ピュアEVが難しいと言われる所以ですが、そもそもそんなに長い距離を走る必要があるんだったっけ? という素朴な疑問は重要であるわけです。
ECOの問題は、テーマを絞っていかないとどんどん拡散してしまう傾向があります。目下の問題は、気候変動の原因と考えられているCO2排出の低減と、石油のピークアウトを控えた資源枯渇。それによって従来型のモビリティが維持できなくなるのでは……というのが、自動車に関する基本的なものです。
大都市の過密と地方の過疎など、国のあり方から根本的に考えないと、簡単には解決できない問題が含まれていますが、そこまで話を拡げてしまうと、なかなか自分の問題として考え難くなってしまうのでこの辺で抑えておきましょう。
今回の試乗会では、水道橋のトヨタ本社から台場のMEGAWEBまでの約15㎞余りの距離(首都高を利用した場合)を往復するというもの。プリウスPHVの最大23.4㎞というエネルギー密度を持ってすれば、まあ楽勝という感じもしますが、当然のことながらスピードを上げて仕事量(パワー)を増やせば、エネルギー消費は早まります。
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比較的流れる首都高を周囲に合わせて走るとちょうどいい感じでバッテリーを使い切り、メガウェブに設置された急速充電器で予め設定された中継時間(約1時間半)を使って充電すると、ほぼ満充電でEV走行からHV走行に切り替わるところを確かめながらテストできる……なかなか考えられたメニューが組まれていたわけです。
僕のプリウスPHVの評価は、ほぼ予想通り期待通りで、これはなかなか将来性があるものだ……というものでした。PHVは、これまでのTHS-Ⅱのプリウスとは、外部電力を蓄電するという意味でまったく別の概念の乗り物。
平たく言えば、従来のプリウスTHS-Ⅱがあくまでも内燃機関をベースにEVの要素を取り込んでハイブリッド(複合機化)しているのに対し、PHVは外部電力を蓄電したバッテリーをエネルギー源としたEVをベースに内燃機関が補助的に存在する。
もちろん、エネルギー密度という点ではリチウムイオンバッテリーよりも50L近いタンクのガソリンのほうがより長い航続距離を約束しますが、PHVは主従という意味ではバッテリーによるモーター駆動が主体になっている。
ここで重要なのは、ハイブリッドを成立させているTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)の眼目は、バッテリーやモーターやアトキンソンサイクルや動力分割機構といったハードウエアにあるのではなく、それらを統合制御するソフトウエアそのものにあるということです。
もともとPHVは、先代プリウスが北米に導入されてしばらくして、北カリフォルニアのベンチャー系のエンジニアが、標準のニッケル水素バッテリーに代えて大量のリチウムイオンバッテリーをコンバートし、それを外部電力で充電。基本的にEVとして走らせ、バッテリーを使い切ったところで本来のTHSを作動させたほうが燃費性能も飛躍的に向上し合理的という発想で開発したものです。
初代プリウスを発表して以来、トヨタはずっと外部電力に繋いでバッテリーを充電することなく普通のクルマと同じ使い勝手で走れるということをTHSのセールスポイントとしていました。
プリウスはコンセントにつながないと駄目なんでしょう? ウチはマンションの4階だから、買えないのよねぇ……いまだにそういう奥さんが多く存在します。
これまでのプリウスではそんなことはなかったのですが、このPHVプリウスはそういう奥さん達の危惧がリアルな問題として浮上したクルマと言えます。周回遅れがトップに立ってしまった感じ(?)プリウスPHVの田中CEは、マンション4階に住む奥さんをそう称していますが、それまで散々普通のクルマと一緒ですと言っていたものを、いや今度のプリウスはふつうのクルマとは違うんですよ……と言わなければならなくなった。
そういった点を含めて、プリウスPHVはこれまでの内燃機関派生のクルマ(HVも含む)とは別物と考えたほうがいい。現在のところフルEVはバッテリーの革命的な進化がないかぎりコミューターで行くのが現実的という意見が態勢を締めています。
日産のように、独自開発のリチウムイオンに対する自信からか、フルEVに積極姿勢を見せていますが、デファクトスタンダードの座を獲得できるかどうかは依然として不透明なところがあります。
プリウスPHVは、一見これまでのTHSの延長線上にあるようですが、現実はフルEVやFCEV(燃料電池車)と並ぶ次世代エネルギー車として有効なソリューションのひとつと考えたほうがいい。分かりにくいけれど、古くて新しい訳です。
EVの地平については、現在アメリカで進行中のスマートグリッドの戦略性などについても触れなければならないのでしょうが、長くなるので今日のところはこのくらいで。日本はすでにスマートグリッド化が実現しているという言われ方もしますが、脱石油を視野に入れた電化が戦略的に考えられているかどうか。
デトロイトでホンダの伊東孝紳社長が軽く触れた水素供給装置(太陽電池発電で水の電気分解を行なう従来型を、さらに一歩進めて350気圧の環境下で水素を生成し、そのままFCEVのタンクに供給できる小型の家庭用システム)は、低炭素化社会の究極と言われる水素化社会を一気に現実化する可能性もあったりして。
今回NAIAS(デトロイトショー)を取材して感じたのですが、時代は静かにしかし強い意志を持った勢いとともに急速に動いている。脱石油化は、ちょうど100年ほど前に起きた蒸気から石油への転換と同じような勢いで進むのかもしれません。
プリウスPHV試乗の中継点MEGAWEBで"試乗したトヨタのパーソナルモビリティロボット、ウィングレットWinglet。タイプLは、タイヤの小さなセグウェイといった感じの、最高速が6㎞/hという経ち乗り型。1時間の充電で10㎞走行可能で、重量は12.3㎏。スキー・スケートの経験があると簡単。ウィンタースポーツの習慣を持たない僕でも時間をかければなんとか……でした。
Posted at 2010/01/26 17:16:14 | |
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