
マツダの未来を一身に背負うCX-5。これまで多くの取材機会が与えられ、期待の純内燃機関モデルということで、ノスタルジーに我が身を重ねようとする現状維持派の共感を得ているようだ。世代的には旧世代に属する僕も、内燃機関にはひとかたならぬ郷愁を抱き、その存続が久しからぬことを願うばかりである。
CX-5のリポートについては雑誌の企画で取材した手前、仁義を切る必要がある。試乗インプレッションに関わるメインストーリーを記すのは憚られるが、気になったのはプロであるはずの同業の多くがSKY-Dの出来の素晴らしさに驚き、絶賛に近い評価を下していることです。
すでに欧州でディーゼルが人気を博して久しい。一世代昔の副燃焼室式ディーゼルから最新のSKY-Dに続くコモンレールディーゼルに切り替わったのは、石原慎太郎東京都知事がペットボトルを振りかざし『東京都のディーゼルNO作戦』にハンドルを切った1999年(平成11年)8月27日の定例記者会見から2年ほど経ってから。
コモンレールシステムを初めて実用化したのは実は日本のデンソーで、1996年の日野のトラックが嚆矢だった。当時はまだ日本の軽油は硫黄分が500ppmという現在の50倍の煤が出やすい状態。主要輸入先が中東の重質油だったためで、軽質な北海プレントとの違いはそのまま乗用車へのディーゼルシフトの障害にもなっていた。
あの石原都知事のペットボトルパフォーマンスが、あと1年後だったら・・・。ディーゼルNO作戦を受けて、関係省庁(運輸省、通産省、資源エネルギー庁、環境庁=いずれも当時、石油連盟、東京都環境局など)をみっちり取材しつつ、ディーゼルエンジンのオーソリティだったいすゞの技術系常務からレクチャーを受けた際、当の役員はため息まじりに呟いた。
時代はディーゼルの後処理装置の開発初期。CRT(連続再生式)DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)の開発には、10ppm以下の脱硫軽油の存在が欠かせない。産業優先のために、軽油を政策的に安く設定し、軽油引取税(地方税)を暫定税率込みのガソリン税53.8円よりも低い32.1円に据え置いたまま、黒煙もうもうの副燃焼室式ディーゼルが経済性優先のために放置された。
石原現東京都知事は、国会議員時代運輸大臣と環境庁長官を歴任している。一向に改善されない大都市部ことに東京都の環境改善が進まないことに業を煮やした彼が、国の無為無策を糾弾するために行ったのが例のパフォーマンス。現状を熟知し、霞ヶ関官僚の実態を知るが故に張った大芝居だったが、ペットボトル12万本の煤が一日に都内でばら蒔かれている。直接都民の生活をあずかる都の調査は、切実さという点でリアリティがあった。
技術の問題を政治化させたところが、百戦錬磨の政治家石原慎太郎の真骨頂といえるが、タイミングとしては絶妙である反面、それから今に至るクルマの現実的な発展という意味では最悪だった。依然として残るディーゼルアレルギーは当時の石原プロパガンダの結果だが、日本の技術力がディーゼル開発に向かう障害としては10年近い重みとして残った。
もしも石原さんがあそこでディーゼルNOを展開しなかったら、日本の軽油は世界レベルの10ppmの低サルファになることはなかったし、コモンレールディーゼルの普及はさらに10年は遅れたはずである。なぜ、現在の状況が生まれたか? 取材すれば分かることである。そして、何故欧州でディーゼルが人気を博しているのか。これも現地に飛んで、試乗するなり背景を調べるなりすれば分かることである。
日本メーカーは、技術的には当初リードしていたのだが、市場環境をはじめとする状況の不利がそのまま開発のペースの足を引っ張り、結果的に欧州市場におけるプレゼンスの後退を余儀なくされている。
僕は、アコード用i-VTEC2.2ℓを搭載したユーロシビック、現行ユーロアコード、
アベンシスDPNR D-CAT、マツダ6(アテンザ)、
マツダ3(アクセラ)、マツダ5(プレマシー)の前世代ディーゼル、スバルレガシィ・ボクサーディーゼルなどといった日本の欧州向けディーゼルを数年前から現地のモーターショー取材に絡めて試しています。数は少ないですが、現地メーカーのディーゼルも手にしています。
その目線からすれば、CX-5は驚くにはあたりません。もちろん、静かでパワフルで高回転までガソリンと変わらぬ雰囲気で吹け上る。420Nmのトルクはガソリンではとても出せないディーゼルならではの乗り味で迫る。だからと言って、諸手を挙げて万歳では正確さに問題が残ると思います。
最大の不満は、欧州市場には当然用意されている6速MTが見当たらないことです。現時点で国内にMTのラインアップはなく、したがって試乗会に用意されないからといって文句を言う筋合いではないかもしれません。しかし、SKYACTIVテクノロジーにはMTも含まれています。
現地でディーゼル+6速MTの何とも言えぬスポーティな味わいを知る者には、何故それを出さないのか。プレス向けの試乗会で多くのジャーナリストに経験してもらい、その本質的な魅力をメディアの力で伝える。欧州でディーゼルが受けている理由の核となるところだと思っています。
メーカーとしてはマーケティング戦略上知らせたくない情報なのかもしれませんが、今やネットで情報が世界中を駆け巡る時代。既存メディアで情報を遮断しても、気の利く顧客は自分で情報を拾いに行ってしまいます。状況的には雑誌の編集者やジャーナリストよりも読者のほうが詳しいなんてこともあり得る。
上流から下流へという従来型の情報伝達が時代後れとなりつつあり、個人が情報伝達の最小単位になろうとしている今、これまでの組織に見られた集団主義的なメンタリティではスピード感という点で合理的ではない。
自分たちだけで何とかなる時代だったらいいのですが、今や世界中がサバイバルを賭けて鎬を削り合う大競争の時代です。内輪でごそごそやっている間に、あっという間に取り残されてしまう。CX-5は、これから世界に羽ばたいて行くマツダ期待の星ですが、世界でもっとも難しいと言われる日本市場でディーゼル(&6速MT)を含む世界標準のモデルがどのように普及してゆくか。これまでと違う状況を生み出すのか出さないのか。
これが上手くいってくれないと、NDが絶ち消えの可能性も否定できません。頑張ってもらわないと。そのためには、批評の精神で発破を掛ける・・・そのくらいの気概がなくてどうするのだ。ちょっと熱くなってますが、こういう話はなかなか誌面では書けないもので・・・・。
Posted at 2012/03/26 23:48:19 | |
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