
試乗会ラッシュが続いている。どちらかというとヨーロッパからの輸入車が隆盛で、日本車は明日乗る予定のLEXUS ISや月末のアコードハイブリッドがクラウン、アテンザ以来久しぶりのセダン系となる。軽自動車とハイブリッドとEVとコンパクトカーとミニバン以下ちょぼちょぼ……軽が200万台/試乗シェア40%に迫るという状況を”ガラパゴス化”の一言で片づけたくはない。
ジャーマン・プレミアム3にVWを加えたドイツ車を中心とする輸入車は、500万台を回復した日本の新車販売(登録車3,390,294台、軽自動車1,979.447台の計5,369.721台。それぞれ自販連、全軽自協調べ)に対し、243,733台に留まり市場占有率は5%にも満たない。OECD(経済協力開発機構)加盟先進国では異例ともいえる少なさ。
この10年で日本、アメリカを抜いて世界最大の新車市場に急成長し、自動車保有でもこの数年で日本を追い越し世界第2位に登り詰めた中国ばかりに眼が行きがちだが、日本は依然として世界第3位の自動車保有と年間販売台数を誇る。しかし、その内訳は進化の結果か頽廃の末かデフレの因果かはたまた教育に原因が求められる"若者のクルマ離れ"と活力を失いつつある少子高齢化社会の必然か。
理由はひとつじゃなくて、それぞれが複雑に絡み合った結果だろうが、産業としての日本の自動車は地球規模では一貫して拡大成長を続けてきている。2012年度の日本メーカー8社の世界生産は24,680,156台。9,436,015台の国内生産の1,5倍を国外で生産し、国内生産の内4,458,006台は輸出に向けられた。
日本の自動車産業にしてみれば、国内市場は全体の5分の1強(約20%)であり、台数の面でも収益の面でも8割が海外というのがリアルな比率。当然のことながら比重は外向きになり、クルマ作りもかつての日本向けに開発されたモデルを海外向けにアレンジする段階から、量的に大きい海外に企画の軸足を移し、グローバルプロダクトの中から日本市場にも適合できるクルマを一部抱き合わせの形で供給する。
今では、依然として頼りにしている北米市場には国内目線のメディアは見たことも触ったこともないクルマが進出している日本メーカーすべてに驚く数で存在してる。欧州アジアは比較的日本市場との抱き合わせ企画が成立しやすいのでオーバーラップする数も多いが、それでもこんなのあったのね?的な日本車が多い。発想を逆にすれば、日本には外国の日本車ユーザーが知らない日本独自の変わったクルマが存在する。
国内シェア4割に迫った軽自動車なんかは、もうここまで来たら非関税障壁だなんだと日本の市場に対応できない欧米メーカーの言い訳の種に据え置かないで、逆転の発想で"省資源"の切り札として欧米先進国にプレゼンし輸出攻勢を掛けるくらいで丁度いい。現行の法定最高速度が改正施行された1962年6月17日からすでに半世紀を超え、都市や道路のインフラもクルマのハード/ソフトもドライバーの経験値やスキルも飛躍的に向上しているのに、前例主義で責任回避を図る行政官僚の時代後れの頭こそがガラパゴスの元凶だ。
現状に照らせば軽やミニバンやハイブリッドが市場の大半を握るのは当然だろう。現実が重くのしかかるその一方で、メディア空間に溢れる外国車の情報は5%未満の市場シェアとはまったく釣り合わない。日本メーカーがサバイバルのために海外市場に注力し、日本市場を中心に考えた魅力的なクルマ作りにマンパワーを傾けられなくなっている間に、巧みに情報戦を仕掛け、軽とミニバン市場になっちゃったと嘆いている隙間を補って余りあるコンテンツを提供し続けたのがジャーマンプレミアム。さすがはプロパガンダの効能を歴史的に知る国民性は抜け目ない。このところの販売量とはまったく釣り合わない情報の質と量は、逆に日本メーカー目線だとどういうことになるのだろう?
先々週のVWゴルフ7から昨日のBMW3シリーズ・グランツーリスモまで。間に日産Jの協業プロジェクトで捲土重来を期す三菱のeKワゴン/カスタムを挟んだ先週末に乗ったメルセデスベンツEクラス。これ何なんだ? 初見は3月のジュネーブショーだったが、大規模とはいえマイナーチェンジということで軽く見てしまった。
先月の発表でもパワートレインの充実によるラインアップの豊富さ、顔とリアビューとともにボディの面と線までも改め、改良点は2000以上に及ぶとアピールされた。ハイブリッドが加わり、ディーゼルに改良が施され、セダン最速を標榜するE63 AMGの4MOTIONが彩りを添える。それぞれに見るべきところ、語るべき内容が深く存在していたのだが、この新しいEクラス最大のハイライトはベーシックラインに位置するE250。取材してみて自らの不明を恥じた。
この2ℓ直4直噴ターボはもっと詳しく紹介されるべきだろう。配布された技術情報サマリーには世界で初めて成層燃焼リーンバーンとターボチャージャー、排ガス再循環装置(EGR)を組み合わせたBlueDIRECTであると記し、あとはスペックを簡単に付け加えているだけ。
ところがこの2ℓ直4ターボ、まずはボンネットを開け、エンジンカバーを剥ぐってみて、改めてそのシリンダーヘッド/ブロックのコンパクトさに「おっ!」となった。ひょっとしてこれA180の1.6ℓターボ(270型)と同じブロック?そのとおりでボアもボアピッチも同じ縦置きアレンジで、ストロークを1.83㎜拡大して1991㏄を得る。
注目は成層燃焼をターボ過給下でEGRとともに実現する点。これにはスプレーガイド式成層燃焼プロセスという最大200バールに達するシステム圧力環境のmm/secレベルの圧縮行程において、最大5回の燃料噴射を可能にするピエゾインジェクターがコア技術となる。ピエゾインジェクターは、コモンレールディーゼルの開発過程で採用に至ったアイテム。
ダイムラーAGは、かねてからHCCIと呼ばれる予混合圧縮着火エンジン「DIESOTTO(ディゾット)」の研究に乗り出し、究極の内燃機関と位置づけているが、このE250用ユニットはそこに至るプロセスに位置する。これに1㎜/secあたり最大4回の放電が行える「高速マルチスパークイグニッション(MSI)」を組み合わせることで、パワーと燃費(15.5㎞/ℓ)の高次元バランスを実現している。
フルモデルチェンジから4年目というタイミングでの大幅な改良。このタイミングで何故? メルセデス史上稀なアクションの理由は周辺環境の急速で激しい変化と無縁ではないだろう。2015年から施行される燃費基準未達のペナルティは企業としての存続に関わる一大事。プレミアムブランドとしての存在感をアピールしつつ時代の要請にもしっかり応える。この直噴ターボは来年からF1GPに導入される1.6ℓV6ターボにも応用されるのだろう。合わせてE400ハイブリッドのERS(エネルギー再生システム)の技術展開との関連性を訴求できれば言うことはない。
いかなる時もシャシーはエンジンよりも速く。かつてメルセデスの走りの個性を端的に表わす言葉が聞かれなくなって久しいが、E250/アバンギャルドは適度なパワーとともに懐の深いストローク感のある乗り心地と穏やかで安心感のあるハンドリングに際立つ味わい深さを印象づけた。
個性豊かなバリエーションが揃った今度のEクラスの技術展開を見ていると、来年から 1.6ℓターボ+ERSへと大幅なレギュレーション変更が行われるF1GPとの繋がりを深読みしたくなる。メルセデスは来年から新企画のターボ+ERS導入をすでに公表している。なんかね、先手を取ってブランド構築の重要なポイントといえるストーリーの既成事実化や箔付けをしているような……。
コモンレールの実用化はデンソーによって始まり、ハイブリッドモーターアシストはもちろんトヨタが20年前に決断した虎の子技術。それらが、結果がすべての世界最高峰のコンペティションの場において別のストーリーに書き換えられそうな勢いだ。ここで遅れを取るのは後出しジャンケンに負けるようなもの。
ホンダはすでに2015年からマクラーレンとのジョイント参戦を発表したが、今回はトヨタこそがそれらに先んじて参戦し、あるいはLEXUSをチームタイトルにするなどして闘いを宣言した方が通りが良い。
相変わらずではありますが、普通じゃないアングルから、今度のメルセデスベンツEシリーズは『ヤバイ』と強く思った。後顧の憂いのないよーに。トヨタはのんびり構えていられる時ではない。
Posted at 2013/06/12 23:54:41 | |
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