「楽しい軽自動車」とはなんだろうか。
かつて、スズキの会長である鈴木修氏は
「軽は貧乏人の車だ。スポーツカーは要らない」と言ってのけ、一部から大きな批判を受けた。
けれど、そんなスズキは、(誤解を恐れない表現をすれば)「貧乏人に相応しい」実用性以外のあらゆる全て―車に不可欠な何かも含めて―を犠牲にした車ばかりを作っているわけではないようだ。
ダイハツが、タントの背をさらに高くして、実用性ばかりを高め、運転する楽しさというものを完全に捨てた車を発売した。ウェイクだ。
もちろん、スタビライザーがどうだとか、横転対策はとっていると主張しているようだけれど、同じ対策をタントにとっていないからこそ「タントに劣らない安定性」と謳えるという、ただの言葉遊びでしかない。結局、縦長の車が本当の意味で安定した車になんて、物理法則上なれるわけがない。
もちろん、ダイハツにはコペンがある。あるいはホンダにも、S660の発売予定がある。
けれどもそれは、結局は「おもちゃ」でしかない。
2シーターのクーペスタイルのオープンカーを毎日の買い物や送迎やあらゆる全てに使うことはできない。もちろん、あらゆる全てを犠牲にすればコペンやS660の1台で生活できるかもしれないが、車を「車」として使い、便利なカーライフを営むためには、少なくとももう1台車を持って、コペンやS660は遊びのためのセカンドカーと割り切るのが普通の考えだろう。
一方のスズキは。
確かにスポーツカーは作っていない。会長の言う「貧乏人にスポーツカーはいらない」という言葉通りだ。
けれどもその一方で、2015年3月に発売される車がある。
アルトターボRSだ。
ベースとなっているのは本日12月22日に発売された新型アルトで、この1970~1980年代くらいの軽自動車を彷彿とさせるようなノスタルジックなデザインは賛否両論あるが、個人的には嫌いではない。
そして、名前の通り、ターボエンジンを搭載している。
今、軽乗用車のターボは、巨大化に巨大化を重ねた背の高い軽自動車を、なんとか人並みに走らせるためだけに設定されている(コペンという例外はあるが)。
けれど、「楽しく走るための」ターボが、再び復活しようとしている。
旧型アルトのような、どうともつかないような無個性なデザインではなく、独創的なデザインで。
コペンのような、実用性を失ったオープンカーではなく、きちんと4人乗れるハッチバックとして。
さらに、ベースとなるアルト自体、最新のプラットフォームを採用し、軽量化し、そして空気抵抗の低減のために全高を下げている(今の軽自動車の流れに逆行するが、よくやったと言いたい)。
こうして生まれたのが、まさしく、「貧乏人」のための楽しい車だ。
スポーツカーとはいえないだろう。最高の車でもないだろう。
けれど、免許をとりたての若者が、あるいはこのご時世に十分な収入を得られない人々が、それでも運転を楽しみたいと思う時、この車があればどれほど人生が豊かになるだろうか。
鈴木修は貧乏人にスポーツカーはいらないと言い、大きな批判を受けた。
けれど、スズキは「貧乏人」に楽しくて実用的な車を提供する、唯一のメーカーなのではないだろうか。
Posted at 2014/12/22 17:20:38 | |
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