12月16日の日経にもあったが、直噴エンジンのPM2.5が問題になっている。 我々は中国の大気汚染の画像を見て、あのように視界が悪くなっているのはPM2.5のせいで、日本では大気が透明だからPM2.5など存在しないと思い込んでいないだろうか?
この
エコカー技術の記事は注目に値する。
原典は
こちら
1.3Lクラスの3車で実験しているが (おそらく1197ccの欧州車のエンジンはVW製 TSI系と思われる)、
(1)粒子個数に関して: 10万キロ以上走った古い日本製ポート噴射の車と比べても、日本製直噴車は10倍、VW1.2Lエンジンはなんと50倍のPM2.5を排出
(2)粒子総重量に関して: サイトの中にははっきり書かれていないが図2「X軸の目盛」から判断するに、同じく日本製ポート噴射の車と比べると、日本製直噴車は約90倍、VW1.2Lエンジンはなんと約150倍のPM2.5を排出。
ガソリン消費量を減らし、燃費を3分の1にしたところで、これだけのPM2.5を出していれば、PM2.5の絶対量も軽く昔のポート噴射の車を越えてしまう。
PM2.5の人体に関する影響に関しては
この産総研のプレゼンに疫学的見地からの多くの情報がある。 最後のまとめのスライドにある
「日本では、行政、研究者、市民、すべてが大気汚染=NOx
という前提で議論してきた。しかし現在もっとも問題である
大気汚染は、・・・粒子状物質である。」
という箇所が注目される。 しかし日本の
PM関連の環境基準は「... 車道その他一般公衆が通常生活していない地域又は場所については、適用しない。」という注意書きがあり、車道には適用されないことになっている。 車道の空気を吸い込んでいるドライバーはどうなるのだろう・・・
最近日本では、新しい車ほど善であり、古い車はエコではなく、環境に良くないから重課税をされても当然だという風潮がある。 ところが・・車一台製造するのに莫大なCO2が排出されるだけではなく、実際には古いポート噴射ガソリン車はPM2.5に関しては今の直噴より遥かにクリーンと言える。
しかし、今車を売るには経済性・燃費は最高に重要なポイントの一つであり、近時は燃費30km以上が当たり前になってきている。 メーカーとしては競争に負けない為にとりあえず直噴技術を使いたくなってしまうのだろう。 直噴にススが多く汚れ易いのは三菱のGDIでわかっていた。 もちろんGDIと比べると最近はエンジンの不調は遥かに減っているかもしれないが、たまりやすいススの為にオイルが劇的に汚れる等の本質的症状は今も変わっていないようだ。
最近RECS等エンジン内洗浄を施す車が増えているのはその効果を体感し易いエンジンが増えているからだろう。 車のメーカーにしてみると、距離を走るとだんだん不調になってくれた方が、また新しい車が売れて都合がいいし、直噴エンジンはまだまだシェアを上げていくような気がするが、同時に喘息や呼吸系・肺の病気で苦しむ患者を増やしている可能性があることを十分認識しておくべきだろう。
(12月27日加筆)
ストイキ直噴はリーンバーン直噴よりPMが少ないとされるが、今回の実験では(注4)に「日本では自動車からの粒子に関する排出規制は粒子重量に関してのみであり、個数についての規制はありません。ガソリン車からの粒子排出量は、吸蔵型NOx還元触媒を装着した希薄燃焼方式(リーンバーン)の直噴ガソリン乗用車のみ規制されており、本研究の対象車両など最近の直噴ガソリン乗用車は規制の対象とはなっていません。」とあるので、利用された車体はリーンバーンではないと考えるのが妥当だろう。
幹線道路の近くでのPM分布に関する研究もある これを見ると皇居一周マラソンとかが本当に体にいいのか心配になる。
PM2.5に関する環境省のQ&Aにもある通り、PM2.5濃度が高い場所で避けるべき運動は「マラソン大会のように呼吸器系への過度の負担が長時間続くような運動」と明記されている。 現状幹線道路から離れた場所でも環境基準を
超過する例が報告されている状況と、上記分布に関する研究を併せ読めば、幹線道路沿いにマラソンや負荷の高い自転車競技を行うことは、呼吸器系・循環器が弱い方・子供等はいうまでもなく、一般成人でも避けたほうがいいのではないかと思ってしまう。
ちなみに東京におけるPM2.5の数字は
ここからダウンロードできる。 皇居ランナーのコースに近い日比谷の計測地点A201では、2012年の平均は15.3/35.9ug/m3 で日本の環境基準(当然より厳しいアメリカの基準も)守れていない。
私は決して反原発論者でもないし、環境保護論者でもない。 単なる一車好きな人間なので、これだけの研究結果を見ても車に乗るのを止めることはないと思う。 ただ今後は車の換気を「外気取り入れ」モードにしておくのは避けたくなった。
PM2.5に関しての規制を日本より圧倒的早期に始めたアメリカにおけるPM2.5の環境基準設定に至るまでのUS EPA(米国環境保護庁)の考え方を紹介したい。
「近年、環境中のPMの短期間および長期間曝露が関連する健康影響に関する疫学研究が数多く報告されるようになってきました。これらには、呼吸器症状の増加や肺機能の低下、呼吸器感染抵抗性の減弱、呼吸器系および心血管系疾患の悪化による救急外来受診や入院の増加、そして、その結果として授業欠席、欠勤日数および活動制限日数の増加、さらには死亡の早期化(早死)と増加、が含まれています。さらに、これらの影響を受けるリスクの高い感受性の高い集団、とくに小児ならびに成人の喘息患者および、呼吸器疾患や心血管系疾患をもつ高齢者、小児、の存在も注目されています。
しかも、これらの健康への悪影響が、米国の現行のPM10の基準が満たされている地域でも観察されていることから、US EPAは、現行のPM10基準では公衆の健康が十分に保護されないという証拠が得られたと考え、この基準の改定が必要であると判断しました。そこで、 PM10基準を一層厳しくするか、あるいは微小粒子と粗大粒子との化学成分の根本的な相違を認め、 PM10のなかの微小部分について新たな基準を設定するかどうかが課題になりました。
大気中の粒子は微小粒子と粗大粒子の二相性を示し、最小質量を示す粒径は一般的に、1 μmと3 μmの間であり、このサイズ範囲内で特定の粒径を選ぶのは主として政策判断とされており、US EPAはPMのサンプリング・カットポイントとして2.5 μmを選択しています。
そして、成分を比較すると、微小粒子に健康への悪影響をおよぼす物質(硫酸塩、硝酸塩、元素状炭素、金属、有機化合物など)が多く含まれていることから、 PM10の基準を厳しくするのではなく、 PM10の微小部分であるPM2.5について新たな基準を追加することによって、PMによる健康リスクに対する保護を強化するほうが合理的であると判断し、PM2.5の環境基準を設定することになりました。」
(12月29日加筆)
直噴に積極的なのは、VW・アウディ・マツダといったところか・・ それ以外のメーカーはポルシェ・フェラーリ含め、技術が無いと言われない程度に、また直噴関係の画期的技術が発見された時の為に研究しつつラインナップに加えているという感じ。 アルファのJTSとかもおっかなびっくり採用。 アメリカではベンツのCGIやBMWのN54でさえCarbon build upの問題が報告されている。
BRZの直噴はクラウン等に使われているD-4Sで、筒内直噴とポート噴射を組み合わせたシステムだったが、(一説にはECUの書き換えでポート噴射の比率を上げて「対策」が可能らしい)、レヴォーグやレガシィのDIT直噴はポート噴射はないようだ。
(Wikiより)通常のポート噴射エンジンでは、オーバーラップによる吹き返しなどでマニホールド~吸気バルブ間に堆積したカーボンを、噴射された燃料が洗い流し、混合気と一緒に吸い込み燃焼する。しかし、直噴エンジンの吸気バルブは空気しか通らない為、マニホールドからバルブまでの間で付着した汚れが落ちることは基本的にない。吸気側への燃焼ガスの吹き返し(主にオーバーラップ時に発生)により、マニホールド~吸気バルブ間にカーボンが堆積する(文頭写真参照)。 燃料添加剤やハイオクガソリンで謳われる吸気マニホールド~バルブ間の洗浄作用も、直噴エンジンであるが故に意味がない。この為吸気系にカーボンがより堆積し易く、渦流生成用バルブにカーボンが付着してバルブが故障し、必要な渦流が発生しないため燃料がうまく空気と混合せず異常燃焼を起こしたり、点火プラグが燻るなどしてエンジン不調に陥る事例もある。 また、バルブとバルブシートの当たりが悪くなり、極端なパワーダウンなど、燃焼室が密閉されないことで発生するトラブルも起こりうる。
Wako'sのRECSのウェブサイトの写真が衝撃的。 このRECSはどうも本音が三菱GDI・トヨタの旧D-4用に作ったものらしく、今走っている直噴の車は2年おきぐらいにやった方がいいだろうし、精神的にもちょっと安心できそう。
カーボンの絶対発生量を抑えこむための一技術として、コストのかかる超高圧噴射・ピエゾ直噴が出てきているが、これらを利用したエンジンの経年変化に注目したい。 いよいよ直噴が採用されるF1や高級車で最先端技術を使った直噴システムを採用・研究することで、より完全燃焼が実現され、カーボンやPM2.5の発生が抑え込まれる時代は来るのだろうか?
Densoは2013年6月に2500気圧の世界最高圧のインジェクターを発表したが、実は2005年に
1800気圧のピエゾインジェクターを発表している。 2005年からすでに8年経過していて、いまだポート噴射よりもPM2.5の数字が高いというのは、素人的には直噴方式には根源的に問題があるのではないかと思えてならない。
リスクの絶対量という意味で考えると、24時間吸っている空気の平均汚染度合いも重要ではあるが、閉鎖空間での汚染例も知っておいた方がいい。 喫煙可能な喫茶店のPM2.5は400ug/m3に達することもあるという。 車の中でタバコを吸った場合は1000ug! 1時間居るだけで年間規制値の1日分のPM2.5を楽勝で「摂取」できるレベル。 中国の北東部・上海・北京で300ugを超えてニュースになっているが、これは町全体が喫煙喫茶店になっているのと同等と考えると想像しやすいかも知れない。 ただし肺疾患・喘息の人は喫煙喫茶店に入らないことでリスクを避けられるが、一般大気汚染は避けられないところに大きな問題がある。 空気を吸わないという選択肢は無いので・・・
では車の中ではどうすればいいのか? ある方が各メーカーに「フィルターでPM2.5を除去できるか」と聞いてみてくれた。
その結果がこちら。 以外にも日産のフィルターに関するコメントが悪くないのが印象的。 でもやっぱり一番の根本的解決策は排気がよりクリーンになることですね。 (追記: 1月14日ブログにもあるようについにデンソーが内気循環にすれば5分で99%のPM2.5が除去できるフィルターを開発したそうだ)
(1月19日追記: ある自動車メーカー技術者が上記レポートについての感想を述べていたので、関連部分を追記。 直噴エンジンによるPMの増加が、開発技術者にはわかっていた筈なのに、売上増加・燃費向上の為に環境に悪いと知っていながら発表・推進したことは技術者としてのGood Faithに反するとの論旨。)
「最近の低燃費競争が、ともするとJC08、欧州EUモードといった公式試験のカタログ燃費競争に終始しているように感じるのも危惧する所です。 燃費でもカタログ燃費と実走行燃費のギャップが問題となっていますが、排気のクリーン度は燃費以上に実走行とのギャップが問題となります。
触媒が100%近いエミッション転換率を持つ公式試験モードから、少し外れて急加速をしただけで100倍、1000倍のエミッションを出してしまうクルマも決して無いわけではありません。 エンジンでのPM生成パターンから考えても、今回試験された車種についても、PMの排出はオフモード域でより厳しくなり、さらにノン過給(NA)よりも過給エンジンがさらに厳しくなるはずです。
1990年代のカリフォルニア州ZEV/LEV規制議論の中で標準の試験法でクリーン度を判定するだけでなく、リアルワールドでのクリーン度が大切との議論が、米国、日本の自動車エンジニアの間や規制スタッフの間で盛り上がりました。
リアルワールドの隅から隅までの評価ができるわけではありません。その議論のなかで、最終的にはグッドフェース (Good Faith=規制が無い世界でも各技術者の信条・善意に基づき、悪いと思われる技術は自主的に採用しない) との考え方がでてきました。 試験法でさだめられていなくとも、試験モードから外れたところ(オフモード)で急激なクリーン度悪化を招くような技術やチューニングはやめようとの考え方です。
今回のレポートは燃費や通常の排気クリーン度を計測する日本の標準試験法JC08モードに準ずる試験と書いてありましたが、オフモードのPM排出がどうなっているのか非常に気になっています。グッドフェースとしてクリーン性能の設計をしているかどうかの疑問です。
燃費も走行条件、環境条件により変わりユーザー平均としてのリアルワールド燃費を求めることは困難です。 しかしギャップがあることは間違いなく問題で、JC08や欧州EU試験法では評価されない夏のエアコン燃費、冬のヒータ燃費改善のためにある種のグッドフェースの考え方が必要だと思います。
クリーン度は燃費とは異なり、黒煙を出してはしっている整備不良車や故障車を別にすれば、通常はユーザーには判別できるものではありません。 メーカーとしては、グッドフェースでやったことを誓約・公表し、公式試験をもって認可・認証を受けるやりかたもあります。 意図した不正や、グッドフェースでなかったことが発覚すると、ペナルティーを科するような制度も必要かもしれません。
中国のPM問題を見ると、単なる規制強化だけではダメで、こうしたリアルワールドでの悪化、さらに長期間使用時の性能悪化まで防ぐ、リアルワールド、リアルライフでのグッドフェース設計が求められるようになるように感じました。」
実に説得力がある。 中国でVWは20%近くのシェアを持ち、VWと提携している中国の第一汽車も大々的に直噴ターボを導入していくらしい。 売れればそれでいいのか??と問いかけつつ、Good Faith好きな消費者としてこの問題は継続的にフォローして行きたい。
(2015年10月追記)
ディーゼル車とナノ粒子の関係もそのうちまとめてみたい。 コモンレールインジェクションの性能があがれば上がるほどナノ粒子が出やすくなるというディーゼルの根源的な問題に関する研究がどのぐらい進んでいるのかが気になる。 特に国立環境研究所では,ナノ粒子の多いディーゼル排気やナノテクノロジー由来のナノ粒子の健康影響の解明のため,2005年に
5階建てのナノ粒子健康影響実験棟を建設し,ナノ粒子の健康影響の研究を行なっているらしい。 直噴によるPM2.5の研究と併せてフォローしたい。
DPFを装着するとPM2.5がポート噴射式のガソリン車レベルまで減ることは前記の国立環境研究所の研究で示されているが、ナノ粒子はこのDPFフィルターを通過してしまうほど細かいため、一部は人の肺の奥深くまで入ってしまうことが危惧されている。