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2010年12月18日

使用前/使用後(MAZDA SKY-ACTIVEの生原稿)

先日のドリクラ@三角で、H健さんからマツダのスカイに元エンジニアとして非常に興味あり、と聞きました。もしかしたらここもチェックしてもらえるかな……ということで、carviewにアップした生(原稿)をどっとアップします。長いので、暮れの忙しい最中に読めるかよ……お叱りはごもっともですが、お手空きの時にでも是非。誤字脱字については笑って許して。時間を見て写真やパワーポイントなど貼れたらいいな…と思っとります。


MAZDA GLOBAL TECHNOLOGY FORUM BERLIN&DESIGN WORKSHOP MILANO
2010.8.28/30
carview版『SKYテクノロジーのすべて』by伏木悦郎
■“元プロパガンダのメッカ”からの情報発信? 
2010年8月28日は、日本の自動車技術史の片隅に記憶される1日となるに違いない。今思うと、またとない機会に立ち会った感慨がふつふつ湧いてきて、そこでの見聞をいかに伝えるべきか……はやる気持ちを抑えるのに苦労している。

ブランデンブルグ門の旧東ベルリン側、ウンター・デン・リンデン大通りの始まりにある名門ホテル前を出たバスは、ベルリン市街を南東に下り、アウトバーンA100号線経由で1時間足らずでStudio Berlin Adlershof に着いた。旧東ドイツ時代の国営放送局の本部があったこの一帯は、東西統一後の積極的な開発の末、現在ドイツ国内有数のテクノロジー・科学技術クラスターに成長しているという。

マツダ・グローバル・テクノロジー・フォーラムと銘打ったイベントは、その名の通り世界15ヶ国(日本を含む)から総勢38人のジャーナリストを集め、6日間にわたって開催された。1日平均6人強と人数が絞られたのは、開発陣がTPV(Technology Prove-out Vehicle=技術検証車)と呼ぶ試乗車が計4台と限られたからだ。

「マツダは、年間で約120万台を生産し、新興国を含む130ヶ国以上で販売を行っている自動車会社です……」フォーラムの開催にあたってのスピーチで金井誠太専務取締役が触れたように、マツダが輸出比率8割超となるグローバル企業になって久しい。参加者が15ヶ国に及んだのも、その内日本人が5名に留まったのも、そもそもベルリンが開催地に選ばれたのも、日本国内と海外の市場規模の相対関係からすると納得が行くところが多い。冷戦時代のプロパガンダの発信地が、いまや豊かな歴史とともに欧州随一の最先端情報の発信の地となっている。欧州マツダならではの状況設定センスというべきだろう。

その日は週末の土曜日であり、欧風のビジネスアワーの概念ではoff日。日本チーム5名のスケジュールは、翌週(30日)に別イベントとして開催されるミラノでのデザイン・ワークショップとのダブルヘッダーを考慮した結果だが、情報発信のプライオリティが必ずしも日本にはなく、日本もグローバル市場の一部として位置づけられている。もちろんエンバーゴによって公平は図られたが、そういう時代だという現状認識は欠かせない。

フォーラムの主題は『SKY(スカイ)テクノロジー』に尽きた。2007年に発表されたマツダの技術開発の長期ビジョン『サステイナブルZoom-Zoom宣言』を基に、翌2008年には「グローバルに販売するマツダ車の燃費を、2015年に2008年比で30%向上させる」コミットメントを発表。昨年の東京モーターショーではSKYコンセプトの名でガソリン/ディーゼルエンジンとオートマチックトランスミッションを展示した。今回はその実車版ということだが、中身は予想をはるかに上回る濃厚な味わい深さに満ち、すでに市販化まで秒読み段階という仕上がりを見せていた。

■キーワードはブレークスルー。基本に立ち返った常識破り
旧東独国営放送(スタジオ・ベルリン・アドラースホフ)の敷地に入ったバスは、ゆっくりとスタジオ棟が立ち並ぶ構内を進み、白い4台のアテンザ(マツダ6)が並ぶその向いのスタジオA/Bの手前で止まった。招き入れられると天井の高いTVスタジオらしい屋内に、プレゼンテーション用のラウンドテーブルがあり、カーテンの向こうに一度に頭に入り切らないほどの情報の種が展示されていた。カットモデルと技術解説用のフリップボードが、これでもか…と張りめぐらされている。

SKY-G(ガソリンエンジン)の圧縮比は14……です」金井専務に続いて技術概要の説明を始めた藤原清志執行役員(商品企画&パワートレイン開発担当でSKYプロジェクトの推進役)は、我々の反応を探るような眼差しでひと呼吸置いた。今回SKYコンセプトの具現化として用意したTPVには、それぞれSKY-DRIVEと称される6速オートマチックトランスミッション(AT)に加えて、次世代6速マニュアルトランスミッション(MT)仕様を用意している……云々に続き、「SKY-D(ディーゼルエンジン)は2.2ℓのコモンレールの2ステージターボで、圧縮比はジュウヨン(14)…………」さらに念を入れるような口ぶりで溜めを作った。そして「驚きがないようで……」しばし目を我々に向けて泳がせてから、反応の薄さに少し顔を曇らせた。瞬間、僕の頭には三菱のASX用1N1型コモンレールディーゼル(圧縮比14.9:1)が過(よぎ)ったが、中身を知る前に数字だけで踊るような子供ではない。多くの読者も「それがどうしたの?」納得の行く説明を求める気分で前のめり気味になったはずである。

SKYテクノロジー、とりわけエンジンで追求されたのは、理想の内燃機関への挑戦だ。エンジンの熱効率改善で常にテーマとなる排気損失、冷却損失、ポンプ損失、機械抵抗損失の4つのロスに着目。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンが相互に劣っている要因に正面からメスを入れることで、画期的な内燃機関を実現するというユニークなアプローチを試みている。なにやら究極の内燃機関といわれるHCCI(Homogeneous Charge Compression. Ignition:予混合圧縮自己着火機関)に至る道筋を予感させるが、残念ながら話はそこまで飛んではいない。

ひと通りのブリーフィングの後、まず技術解説を聞く組と即試乗に移る組に分けられた。僕は前者で、いきなりマツダの隠し弾的鬼才と聞き及ぶ人見光夫パワートレイン開発本部長の濃厚なレクチャーに耳を傾けることになった。そこで脳味噌から大汗を吹く目に遇うのだが、そこからリポートを始めてはいかにも話が重すぎる。詳細はスキップして、まず走りの印象を述べて、それを元に解説へと溯ろうと思う。

4台のTPVは、ドアミラーの色分けで識別できるようになっていた。黄色がSKY-GとSKY-DRIVE、橙色がSKY-Gに次世代6MT、青色にはSKY-DとSKY-DRIVEが載り、緑色はSKY-Dに次世代6MTである。ドイツのナンバープレートが違和感なく収まるルックスに一瞬気が緩んだが、もちろんふつうのマツダ6(アテンザ)ではなかった。

■4台のTPVは、すべて右ハンドル!!
僕がまず最初に手にすることになったのは橙色。SKY-G+6MTの組み合わせである。プレゼンテーションで「今回の試乗車は、すいませんすべて右ハンドルです」藤原さんが申し訳なさそうに断わった通り、ハンドルは右だった。

アウトバーンで右ハンドルを試すのは07年のGT-R以来2度目のことだ。90年代にスペイン・グラナダあたりをオペル・ベクトラ、数年前にメルセデスGLでフレンチアルプスを巡った。それと合せても、欧州で右ハンドルは都合4回しか経験していない。

一見したところでは分かりにくいが、このアテンザTPV、間近で見るとただならぬ雰囲気がある。ヘッドランプまわりはリベット留めの切り貼りだし、フェンダーアーチもそう。強烈なのは、Aピラー付け根からの前方50㎜ほどがやはりリベット留めで継ぎ足されている。その分ホイールベースが延長されたその訳は後ほどである。また、ボンネットフードは歩行者保護規制を考慮して嵩上げされ、より現実的な対応が試みられていた。

簡単に言うと、アッパーボディは現行アテンザ(マツダ6)を流用するが、パワートレイン、シャシーなどのプラットフォームはSKYコンセプト仕立ての次世代型。それが収まるようにボディをアレンジしている。これを『ハイブリッド(混血種)』と呼んだら、余計に混乱を深めるだけかもしれない。

ドライバーズシートに収まると、「エアバッグは展開しません、ホーンはダッシュボード右コラムのボタンで、ウィンカーは自動で戻りません、それからESCは非装着です」緊張感を誘うコクピットドリルをナビシートのエンジニアから受けたが、僕はいつもの作法通りにゆっくりと、アイドリング近傍でクラッチをつないで様子を見るいつものスタイルを貫いた。

低速から十分なトルクが湧き上がり、パワフル!といったパンチや切れ味はそれほどではないが、軽快なタッチでしっかりスピードを高めて行く。欧州に展開されるマツダ6のガソリン仕様は2ℓPFIのMZR。今回のSKY-Gはこれと同じ排気量で仕立てられている。

実は、今回の取材の直前に日本仕様のアテンザ25Sを試していた。2.5ℓのMZRに5速ATの組み合わせは「マツダの4発+ATって、こんなにスムーズでスポーティだったかな?」久しぶりに乗ってその素性の良さを再認識していた。ただ、反面215/50R17タイヤを履く足回りは妙に固く、パワートレインとのバランスという点で洗練に水を差していた。

スタジオを出て、しばらくシフトストロークを従来より5㎜詰めた45㎜とし、軽くスムーズで精度感に留意した6速MTを味わいつつ、低中速の実用領域の確認に集中した。今回のTPVは全車225/50R17サイズとややワイドなダンロップSPスポーツを履いていた。いろんな意味で開発陣の自信が読み取れるセットアップ。こういう場合ファーストインプレッションは非常に大事なものなのだが、印象的だったのはフラットで粗さを巧みに排した乗り心地だった。

数分走るとアウトバーン。しばらく80㎞/h、120㎞/hの制限区間が続き、そこで一般的な高速インプレッションを確かめた後、さあ待望の速度無制限区間である。

■技術検証車の段階でこの走りのクォリティ
 右ハンドルで右側通行を走る。逆パターンは日本でも珍しくないが、かつてスペインとフランスで味わった経験から言えば、道路条件がタイトな環境では絶対に薦められない。逆に言えば、システムとして優秀な道路環境を素性の良いクルマで走るWinWin関係では、案外ストレスはかからない。アテンザTPVは、アウトバーンでGT-Rを走らせた時に感じたのと同様の高い走りの質感を備えていた。

ロードノイズについては完全にTPVの状態。要改善だが、この段階では不問に付したい。それを除けば、明らかに軽量化の効果が感じ取れる身のこなしの軽さ、ステアリングのリニアな応答と据わりの良さ、切れ味鋭く官能的にトップエンドを目指す…というのとは少し違う、比較的低い回転域からしっかり仕事をこなす感覚が印象的だ。気がつくと220㎞/hを超え、その際の安定性、安心感はすでに相当なレベルに達している。

2ℓで165ps、210Nmほどのパフォーマンスを得ているという。その数値はほとんど国内仕様の2.5ℓMZRに並ぶレベル。現状では吸排気音などの官能性能の仕上げや、最高速域での加速性で5000rpmから先が伸び悩むといった傾向に課題を残している。前者は静かだけど味わいを欠くというホワイトノイズ系なので、魅力的な音作りが今後の開発で重要なテーマとなりそうだ。後者は未だ手つかずの空力性能がファクターの可能性が高いので次世代モデルに期待したいが、SKYコンセプトの中核を成すパワートレインやシャシー/プラットフォームのポテンシャルはすでに熟成段階を迎えていると思わせた。

帰路はSKY-G+SKY-DRIVE(6速AT)に交替するプログラム。発進のスムーズさはトルコンATならではといった感じだが、ローンチ直後から多板化させたロックアップクラッチをつなぐ一方で、ダンパーを柔軟な方向に改善してN.V.Hなどのネガを潰していく。欧州におけるマツダ6のAT比率は、ガソリン仕様で約10%、ディーゼルについては6速MTしか設定されていない。日本では97%がAT、アメリカでも70%で、グローバルでみても約50%という現実を踏まえると、このあとのSKY-D用にもSKY-DRIVEを設定している点は示唆に富んでいるといえるかもしれない。

欧州では近年ディーゼル+AT(DSG)の比率が上昇機運にあり、ニーズは高まっている。またSKY-Dは、Nox の後処理にコストを掛けずに世界中の厳しい最新排ガス規制をクリアする(別項で詳報します)安価で画期的なパワートレインということで、日本国内への展開にも非常に期待が持てる。

SKY-Gを搭載するアテンザTPVは、往復約100㎞の今回の試乗コースにおいて、フラットトルクを背景にした思いがけない低中速域のフレキシビリティ、迫力はないがしっかり結果は残すしたたかな高速巡行性能、そして軽量化の成果が実感できる乗り味などが重なり合って、「あれっ? 何かこれって凄くない……?」後からじんわり感慨が湧き上がる、これまでにない不思議感覚を備えていた。
では、その中身はいったい何だったのか? 工学的素養を試されるけっこうハードな内容だが、しっかり付いてきて欲しい。

■高圧縮比化の14:1(SKY-G)と低圧縮比化の14:1(SKY-D)
SKY-Gで明らかにされたディテールは多岐にわたる。そのスタートラインに位置するのは、やはり14:1というプラグ点火のガソリンエンジン(GE)としては限界といわれる高圧縮比の採用だろう。
圧縮比を上げればエネルギー効率が高まり、燃費は飛躍的に向上する。このことは、高圧縮比による発熱を利用して軽油を自己着火させるディーゼルエンジン(DE)の効率の良さを通してよく語られることだが、GEに用いられるガソリンの場合ノッキング(異常着火)のしにくさを表わすオクタン価が高圧縮比化のネックとなる。

これまでの高圧縮比化は、主にガソリンの高オクタン価化という燃料供給メーカーの業績に負うところが多く、DEに迫るような高圧縮比の追求に着手する者はなかった。余談ながら、SKY-Gの圧縮比14はドイツなどで供給される95RON(Research Octane Number=リサーチ法によるオクタン価)のレギュラーガソリンを前提にした数値で、日本の91RONレギュラーでは圧縮比は13になるという。ドイツ車で「なんでこのクルマがハイオク?」と疑問に感じることがあると思うが、日独(欧)の燃料事情の視点も重要だ。

では、どのようにして14という高圧縮比は実現されたのだろう。

まず注目すべきは、エンジンのキャラクターを決めるボア×ストローク。SKY-Gのそれは83.5×91.2㎜の1998㏄と明らかにされた。現行の2ℓPFI(ポートインジェクション)のボア×ストローク87.5×83.1㎜(圧縮比は10:1)というショートストロークタイプからスモールボアのロングストロークタイプへの転換。目的は、小径ボアによるピストン上面の面積を小さくすることで冷却損失を改善することにある。これに直噴による吸気冷却効果と耐ノック性向上ピストン頭頂形状を採用することにより、圧縮比上昇に耐える基礎的条件を整えた。

そして高圧縮比化のブレークスルーとなったのは、ノッキング発生の最大要因とされる圧縮温度を高める高温残留ガスの掃気。これを半減させれば圧縮比を『3』高めても圧縮上死点温度は変わらない。そして、DI(直噴)化で燃料蒸発潜熱による冷却効果を出せば、さらに『1』圧縮比を上げられる。そこで採用されたのが4-2-1の排気マニホールド、ホンダのシビックタイプRなどでも用いられたいわゆる『タコ足』だ。互いに関係し合うシリンダーへの排気干渉をマニホールドの長さで抑えるとともに、バルブオーバーラップを大きく取ることで掃気効果を高める。これはハイパフォーマンスを追求するスポーツモデルに採用されるアイデアで、タコ足はNAガソリンエンジンの高性能化には欠かすことのできないアイテムと考えられていた。しかし、これには大きな問題がある。

近年厳しさを増すいっぽうの排ガス規制は、冷間始動時のエミッション(HCやCO)の除去が大命題となっている。エンジン近傍に触媒を取り付けるのが一般的な方法だが、これはタコ足にはなじまない。BMWのように2段に分けて2つの触媒で切り抜けようとしている例もあるが、コストと効果の両面で諦めるのが大勢となりつつある。従来型の高性能スポーツがばたばたと倒れている理由がここにあるわけだが、SKY-Gにはこのタコ足を成立させる画期的な機構が『もうひと手間』という感じで用意されているのだった。

■4-2-1排気でキャタライザーの早期活性化を実現したブレークスルー
SKY-Gの排気系は4-2-1。エンジンから遠い集合点の後方にキャタリスト(触媒)を設置しているのだが、これだと冷間始動時の排ガス浄化が厳しい。キャタリストを素早く暖めて活性化させるのに必要な熱源が得にくいからだ。そこで考え出されたのが、DI(直噴)ならではの燃料噴射技術の応用だった。
SKY-Gのピストンは、アンチノック性の高い山型形状の真ん中に丸いキャビティ(窪み)を持つタイプ。始動直後の冷間時は、キャタリストの早期活性化に必要な排ガス温度を得るために大幅な遅延燃焼(リタード)を行いたいのだが、そのままでは燃焼が安定しない。そこでDIを活用してキャビティに流れ込むように燃料を噴射。点火プラグ近傍に成層混合気を生成させることで難関を突破している。

あちら立てれば、こちら立たず。排ガス規制が一段と強化されるようになった近年では、高性能化と環境性能の高次元な両立が難しくなっている。SKY-Gは、他メーカーが妥協していた二律背反要件の克服に真正面から取り組み、ブレークスルーの発想で大きなコストを掛けることなく理想の内燃機関に近づこうとしている。”飛び道具”の華々しさには欠けるが、慣れ親しんだ内燃機関で環境・資源問題という高いハードルを越えようという行き方には共感を覚える。何を隠そう僕は大のICE(内燃機関)党で、コンパクトなライトウエイトFRスポーツカーの再生をライフワークのように捉えている。近頃は、ハイブリッドやEV、PHVなどの次世代エネルギー車への関心を深く持っているが、それは持続可能なモビリティを考えたら当然そっちの比率を高めるべきだと思うから。大半の人々がそっちに移行してくれたら一定量の内燃機関のスペースが生れる。どっちが良い悪いではなくて、エネルギーミックス&シェアの発想で進むほうが無理がない。

SKY-Gは、この他にもシリンダーライナーの真円化によるフリクションの低減やオイルポンプの油圧可変化、動弁系の効率改善などによって機械抵抗損失の掘り起こしに余念がない。数多く用意されたフリップボードで目を引いたのは『なぜSKY-Gはダウンサイジングを選択しなかったのか?』理由としては、理論空燃比で運転されるエンジンの場合はダウンザイジングの効果は大きいが、リーン燃焼や連続可変バルブタイミング機構によってポンピングロスを下げたエンジンでは効果は薄まる。

VWのTSIのような過給ダウンサイジングでは、圧縮比はNAより『1』程度下げられる。SKY-Gの圧縮比『3』アップとの差が生む燃費効果は8~9%あるという。過給ダウンサイジングには大幅な燃費改善効果が期待できるものの、ターボの場合は初期トルク不足を補うためにギア比を低速化する必要があり燃費の目減りを生む。今後要求が高まるリーン燃焼を導入する際には、さらにその効果は低下する。マツダのSKY-Gは自然吸気(NA)で高圧縮比とポンプロスやフリクションなどの抵抗低減に加え、15%トルクアップによるダウンスピーディング効果を得る。ダウンスピーディング? 初めて聞く言葉だが、エンジン回転数を下げて高負荷で走らせること。30%のダウンスピーディングと同ダウンサイジングの効果は同じで、高価な補機を必要としない分コスト競争力も高いという主張だ。

■いぶし銀のスーパーユニットSKY-G
量産ガソリンエンジンとしては未踏の高圧縮比14:1を可能にし、それによる高トルクを背景にディーゼルエンジン並の低燃費を実現した。SKY-Gをまとめるとそういうことになるだろう。最大のポイントは、過給機やモーターの力を借りない自然吸気(NA)の純内燃機関でハイレベルな動力性能と環境性能を満たしているところにある。

今回のベルリンテストでは、まず6速MTモデルでアイドリング発進から6速フラットアウトまでの様々な走りを試してSKY-Gの素性を確認し、SKY-DRIVEモデルではそのドライバビリティに注目した。
印象的なのは低中速トルクの充実で、非常にスムースなシフトフィールとバランスの取れたフラットな乗り心地とともに、派手さや迫力はないが軽快で振り返るとスポーティという試乗後感が浮かび上がる。テストは、TPVに現行マツダ6が随行し、個別に比較データを得るという技術検証車に相応しい態勢が取られていた。たとえば6速MTによる最高速の実測値は216.7㎞/hで平均速度は86.0km/h。マツダ6との比較データとしてはパワートレインシステムとしての効率改善率が6速MTで10.21%、SKY-DRIVEで21.46%、燃費でみる改善率が同11.46%、15.93%だった。MTとSKY-DRIVEでは走行条件や走らせ方が異なるのであくまでも参考データということである。

SKY-GのCO2排出量は6速MTで130g/km。これは欧州の95RONレギュラーガスを前提としたデータで、燃費で換算すると18km/L程度となる模様だ。従来の159g/kmから2015年がデッドラインとなる厳しい欧州規制クリアも十分視野に入れられるレベル。現在のディーゼル並の燃費といううたい文句も素直に頷けるという意味でも、SKY-Gは画期的なガソリンエンジンといえるのだが、最後にもう一つ重要なキーワードがある。

それはキャリブレーション。日本語では適合と訳される。ベースエンジンがきっちり燃焼し、運転可能となるようにすることをベースキャリブレーション(基本適合)と呼ぶという。温度や空気量などの様々な信号を受けて、適切な燃料噴射できれいに燃焼させることでエンジンを使えるものにする行為。それをクルマごとに異なる条件に対応させることを『車両適合』というそうだ。現代ではコンピュータのソフトの定数を変更して適合を図るのが一般的だが、SKY-Gでは排気量が異なっても基本適合を一緒にできるようにした。

CAE(コンピュータ援用エンジニアリング)によって異なる排気量のエンジン開発を効率的に行う。現在想定されているSKY-Gは今回の2ℓと1.3ℓの2機種だが、必要とあればどんな排気量の何気筒エンジンにも応用が利く。僕は近い将来1.3ℓ級のNDロードスターが登場することを夢見ているのだが、そう遠くない将来それが正夢になる日が訪れるかもしれない。今回のアテンザTPV・SKY-Gに乗って、「このクルマの先に時代にマッチするエコなリアルライトウエイトスポーツNDがある」なんとも楽しい妄想が膨らんだ。

■最高許容回転数5200rpm!衝撃のスーパーディーゼルSKY-D発進
パワートレインのレクチャーを受けた後SKY-Gで一息入れ、さらに関連するシャシーとボディに採用された技術展開の情報シャワーを浴びると、もう頭はパンパン状態に。時間ですの声でSKY-Dのテストドライブ開始を告げられた時には心底ホッとした。

いつものようにゆっくりと……6速MTが組み込まれたアテンザTPV・SKY-Dの動き出しには、より一層念を入れた。アイドリング発進からアクセルをほとんど踏み込まずにシフトアップさせて、ズンズンとスピードを高めて行く。上手にスロットルをコントロールすれば、6速でアイドリング+αからトップスピードまでカバーしてしまうフレキシビリティこそが現代のコモンレールディーゼルの醍醐味であり、魅力の源泉だ。

昨年のことになるが、僕は2.2ℓのMZR-CDを搭載するマツダ6アクティブ(ワゴン)をアウトバーンで試している。ボア×ストローク=86.0×94.0㎜の排気量2184㏄コモンレールターボディーゼルは、圧縮比16.3:1から120kw(163ps)/3500rpm、360Nm/1800rpmを得る。これと6速MTの組み合わせは文句なしにスポーティで、200km/h巡行を可能とする高速ツアラーとしての資質を十分備えていた。

当然、このアテンザTPV・SKY-Dにはそれ以上を期待したわけだが、結果は想像を遥かに上回る驚きに満ちたものだった。最初に難点だけを挙げてしまえば、まずアイドリングや低回転域でのディーゼルノックが耳につく。SKY-Gの音作りが課題となるホワイトノイズ系とは対照的な遮音・防音。ある程度スピードに乗ってしまえばむしろツキの良いパワーフィールとして受け取れるので、ことさら低速時には際立ってしまう。それと、前輪荷重増加の影響でステアリングの据わりや手応えはSKY-Gより好ましくなっているが、相対的にリアサスのスタビリティに不満が残った。これも空力の煮詰めが関わるので、現時点では不問に付すというのが正しい態度だとは思うが。

それらを除けば、もう期待だけが膨らむ感じ。SKY-Dのディメンションは、ボア×ストローク、排気量ともに現行MZR-CDと同じ86.0×94.0㎜の2184㏄。出力値は明らかにされなかったが、トルクはSKY-Gのちょうど2倍となる420Nm。現行MZR-CDの60Nm上乗せだ。最大連続回転数が5200rpmということなので、相当のパワーアップが実現されたとみて間違いはない。、

操作性タッチが一段と向上した次世代6速MTを介したクルマとの”やり取り”は、自由が許容された豊かな走行環境下では単純素朴に楽しく面白い。トルクが2:1の関係にあるSKY-Gとのトップスピード差は10㎞/hプラスに過ぎないが、そこに至る加速の力強さ、気持ちが乗るピックアップの鋭さは、多くの走り屋に経験して欲しいと思わせる。

このSKY-DにもSKY-DRIVE=6速ATが組み合わされることになったのは、今後の日本市場にとって朗報だろう。ギアボックスの基本構成をミッドサイズと変えることなく2倍のトルクアップにも対応するそれは、日本のディーゼル乗用車シーンを大きく変える可能性を秘めている。SKY-Dでは後半に強いにわか雨の襲来などもあってATでの最高速トライは逃したが、MT同様230㎞/h超のポテンシャルを備えていると見て間違いはない。

■低圧縮比14を可能にした”鬼”のバルブコントロール1
ディーゼルエンジンは、高圧縮比であればあるほどエネルギー効率に優れる。ガソリンエンジンのオットーサイクルとは異なるサバテサイクルで回るディーゼルエンジンの教科書にはそう書いてある。正確にはそう書いてあった…だが、かつては20~25:1が一般的なディーゼルエンジンの圧縮比とされていた。

たしかに機械工学的にはそうなのだが、大気汚染などの環境問題が厳しく問われるようになったここ数10年では、効率よりも排ガス浄化にプライオリティが移っている。窒素酸化物(Nox)やディーゼルパティキュレート(PM=煤)の除去が最優先となり、時代を追うごとに低圧縮比化が進められてきている。結果として乗用車ディーゼルでは圧縮比20以下が一般化し、16~18:1あたりが現実的な解と言われるようになっていた。

 理想を突き詰めればさらに低圧縮比化を進めたい。高圧縮比ゆえに発生しやすいNoxやPMを抑制するために燃料の噴射タイミングを遅らせる遅延燃焼とし、結果として高圧縮比とは釣り合わない低膨張比となる。排ガスのために効率を下げざるを得ない現実を改めたいところだ。しかし、燃料に軽油を使い、高圧縮比による圧縮熱を利用して自己着火させるサバテサイクルの性格上、圧縮比15以下では十分な圧縮温度が得られず、冷間時の始動がままならないという問題が残されていた。

多くのエンジニアが、分かっちゃいるけど越えられない…と諦めていたところに風穴を開けたのがSKY-Dということになりそうだ。ブレークスルーポイントは、SKY-Gとは違って非常にシンプルだった。
まず圧縮比を14というディーゼルエンジン未踏のレベルに設定。問題となる冷間始動時と暖気中の失火抑制は、吸気時に高温排ガスの還流を行う排気可変バルブリフト機構と燃料の空間分布を精密にコントロールするピエゾインジェクターによってカバーする。以上おしまいということでもないが、概ねそんなところである。

冷寒時の一発目の着火はグロープラグを使えばなんとかなる。問題はその後。十分な熱源がないと失火して止まってしまうのだが、一発火が着けば高温の排ガスが生成される。これを排気バルブの可変リフト機構を用いて吸気に取り込み、その熱源によって燃焼を継続させる。低圧縮化させると、それまでエミッションを恐れてリタード(遅延燃焼)させていた燃料噴射を上死点に近い最適なタイミングで行える。これに高精度な噴射制御を組み合わせることで、高膨張比による出力・燃費性能の向上とNoxや煤の少ないクリーンな燃焼が一挙に手に入る。

もうひとつ切り札的なアイテムを挙げるとすれば、2ステージとあえて断わるツインターボの存在だ。コモンレールディーゼルにとってターボは必要不可欠のメカニズムであるという。その意味は、パワーやトルクなどのダイナミックパフォーマンスを得るためにあるのではなく、十分な空気量を供給して排ガスをクリーンにするところにある。ツインスクロールなどの可変ターボではなく2ステージにこだわったのは、2000rpmまでの低回転域は小さいターボで効率よく空気を供給し、それ以上は大きなターボで大量に過給する。すべては論理的な考察の結果というわけである。

燃焼の基本に注目し、問題点の中にブレークスルーのポイントを見出す。その意味ではSKY-Gとも重なるが、出所が同じ鬼才の頭脳ということを考えればある種の共通点も納得が行く。SKY-Dの低圧縮比14による副次的効果は、高い圧縮圧力に耐えることから開放されたことでピストン、コンロッド、クランクシャフトなどといった構成部品の強度と質量を大幅に軽減できるようになったことがある。SKY-Gの14が高圧縮比でSKY-Dの14は低圧縮比。同じ数字が異なる評価となるところが内燃機関の奥深さということになるのだろうが、この数字の一致は生産が共通のラインで可能になるというもう一つの副産物をもたらしている。

現在のマツダは乗用車のほぼ全量を国内生産で賄っている。超円高の為替環境では非常に厳しい境遇に面しているが、SKY-Dは欧州のステージ6(ユーロ6)、北米のTier2Bin5とともに日本のポスト新長期規制にも対応している。CO2排出量は従来の138g/kmからハイブリッド領域に迫る105g/km(6速MT)を実現。SKY-DRIVEのデータは未公開だが、ここしばらく(10年ぐらい?)は使える見込みが立ったということはできそうだ。

■SKY-DRIVEはどの市場を見据えているのだろうか?
マツダが心機一転を期して導入するSKY-CONCEPT(スカイコンセプト)は、コンベンショナルなパワートレインに磨きをかけ、二律背反をブレークスルーの発想で克服することを基本姿勢としている。ガソリン/ディーゼルの内燃機関やMT/ステップATといった従来技術にはまだまだ伸び代があり、やりようによっては次世代型パワートレインにも負けないパフォーマンスを発揮する。まず、そこに手を加えて素性を良くしてからハイブリッドやPHEVに展開していったほうが、より高い頂きに到達できるという考え方だ。

すでに明らかにしたように、アテンザ(マツダ6)のAT比率はグローバルで約50%。日本では97%と、先進国でこんな国は他にないだろうと断言できるレベルに達している。欧州は対照的に10%。US(アメリカ)は約70%と日本の特異性を際立たせるデータを残している。USでMT比率が高いのはマツダに特異な現象という解説を得たが、Cセグ以下のコンパクトカーにかぎればどのメーカーにも30%ほどのMT需要があると聞いている。

SKY-DRIVEは、日本の自動変速機の歴史の中でもっとも長く親しまれてきたトルコンATを基本としている。その評価は、最近比率を伸ばしているCVTや欧州勢を中心に勢力を拡大しているDCT(デュアルクラッチトランスミッション)それぞれの利点を集約した上で、ステップATとマツダでは呼ぶSKY-DRIVEに昇華させている。

ステップATの利点には、高速燃費、発進のしやすさ、クリープを利用した坂道の登り易さなどがあり、低速燃費とシフトフィールの滑らかさでCVTに、ダイレクト感でDCTに劣るという分析がなされたという。要するに、低速燃費を改善し、ダイレクト感を追求し、滑らかな変速を実現すればトータルパフォーマンスで優位に立ち、グローバルに展開できるではないか…ということである。あたりまえのことをきっちりやる。マツダのSKYテクノロジーに共通する開発ポリシーはこれに尽きるようだ。

燃費改善目標として設定されたのはラージと呼ばれる現行6速ATに対応するものが4%。同5速ATにあたるミッドで7%。その具体策が10㎞/hからロックアップを効かせるという直球勝負だった。なぜロックアップ領域を広げることができたのか? 問わず語りに切り出すエンジニアに耳を傾けると、まずトーラス(翼)と呼ばれるトルクコンバーターの可動部分をコンパクト化。それによって得られたスペースを利用してロックアップクラッチの多板化を実現させている。そこには当然、クラッチ油圧の精度やロックアップスリップ制御の改善がなされているのだが、ブレークスルーポイントとなったのは多板クラッチの採用で浮上するロックアップ時のN.V.Hを押さえ込むダンパー。これを最適な減衰特性とした柔らかい設定とすることでパワートレイン全体が高められた。

油圧制御精度の向上もブレークスルーのポイントとして挙げられたが、機電一体モジュールやらダイレクトリニアソレノイドといった領域の評価は、シンプルにクルマ全体の扱い勝手の良さに含まれるということで了解したい。

次世代6速MTについては、横置きのFF用なので展開の幅は自ずと限られてしまうが、魅力的なコンセプトの軽量スポーツモデルと組み合わせを是非とも望みたいと思った。シフトストロークを5㎜詰めて、シンクロ機構のコンパクト化と精度を磨いたそれは、当たりまえのことをきっちりと仕上げるSKYらしい仕事ぶりが印象的な出来栄えだ。生産効率の面では、ATとの共通ラインでの生産が可能となったのも朗報だろう。国内ではほとんど存在感を失いつつあるMTだが、良く出来たMTが残ることはそれだけでも操る楽しさというファンtoドライブの可能性が残される。こういうベーシックな話からもう一度考え直さないと、明るい未来はなかなか描けない。

■SKY-DRIVEに見られるスカイコンセプトの真骨頂
SKY-DRIVEの”レクチャー”は、実はSKY-Gの試乗の後で聞いた。まず6速MTのTPVから手にしたわけだが、そのフィーリングはあたりまえのように軽く、節度がある上に正確。MT世代ならずとも負担に感じることがなく、むしろ操ることが楽しいと思えるスポーティな味わいに終始していた。ロードスターのような(人馬一体の基本となる)シフトフィールを追求したというその仕上がりは、165ps、210NmのパワースペックにとどまるSKY-Gにライトウエイトスポーツ感覚ともいうべき操る楽しさを賦与したといえる。

マニュアルトランスミッションでも(伝達)効率の向上は追求された。そのターゲットはオイルの攪拌(かくはん)抵抗と機械抵抗の低減だった。

前者は低粘度オイルを採用すると同時にオイル潤滑の工夫を折り込んだ。潤滑のためにギアを攪拌という形でオイルに触れさせることが抵抗になる。素人にはなかなかイメージしにくい概念だが、塵も積もれば……なのだ。後者については、軸受けをスラストベアリングからボールベアリングに変更し、2軸タイプのそのベアリング支持は軽量化を意識して3ヶ所から2ヶ所で機能を果たす改良が試みられた。

SKY-Gに組み合わされるミディアムと呼ばれる6速MTの対応トルクは270Nmまで。いっぽうのSKY-D用6速MTは、460Nmプラスを3軸構造によってカバーする。それぞれの試乗後の感想は大きくずれない。SKY-Gのこれだけのボディサイズでありながら、ロードスターにも一脈通ずる軽快なタッチは幅広い展開が期待できるという意味で注目できる。SKY-Dの迫力あるトルクフィールを難なく受け止めながら、淀みのない乗り味に貢献するシフト感覚は、これを味わってこその新世代ディーゼルと思わせるものがあった。

SKY-DRIVEにも、270Nmまでを引き受ける中型と460Nmプラスのキャパシティを持つ大型が用意されている。DCTなどでは7速や8速も珍しくなくなっている。ステップATで6速というのはどうなの?
素朴な疑問に対する答えは、6速ではプラネタリーギアが3、クラッチが2ブレーキが3のところを、7~8速だとそれぞれを増やす必要があり、長く大きくなることから横置きFF用としては重量増も含め、今のところこれ以上の多段化は考えられない、とのこと。

MT、ATともにミディアムとラージは、SKYコンセプトの中核を成す考え方として規定されているコモン・アーキテクチャー(共通設計)思想が導入され、全量内製で賄われる4種のトランスミッションは同一ラインでの生産が当初から織り込まれている。ロードスターを範とした6速MTから、CVT、DCTとの徹底比較による検証から産み出された6速ステップATにいたるまで。ある種鬼気迫る執念の結果とも言える技術展開の理解を深めるに連れ、それらのテクノロジーの結果として登場するクルマの形に思いが膨らんで行った。

■SKYコンセプトを裏方として支えるボディ/シャシー
 今回のTECHNOLOGY FORUM Berlin2010は、SKY-CONCEPTの中心となるエンジンとトランスミッションの正体を白日の下にさらすイベントだった。フェイクではない証拠にTPV(Technology Prove-out Vehicle=技術検証車)のマツダ6を4台仕立て、右ハンドル仕様でアウトバーンを中心に片道約100㎞のテストドライブを2セットを用意。具体化の進捗具合を開発の途中段階でメディアに公開するというのである。

もちろん、クルマの評価はシャシー/ボディを合せたパッケージで行わないと意味がない。一見現行マツダ6のテスト車4台は、ガソリン・ディーゼルエンジンともに縦方向にスペースを必要とすることから、エンジンコンパートメントから設計をやり直し、アンダーボディと前後サブフレーム、サスペンションからなるプラットフォームは次世代仕様に換えられている。アッパーボディについても歩行者保護規制の強化に対応してボンネットフードを40㎜嵩上げするアップデートが図られている。

 すでにSKY-G/D、SKY-DRIVEの乗り味については触れているが、もっともインパクトが得られる初乗りのSKY-G+6速MTの組み合わせの第一印象は、軽量化がステアリングを介してはっきりと感じ取れるほどスッキリ軽い乗り味で、2ℓ 165ps、210Nmのスペックを結果的に十分であるというとても興味深い評価をもたらした。タッチは軽いけれど、接地感やフラットな乗り味は期待以上。そこにはまず、井桁(クレードル)サブフレームの入力点と左右横断メンバー位置のオフセット最小化、取付スパンの拡大、断面構造の最適化などによって高剛性を追求。アルミ材などの材料置換なしで主に設計構造の合理化によって大半の目的を達成している。コストアップなし……というよりむしろコストは下がり、安全性や剛性、サス性能などは大幅に向上するといういいことづくめの展開だ。結果として、シャシー全体では50㎏、14%もの軽量化を実現させている。

アンダーボディについても高張力鋼板(780hpa、590hpa)の使用量を20から40%に拡大しながら、フレームのストレート化と連続化という構造の最適化を追求。ウェルドボンドやスポット溶接の増し打ち、Bピラーのレインフォースメントにホットスタンプを使用するなどによって、20㎏、マイナス8%の重量減を稼ぎだしている。

この辺の軽量化の実際は、すでに発売からかなりの時を経ているマツダ2(デミオ)で答えを出しているもの。それ以上のインパクトをC/Dセグメントでも味わおうというのが、SKY-CONCEPTの真の狙いといっていい。パワートレインやシャシー、ボディなどの技術アイテムは、実は目的ではなく、より良い走りや乗り心地を得るための手段にすぎない。

これらの技術が、一体どのようなクルマに採用されるのか。いわゆるカースタイリングやデザインという発想を欠いたクルマは、どんなに優れたメカニズムやテクノロジーを満載していてもユーザーの気持ちを捉えられるとはかぎらない。

右ハンドルの4台のマツダ6TPVは、はたして15ヶ国38人の胸にどう響いたのだろうか。僕は、SKY-TECHNOLOGYのポテンシャルの高さは、新しいムーブメントを生むのに十分な資質を備えているとは思ったが、その前提としては多くの人々の心を捉えるデザインの存在は無視できない。中庸さを排除した、クルマの魅力がほとばしるような納得の行くコンセプトやデザインの新感覚、新世代のニューモデル。SKYシリーズの成否はそこに掛かっている……素晴らしい技術をより価値のあるものにするためには、核心を突いた商品企画が欠かせない。圧倒的な量の技術の情報シャワーを浴びた僕の身体は、次期ロードスターの姿のあるべき姿をかなりはっきりした輪郭で捉えることができるようになった、と思う。技術の可能性は分かった。次のステップは、それを如何に魅力的なクルマに応用するか、だろう。

■ミラノに突如現れた次世代マツダのデザインキュー
非常に密度の濃い一日をベルリンで過ごした後、極東から飛んできた我々は日曜日を利用して次の目的地ミラノへと飛んだ。ベルリンでのテクノロジーフォーラムと、デザインワークショップと銘打ったミラノのイベントは基本的に別仕立てで、日本人ジャーナリスト以外は各国それぞれ異なる顔ぶれでの参加だったと聞いている。

SKY-TECHNOLGYがテーマだと明らかにされていたベルリンと違って、ミラノは単にデザインワークショップと説明されただけ。ベルリンほどには前掛かりでイベントに突入する気分にはなりにくかった。久しぶりに半日のミラノ観光を楽しんだ翌朝、ワークショップ会場のVilla San Carlo Borromeoに向かうと、そこには予想もしない楽しい一日が待ち受けていたのだった。

デザインワークショップは、まず欧州マツダのPRマネジャーのスピーチに始まり、次いでステージ上の”ラウンジ”で日米欧(広島、横浜、カリフォルニア・アーバイン、フランクフルト)各拠点のデザイナーによるトークセッション風の演出で各自の個性を浮き彫りにし、最後に09年4月からマツダのデザイン本部長に就任した前田育男さんのスピーチ(全編英語)によってこれからのマツダデザインのテーマが明らかにされ、最後にまったく予想もしていなかったデザインコンセプトのアンベールが行われた。

考えてみれば、デザイナーが具体的なデザイン作品を提示せずにワークショップなど開けるはずもない。しかし、ステージのターンテーブルに置かれた魅力的な4ドアスポーツセダンは、セダン氷河期とも言われる日本の現実が頭と身体に染みついた僕にもすんなり収まった。
イタリアの片隅でそっとワールドプレミアされたクルマのタイトルは『靱(しなり)』。昨年突如パトリック・ルケマンを後を継ぐデザイン担当上級副社長としてルノーに転じたローレンス・ヴァン・デン・アッカーが、最近のマツダデザインと潮流として打ち立てた『流(NAGARE)デザイン』から一歩進めた、動きの本質に迫るアプローチがそこにある。

マツダは、1960年のR360クーペに始まる4輪乗用車メーカーとしての歴史のなかで、たびたび時代の潮流を生むエポックメーカーを世に出している。近年では、2000年以降に採用されたZoom-Zoomのブランドメッセージのもとで、アスレチックでスポーティな動きの表現を追求してきた。無駄を削ぎ落としたフォルムで思わず人を振り向かせる。そのような思想からアテンザやRX-8が生れた。メルセデスSクラスや現行クラウンなどに影響をあたえたプロミネント(張り出し)フェンダーに象徴されるように、マツダデザインは世界中のデザイナーが注目する存在となっている。最近では、水、風、砂、溶岩など自然界に存在する動きの美しさを造形に取り組むことにチャレンジ。「流(ながれ)」を表現した7台のコンセプトモデルをモーターショーごとに連作の形で発表。今年市場導入されたプレマシー(マツダ5)でそのテーマを初めて量産化させている。

■『魂動(こどう)』=Soul of Motion
靱(SHINARI)は、アスレチックや流(NAGARE)といったデザインテーマを踏襲しながら、「動き」の表現を革新的に進化させたひとつの結果であるという。世界をリードするブランドでありたいという思いからマツダデザインが辿り着いたのが、生物が見せる一瞬の強さや美しさだった。獲物を狙って力を溜め、飛び掛かる一瞬のチーターの姿、日本古来の武道である剣道の突きの一瞬。その瞬間こそが、もっとも研ぎ澄まされた力のバランスを持ち、無駄なく美しい。集中力を要する一瞬にある種の色気を感じるのだと前田育男デザイン本部長は言う。その洗練された美しさは瞬発力やスピード感や凜とした緊張感によってもたらされる、と。

マツダデザインは、この一瞬の動きをMotion Formの究極の姿として捉え、生命感に溢れ心ときめかせる動きを”魂動”と定義している。Soulfulなデザインをしたい!という思いを、”魂動=Soul of Motion”というテーマに表わし、次世代マツダデザインのリスタートをさせたということである。キーワードは、「Speed(前進感)」、「Tense(緊張感)」、「Alluring(艶やかさ)」。3つの価値エレメントで新しいデザインテーマを形作って行きたいとしている。

今回のプレゼンテーションで、初めて知ったことがある。前田育男デザイン本部長の父君は、1978年(忘れもしない、僕が今のフリーランスとして生きて行くことを決断した年だ)に登場し、一世を風靡したサバンナRX-7のチーフデザイナーであり、後にデザイン本部長の職に就いている。前田現本部長は、プロミネントフェンダーのRX-8とマツダ2=デミオをチーフデザイナーの立場でまとめた人である。四半世紀の時空を超えて親子2代にわたって画期的なデザインを手掛けた。ちょっと話が出来すぎの感もあるが、血脈とかDNAというものはこういう世界にもあるものなんだな……人の面白さを実感させるエピソードといえるのではないだろうか。

前田の想いを受けて、実際にチーフデザイナーとして『靱』を手掛けたのはマツダR&D横浜でマネージャーを務める中牟田泰。先のトークセッションでカリフォルニア駐在中に付けられたニックネーム”TJ”のエピソードが笑いを誘った。シリアスにハードワークに励むいかにも日本人らしい働きぶりが陽気なカリフォルニアの風土に馴染まないことから、米人達からTJ=Typical Japanese(典型的な日本人)とからかわれたことに始まる愛称なのだという。ご存じのとおり中牟田はNCロードスターをチーフデザイナーの立場でまとめたキーパーソンの一人である。

トークセッションに始まるプレゼンテーションについで、いくつかのコーナーに分かれてワークショップを巡る楽しいひとときが始まった。もっとも盛り上がったのは、実走行可能なSHINARIの生のデザインを味わうセクションだったが、中牟田チーフデザイナーが熱く語りかけた靱(SHINARI)のエクステリアデザインのプロセスについての解説もなかなか聞き応えがあった。

マツダデザインの強みは、熟練のモデラーの力量に負うところが大だという。モデラーの重要性については他メーカーでの取材で心得ていたつもりだが、マツダのモデラーの実力こそがマツダデザインの勢いの源泉だと中牟田は言い切った。マツダで特徴的なのは、クレーモデルを作る粘土を一般的なものよりずっと固い材料を使用するところにある。イタリアなどのカロッツェリアでは、そもそも固い樹脂を用い、彫刻の要領で継ぎ接ぎが出来ない状態とし、その緊張感の中で表情豊かな張りのある面を作り上げるという。それに近い感覚でマツダデザインは形作られているのだと。

実際にエクステリアデザインを手がけたのは若い韓国人デザイナーの趙 庸旭(CHO YONG WOOK)。なかなか言うことを聞かない熟練の職人モデラーとのコミュニケーションに手を焼いたということだが、諦めない若さと職人芸が生んだ靱(SHINARI)が、見るもの心を打つ仕上がりを見せていたことは大いに注目していよいだろう。

「この靱(SHINARI)は、制約を設けない純粋なデザインコンセプトという位置づけで、衝突安全や歩行者保護などのレギュレーションは考慮に入れていません。その意味では現実的とは言えない部分も多いですが、とにからこれからのマツダデザインの方向性を自由に追求しています」英語でコミュニケーションが必要か? 身構えていると広島在住の趙君はごく普通に日本語で応対してくれた。

SHINARIは、是非手がけてみたいタイプのクルマだと前田デザイン本部長はきっぱりと言い切った。RX-8で4ドア4座スポーツカーという新しい提案を行なった新しいマツダのデザインリーダーは、ポストRX-8や21世紀のRX-7のあり方のひとつとしてSHINARIを捉えているようで、駆動方式は当然のことながらFRを想定。実際に走行可能なこのコンセプトカーは、リアドライブらしいプロポーションを持ち、動きもそれらしい雰囲気を漂わせていた。残念ながらボンネットは開けられなかったが、ひょっとしてRE? そう思わせる乾いたエキゾーストノートが印象的だった。

SKY-TECHNOLOGYの一角にまだREは含まれていないが、開発は鋭意進められていて、条件が整えばSKY-REとしてラインアップに加わることは十分に考えられるという。現時点では、マツダは2.5ℓまでの直4でSKYシリーズを構築していく予定だとしているが、もうひとつの金看板であるロータリーエンジンにブレークスルーが見つかれば、靱(SHINARI)はかなり現実的なプランとして浮上する。

それはともかくとして、SHINARIに盛り込まれたデザイン表現は、そう遠くない将来登場するニューモデルに活かされるのは間違いない。SKY-CONCEPTによるパワートレインとシャシー/ボディの革新に、新しいマツダデザインが加わったピュアICEの画期的なクルマ。その一端は、次期デミオと思しきスケールモデルにホロスコープでバーチャルな提案を行なうワークショップで明らかにもされた。

このところの急激な円高為替環境によって、現在生産のほぼ全量を国内で賄うマツダはかなり苦しい立場に置かれている。SKY-TECHNOLOGYは、いろんな意味で衝撃的なインパクトを与えてくれたが、果たして時代がこの画期的技術展開を待ってくれるだろうか。120万台という比較的小さな生産規模のメーカーのエポックメーキングが、世界の自動車シーンにどれだけの影響を及ぼすことができるのか。激動の時代の移ろいにハラハラしながら、僕はただひたすらマツダの幸運を祈っている。

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Posted at 2010/12/19 11:22:26

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この記事へのコメント

2010年12月19日 14:55
もの凄く読み応えがありました。
なんというか、ありがとうございます。
2010年12月21日 15:42
内燃機関の既存技術を煮詰めて組み合わせて現状をブレイクスルー、
マツダらしい無骨な手法だと思います。
ハイブリッドやEVのような方法も認めてはいるはずですが、
このような手法がマツダらしいということなのだと思います。
マツダは本当にクルマが好きな集団ですね。
だから、マツダ車は素直に「良い」と感じるのでしょうね。

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