結婚式の披露宴に招かれてよく聞くメロディに、ワーグナーの結婚行進曲《婚礼の合唱》
があります。私はこの曲が楽劇《ローエングリン》の中で、王女エルザが白鳥の騎士と祝福
され結ばれるが、すぐに別れることになるという結末が思い浮かべてしまいます。ヴェルディ
の歌劇《椿姫》の「乾杯の歌」も披露宴の席でよく歌われるようだが、ヒロイン・ヴィオレッタと
その恋人アルフレードの恋の行方がどうなるか分かっていると、おめでたい席に相応しくない
曲なのかもしれないと思ったりします。私の考えすぎかもしれないが、、
では、祝宴の席で大バッハいかがでしょうか。バッハのカンタータ BWV 202のアリアを
教会式で聴かせていただき、とても感動したことがありました。バッハの結婚カンタータです。
バッハのカンタータの中には結婚式のための作品も数曲残っています。教会の式で使用
された教会カンタータと披露宴などで演奏された世俗カンタータがあります。カンタータとは
ルター派教会の礼拝で演奏される声楽曲のことです。
バッハはライプツィヒ時代、聖トマス教会のカントルに就任するが、その職務の一つが毎
日曜日教会暦の礼拝のためのカンタータ作曲と演奏です。毎年50,60曲ほど作曲のカン
タータ創作サイクルを数年行っていますが、現在は200曲ほどが残っています。このカン
タータ以外にカントルの職務の間に領主や貴族の依頼を受け冠婚葬祭、祝賀行事など
に作曲した宗教とは関係ない世俗カンタータがあります。農民カンタータやコーヒー・
カンタータなどがお馴染みですね。
カンタータ BWV 120a "Herr Gott, Beherrscher aller Dinge "《主なる神、万物の支配者よ》
このカンタータも結婚式のために改編されたカンタータです。編曲・転用の達人バッハは
華やかな合唱と美しいアリアの結婚式カンタータに改編しました。パート1が3曲、パート
2が5曲の全8曲からなるカンタータですが、オリジナル曲は3曲だけ、 他は、
パート1の第1曲合唱に続き、第3曲 ソプラノ・アリア ”Leit、o Gott、durch deine Liebe”
《 おお神よ、あなたの愛で導いてください 》 この美しいアリアは、ヴァイオリンとチェンバロ
のためのソナタ第6番 ト長調 BWV 1019a の転用です。
パート2の第4曲 シンフォニアはなんと、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番
ホ長調BWV 1006 のプレリュードがオルガン協奏曲に、トランペットにティンパニも加わり
華やかなシンフォニアとして編曲されています。
このシンフォニアはカンタータ BWV29 のシンフォニアにも使用されています。
第5曲 デュエット(アルト、テノール)は、同じルーツのBWV 120から転用ですし、
終曲コラール(讃美歌)は、カンタータBWV 137 からの流用です。 そして、第1曲
合唱は、後にミサ曲 ロ短調 BWV 232の「クレド」の終曲 ” Et expecto ”に転用
されています。
既にある曲を転用して新たな作品にすることを”パロディ手法”と言いますが、バッハの
パロディはどれも作品として完成された曲になっています。教会暦のカンタータは一年に
一回一度しか演奏出来ませんから、メロディを使い回し再演も良かれとしたしたんで
しょうね。
こんなバッハの編曲、パロディ手法の聴き比べも楽しいものです。
Bach Collegium Japan Bach cantatas vol.51 120a 157 192 195

Posted at 2021/11/10 21:27:12 | |
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