京アニ放火殺人事件を伝える碑が完成 36羽の鳥が羽ばたく 京都
2024年7月14日 16時26分
「京都アニメーション」のスタジオが放火され、社員36人が死亡した事件で、会社の本社がある京都府宇治市の公園に、事件を伝える碑が完成し、14日に遺族などが参加して式典が開かれました。
事件の記憶を長く伝える象徴としての碑が完成したのは、京都府宇治市の「お茶と宇治のまち歴史公園」で、14日の式典には、遺族や従業員など93人が参加しました。
碑文には「夢と情熱を人から人へ。私たちの途切れることのない未来への羽ばたき」などと刻まれ、亡くなった36人を表す36羽の鳥が羽ばたく様子がデザインされています。
京都アニメーションのクリエーターがデザインを手がけ、式典では従業員の代表者のメッセージとして「一羽一羽の鳥たちがたくさんの方々のおもいを届け、つないでいくという気持ちを込めています。おもいを寄せる象徴となることを願っています」などと紹介されました。
このあと、遺族の1人があいさつし「建立に関わった方々に深く感謝します。亡くなったスタッフの情熱と技術は、今も会社のスタッフの中で生きていて、作り続けられる作品が多くの人々に希望と感動を与え続けていることを誇りに思っています。亡くなった方々のおもいを胸に、前を向いて歩んでいきたい」と述べました。
碑は一般に公開されますが、京都アニメーションは献花などは控えてほしいとしています。
5年前の2019年、京都市伏見区の「京都アニメーション」の第1スタジオが放火され、社員36人が亡くなった事件では、殺人などの罪に問われた青葉真司被告に、ことし1月、京都地方裁判所が死刑判決を言い渡し、被告は控訴しています。
石田奈央美さんの母親 “碑は一つの心の支えに”
京都アニメーションで色彩設計を担当していたアニメーターで、事件で亡くなった石田奈央美さん(当時49)の母親は「娘はアニメが大好きで仕事を一生懸命やっていましたが、突然、事件で亡くなってしまいました。親としては、娘が自分の好きなことを仕事にできていたという証しがほしいと思っていたので、碑は一つの心の支えになるのかもしれないと思っています」と話していました。
碑を訪れた人は…
碑が公開された後、一般の人が訪れ、碑の前で思いをはせていました。
京都アニメーションの作品のゆかりの場所をめぐっているという愛知県の30代の男性は「京都アニメーションの作品を愛していたので、事件直後はすごく悔しくて、たくさん泣きました。事件のあと、正式に手を合わせることができる場所がなかったので、きょう来ました。碑に多くの人が訪れ、未来に向けて発展していけばよいと思います」と話していました。
宇治市の70代の女性は「すばらしい作品を作る人たちがたくさん亡くなり、とても信じられませんでした。安らかに羽ばたいて見守ってほしいと思いました。公園に来る人は、亡くなった人たちのことを忘れず、悼んでほしいです」と話していました。
碑のデザイン 京アニのクリエーターが手がける
碑は事件をめぐって国内外から義援金など多くの支援が寄せられたことを受け、事件や犠牲者の存在、それに支援への感謝を記憶にとどめる象徴として、遺族や会社などが現場のスタジオの跡地とは別に会社の本社がある宇治市への設置を計画しました。
碑は高さが3メートルあり、デザインは京都アニメーションのクリエーターが手がけました。亡くなった36人を表す36羽の鳥を金属で鋳造し、羽ばたく様子を表現しています。
碑文を刻んだプレートはアニメ制作に使われる原画用紙がかたどられているということで、「夢と情熱を人から人へ」と大きく記したあと「アニメーションを通じて果てしなく広がる夢。1本の線を描くのにも長年培った技術と深い想い。子どもたち、そしてすべての世代に届く確かな映像と物語。ここ、宇治・京都から世界に向けて発信していく。私たちの途切れることのない未来への羽ばたき」と刻まれています。
一方、会社では、事件が起きたスタジオ跡地にも将来的に慰霊碑の設置が想定されるとしていますが、会社の事業用地としての利用も想定される状況になったとして一般には公開されない見込みだとしています。
京アニ従業員代表のメッセージ 全文
14日の式典で紹介された京都アニメーションの従業員代表のメッセージの全文です。
「『志を繋ぐ碑』設置の報告に際し、従業員の代表からご挨拶申し上げます。皆さまには大変ご多忙中にも拘らず、設置報告会にご臨席を賜り、誠にありがとうございます。2019年7月18日、凄惨な事件によって、大切な多くの仲間が傷つけられ、尊い36名の命が犠牲になりました。事件から5年が経とうとしていますが、私たちは、大切な仲間のことを忘れたことはありません。また、事件が発生して世界各国の方々から温かいご支援の言葉や義援金をお寄せいただきました。お一人おひとりのメッセージに何度も励まされました。深く感謝しております。私たちは、その励ましを原動力に、志を未来に繋いでいく、その一心で、私たちにできる精一杯を映像制作に込めてきました。改めて、京都府ならびに宇治市をはじめ、多くの方々から多大なるご支援とご尽力をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。日を重ねるにしたがい、世界中から温かいご支援をいただいたことへの感謝、ならびに皆さまが想いを寄せる場所を形にできないかと、私たちはご家族代表の皆さまと慰霊碑建立検討委員会を組織し、「志を繋ぐ碑」の実現を目指しました。碑のデザインの草案は、従業員代表から提案したい旨を要望しました。想いが伝わるふさわしいデザインはどのようなものかと試行錯誤しながら40近い原案を作成し、ご家族皆さまと相談するとともに慰霊碑建立検討委員会においてご家族代表の方々と議論を重ねました。碑文についても従業員代表とご家族代表とで原案を出し合い、同様に議論を重ねました。また、碑の制作をご担当いただいた東京藝術大学の皆さまにおいては、私たちの想いを十分にご理解いただき、専門的な知見と高い芸術性を持って碑を形にしてくださいました。そして、宇治市には適切な設置場所ならびに碑の寄贈を受け入れていただきました。皆さまのご尽力のおかげで碑の建立を実現することができました。深く御礼申し上げます。この碑は、一羽一羽の鳥たちがたくさんの方々の想いを汲み、そして繋いでいくという気持ちを込めて形にしています。そして碑文はその想いを言葉にしています。多くの方にとって、想いを寄せる象徴となることを願っております。最後になりましたが改めまして、お力添えをいただきました皆さまに深く感謝申し上げます」
被害者家族代表のあいさつ 詳細
14日の式典で被害者の家族を代表して話をした遺族のあいさつの詳細です。
「私は、亡くなったスタッフの1人である娘の父親です。本日は、亡くなった方々をしのび、彼らの情熱と技術をたたえ、そして未来に向けての誓いを立てる場として、ここに立たせていただいています。まず初めに、この『志を繋ぐ碑』を建立するにあたり、多大なるご支援をいただいた世界中の京都アニメーションのファンの皆様に深く感謝申し上げます。皆様の温かい思いがこの形として実現しました。また、この碑のデザインを手がけてくださった京アニのスタッフの方々、そして、アルミ鋳造ですばらしい作品を制作してくださった、東京藝術大学の皆様にも心から感謝いたします。この碑は36羽の鳥が空に向かって飛び立つ姿を描いています。これは、亡くなったスタッフ一人一人の魂が、新たな未来へと羽ばたいていく姿を象徴しています。この美しいデザインと精巧な制作には、多くの思いが込められています。この「お茶と宇治のまち歴史公園」の敷地を提供していただきました、宇治市長初め、宇治市の皆様にも深く感謝いたします。宇治市は、私たちにとって大切な場所であり、この地に『志を繋ぐ碑』が立てられることに、深い意味を感じております。また、この碑を建立するにあたり、『志を繋ぐ会』の皆様にも心より感謝申し上げます。『志を繋ぐ会』は、宇治市、宇治市商工会議所、宇治市観光協会、京アニ社員、そして遺族連絡会幹事で構成され、ワーキンググループは、約2年間にわたりほぼ毎月議論を重ね、この碑の完成を迎えることができました。関係者の皆様に深く感謝いたします。この碑には、『夢と情熱を人から人へ』という碑文が刻まれています。このことばは、亡くなったスタッフ一人一人の志を36羽の鳥に託し、長く記憶にとどめるために刻まれました。京アニスタッフの皆さん、事件から5年がたちましたが、皆さんが見せてくれた強さと勇気に心から敬意を表します。亡くなったスタッフの情熱と技術は、今も皆さんの中で生き続けています。そして皆さんが作り続ける作品が、多くの人々に希望と感動を与え続けていることを、私たち遺族は誇りに思っています。これからも京アニの作品が多くの人々の心に届き、亡くなったスタッフの思いが生き続けることを願っています。そして、彼らの情熱と技術を継承し、すばらしい作品を作り続けてください。最後に、ここに集まってくださったすべての方々に、改めて、心から感謝申し上げます。亡くなった方々の思いを胸に、これからも前を向いて歩んでいきたいと思います」。
Posted at 2024/07/15 00:02:27 | |
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