大川原化工機 えん罪事件 都と国上告せず 謝罪 検証へ
2025年6月11日 19時17分
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横浜市の「大川原化工機」をめぐるえん罪事件で、警視庁公安部と検察の捜査の違法性を認め、賠償を命じた東京高等裁判所の判決について、都と国は11日、上告しないことを明らかにし、当事者などに謝罪するコメントを出しました。
それぞれ当時の捜査の問題点を検証することにしていて今後、適切な捜査の徹底につなげられるかが焦点となります。
目次
捜査の何が違法とされたのか
警視庁公安部の歴史と組織
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捜査の何が違法とされたのか
警視庁公安部の歴史と組織
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軍事転用が可能な機械を不正に輸出した疑いで逮捕、起訴され、後に無実が判明した横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の社長などが都と国を訴えた裁判で、2審の東京高等裁判所は5月、1審に続いて警視庁公安部と東京地検の捜査の違法性を認めるとともに、「輸出規制の要件についての警視庁公安部の解釈は国際的な合意と異なり、合理性を欠いていた」などと指摘し、都と国にあわせて1億6600万円あまりの賠償を命じました。
判決について、都側の警視庁と国側の東京地検は内容を精査した結果、11日、それぞれ最高裁判所に上告しないことを明らかにし、会社や関係者に謝罪するコメントを発表しました。
このなかで、警視庁は「捜査によって原告をはじめとする当事者に多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて、深くおわびを申し上げたい」としたうえで、一連の捜査の問題点を洗い出し、再発防止策をとりまとめるため、副総監をトップとする「検証チーム」を立ち上げたことを明らかにしました。
関係者の処分については検証の結果を踏まえて判断するとしています。
また、東京地検は「大川原化工機およびその関係者の皆様に多大なご負担をおかけしたことについて、おわび申し上げたい」としたうえで、今後、最高検察庁による検証が行われることを明らかにしました。
警視庁と東京地検は当事者への直接の謝罪についても速やかに行いたいとしています。
これで、捜査の違法性を認定した判決が確定することになり、今後の検証で当時の捜査の問題点を明らかにし、再発防止や適切な捜査の徹底につなげられるかが焦点となります。
大川原化工機の社長など会見「怒りは消えない」
判決が確定することを受けて大川原化工機の社長などは11日、都内で会見を開きました。
逮捕され勾留中にがんが見つかり、起訴が取り消される前に72歳で亡くなった相嶋静夫さんの長男は「本来、4年前に起訴が取り消されたときに捜査機関が謝るべきで、被害者側がここまで頑張らなければ検証できないことにむなしい気持ちがある。父は社会から犯罪者として扱われ、過失があったかもしれないと思いながら人生を終えた。時間がかかっても怒りは消えないし、できることなら時計を戻してもらいたい」と、涙ぐみながら話していました。
そして「やっとマイナスからゼロになり、スタートラインに立った」と話し、捜査機関の検証を求めました。
元取締役の島田順司さんは「上告断念の話を聞いて、心の中の雲がやっと晴れた。法廷で『間違いがあったとは思わない。謝罪もしない』と話していた検察官は、何らかの謝罪をしていただきたい」と話していました。
大川原正明社長は「やっと一段落ついたという思いがある。捜査機関は自分や社員、その家族に謝罪してほしい。人質司法の問題について改革を訴えていきたい」と話していました。
高田剛弁護士は警察や検察に求めることとして誠意ある謝罪と第三者主導の検証委員会による原因究明などを挙げるとともに、経済産業省に対して輸出規制に関する省令の改正、裁判所と検察に対して「人質司法」といわれる保釈の実務の見直しを要望しました。
警視庁公安部長「捜査指揮や適正捜査が不徹底」
警視庁では11日午後3時から警務部や公安部の幹部が出席し、上告しないことに関する説明を行いました。
当事者への直接の謝罪については中島寛 公安部長が「先方の希望、ご都合があるので、丁寧に確認しながら進めていきたい」と述べた上で検証結果を待たず、できるだけ早い時期に実施したいとする考えを示しました。
警視庁は副総監をトップに検証チームを立ち上げて捜査上の問題点を検証し、再発防止策をとりまとめた上で、できるだけ早い時期に結果を公表する方針も明らかにしました。
検証には監察部門も参加し、公安委員会の助言を受けることで公平性を担保するとしました。
中島公安部長は「現段階での反省点」について記者から問われると、「少なくとも捜査指揮や緻密かつ適正な捜査が不徹底だったことは間違いない」と述べて、今後の検証の過程で課題を洗い出していく考えを示しました。
小池知事「事件の検証と関係者への謝罪を」
東京都の小池知事は、「警視庁において今回の事件を検証して再発防止を図るとともに、関係者への謝罪をしっかり行ってほしい」と述べました。
東京地検「速やかに謝罪したい」
東京地検の新河隆志 次席検事は11日午後4時半から取材に応じ、上告しなかった理由を説明するとともに、当事者に直接謝罪したい考えを示しました。
まず、上告しなかった理由については「控訴審でも勾留請求と起訴が違法と判断されたことについて真摯に受け止めなければならないと考えている。協議した結果、判決内容を覆すことは困難と判断した」などと説明しました。
その上で、「会社側に上告しないことを伝えた際、直接、謝罪したいという意向を伝えている。可能な限り速やかにしかるべき立場の者が謝罪をさせていただきたい」と述べ、今後、対面で謝罪する意向を明らかにしました。
また、勾留中にがんが見つかり、亡くなった元顧問の相嶋静夫さんについては「心よりお悔やみ申し上げます」と述べたうえで、「訴訟のなかで、ご心痛、ご苦労をお掛けしたことについて被告になられた方のみならず、従業員含め、その親族の方にも謝罪したい」と話しました。
最高検が行う検証については「問題点、反省点について分析が行われ、それを踏まえて再発防止策が検討されるものと承知しており、検証対象の地検として協力したい。公表時期については未定だが、すみやかに行われるものと考えている」と述べました。
起訴した検察官の判断が合理的な根拠を欠いていたと判決で指摘されたことについては「違法と認定されたことは真摯に受け止めなければならないがその過程は今後検証されるものであり、合理性があったかどうかについては現時点では差し控えたい」と述べました。
最高検「検証行い結果を公表予定」
最高検察庁は「最高検としても、大川原化工機とその関係者の皆様に多大なご負担をおかけしたことについて、おわび申し上げたい。今後、最高検において検証を行い、その結果を公表する予定だ」などとするコメントを発表しました。
警察庁 全国の警察に通達「緻密かつ適正に捜査を」
警察庁は今回の判決を重く受け止める必要があるとしたうえで、全国の警察に対し、「公安部門においても、法令と証拠に基づいて緻密かつ適正に捜査が行われなければならない」とする通達を出し、▼職員に改めて適切な捜査活動の必要性を認識させるとともに、▼幹部が十分な捜査指揮を行うよう指示しました。
林官房長官「検証結果踏まえて必要な対応を」
林官房長官は午後の記者会見で「関係当局において対応を検討した結果、上訴しないこととし、原告をはじめとする当事者に対するおわびを表明するとともに、問題点の検証を行う旨のコメントを発表した。まずは関係当局において所要の検証が行われるものと承知しており、その結果を踏まえて必要な対応が行われることが重要だ」と述べました。
Posted at 2025/06/11 20:47:40 | |
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