北海道 釧路湿原でメガソーラー建設相次ぐ 市長と環境相が面会
2025年9月19日 23時29分
北海道の釧路湿原周辺での大規模な太陽光発電施設、「メガソーラー」の建設が相次ぐ中、釧路市の市長が浅尾環境大臣と面会し、自然保護に向けて規制を強化するための法整備を要望しました。
目次
【Q&A】新たな条例 その狙いや詳しい内容は
釧路湿原の周辺では、「メガソーラー」の建設が相次ぎ環境保護団体などから、国の特別天然記念物のタンチョウなど希少な野生生物への影響を懸念する声があがり、釧路市では新たな条例を成立させました。
こうした中で19日、釧路市の鶴間秀典市長が環境省を訪れて浅尾環境大臣と面会し、冒頭、鶴間市長は「再生可能エネルギー政策や地球温暖化対策には大賛成ですが、地域の中で守りたい自然があり、規制できるような法律の裏付けがあればありがたい」と述べました。
これに対して浅尾環境大臣は「地域との共生が図られない、太陽光発電施設の建設問題について大変ご苦労されていると認識しており、国としても必要な対応が求められていると考えている」と述べました。
面会のあと、鶴間市長は記者団に対し、「太陽光パネルが増えているが、現状の法律では、促進区域はあっても規制区域はなく、ゾーニングができない仕組みとなっている。市町村ごとに規制区域も設定できるような整備を大臣にお願いした」と述べました。
環境省は、9月24日に関係する省庁と連携して太陽光発電と地域の共生などを検討する連絡会議を設置し、釧路を含めた全国各地の課題を共有した上で、制度的にどのような対応ができるかを検討していく方針です。
観光客「なぜここにあるのか疑問」
釧路湿原周辺で大規模な太陽光発電施設、「メガソーラー」の建設が相次ぐなか、湿原を一望できる展望台を訪れた観光客からは、さまざまな声が聞かれました。
福岡県の80代の男性は「これだけきれいな湿地帯は、再び作ろうと思ってもできないので、湿原周辺ではなく、ほかに建設できる場所があるのではないか」と話していました。
大分県の50代の女性は「きれいな湿原を期待していたが木立ちの間に光るメガソーラーが見えてしまうのが残念だ。なぜここにあるのか疑問に思います」と話していました。
また、ニュージーランドから訪れた60代の女性は「人間の勝手な開発で動物の命を奪うことはよくないと感じる。国が自然保護に力を入れなければ私たちの環境がダメになる」と話していました。
【Q&A】新たな条例 その狙いや詳しい内容は
釧路市は、メガソーラーを含む太陽光発電施設の設置に市長の許可を必要とする新たな条例を成立させました。その狙いや、詳しい内容をまとめました。
Q.
なぜ釧路湿原の周辺でメガソーラーの建設が相次いでいるのか?
A.
釧路湿原の周辺は、土地が平らで、北海道内でも日照時間が長く雪もあまり降らないため、メガソーラーに適した条件がそろっています。さらに、土地が比較的安いことも事業者にとって、開発する上でメリットになっています。
Q.
メガソーラーの設置が集中しているのは、どんな地域なのか?
A.
施設が集中しているのは、釧路市の市街地と釧路湿原国立公園の間にある「市街化調整区域」です。「市街化調整区域」というのは、本来、「開発や建物の建築が抑制されているエリア」です。ただし、太陽光発電施設はこの対象にあたらないため、次々と建設が進んでいるのです。
Q.
この条例(10月1日施行)により、見込まれる効果は?
A.
開発の前に市長の許可が必要になるため、手続きが適切に行われていなかった場合は設置が許可されません。
また、許可されても、その後不正が明らかになった場合は許可が取り消されるほか、事業者の名前も公表するとしています。
このほか、国の特別天然記念物のタンチョウや、キタサンショウウオなどあわせて5種の野生生物が(「特定保全種」)生息する可能性が高い区域に太陽光発電施設の建設を計画する事業者には、市が選定した専門家の意見に基づいて生息調査や保全対策を行うよう求めることができます。
さらに、事業者は事前に建設計画を届け出て協議することや住民説明会を実施することが求められています。
このほか、▼将来、施設を解体・撤去する際にかかる費用を、計画的に積み立てることや、▼損害賠償責任保険に加入することも義務づけられます。
Q.
条例で、開発に歯止めはかかるのか?
A.
その実効性については、まだ注視する必要があります。条例に違反した場合の罰則はありません。
また、条例が適用されるのは来年の1月から建設されるものに限られるため、すでに工事が進められている施設については適用されません。そのため、釧路市や周辺自治体は無秩序な開発行為を規制するためにより抑止力のある法の整備を国に求めています。
事業者の経済活動と、自然保護の両立を図りながら実効性のある規制のあり方をどう探っていくかが今後の焦点になります。
自然環境の保全と開発 4市町村が対応に苦慮
釧路湿原は4つの市町村に面していますが、自然環境の保全と開発をめぐっては、それぞれ対応に苦慮しています。
釧路湿原周辺には2012年ごろから、出力1000キロワット以上の大規模な太陽光発電施設、いわゆる「メガソーラー」の建設が相次ぐようになりました。
NHKが、自治体などへの取材をもとにまとめたところ、ことし7月末の時点で、4つの自治体に計画されているメガソーラーは、▼釧路市に48か所、▼釧路町に6か所、▼標茶町が3か所、▼鶴居村が3か所となっています。
現時点で、メガソーラーの設置を規制する国の法律はなく、いずれの自治体も、条例やガイドラインを作ることで景観や生物の保全にあたっています。
釧路市は、おととし事業者に▼着工の60日前までに計画を届け出ることや、▼近隣住民への説明会を実施することなどを求めるガイドラインを策定しました。
さらに、9月、メガソーラーを含む施設の設置に市長の許可を必要とする条例を成立させました。
この条例は、10月1日に施行されます。
また、鶴居村は3年前に事業者に開発計画の事前提出を義務づける条例を制定したほか、去年も、計画を届け出る前に村と事前協議を行うことを定めた景観条例を施行しています。
標茶町も、おととしガイドラインを施行して事業者に対して、施設を設置する場合は、近隣住民への説明会を実施することなどを求めています。
ただ、いずれの条例やガイドラインも罰則規定はないため、事業者の開発を抑制するのは難しいのが実情です。
一方、釧路町では、再生可能エネルギーの開発と、自然保護の両立を図るため、施設の開発に適した土地と、生態系を保全すべき区域を分類する、「ゾーニングマップ」を策定しています。
釧路湿原が一望できるため、多くの観光客が訪れる「細岡展望台」は開発を避けるべき保全区域とされています。
釧路町環境生活課の大中公史課長は「再生可能エネルギーは温暖化対策としての役割もある。地域の意見も事業者の考えも聞いて、脱炭素社会の実現やよりよいまちづくりにつなげていきたい」と話しています。
事業者の対応は
釧路湿原周辺で、工事が進められている地区の1つ釧路市北斗の森林では、北海道が9月2日、知事の許可を得ないまま開発が進められていたとして、大阪の事業者に対して、工事の一部中止を勧告しました。
さらに、現地ではこの事業者が行った盛り土が、法律で道への届け出が必要とされる規模を大幅に超えていたことも明らかになりました。
聞き取り調査に対し、事業者は、「届け出が必要なエリアという認識はなかった」とした上で、9月11日以降、1か月程度、すべての工事を中止すると説明したということです。