今年度の文化勲章に王貞治さんら8人 文化功労者に21人選出
2025年10月18日午前5時15分
今年度の文化勲章の受章者に、元プロ野球選手 王貞治さんやことしのノーベル化学賞に選ばれた北川進さんなど8人が選ばれました。
また文化功労者には、声優の野沢雅子さんなど21人が選ばれました。
文化勲章
文化勲章を受章するのは次の8人の方々です。
▽元プロ野球選手で元監督の王貞治さん(85)
世界のホームラン王としてプロ野球史上に数々の偉大な記録を残したほか、東京オリンピックの開会式では、聖火リレーに参加し、国民の代表的な存在として、大会を盛り上げました。
▽ことしのノーベル化学賞に選ばれた京都大学理事の北川進さん(74)
「多孔性金属錯体」と呼ばれる極めて小さい穴を多く持った材料を開発し、学術的・産業的価値を広げ、大きな業績を挙げました。
▽歌舞伎俳優の片岡仁左衛門さん(81)
傑出した芸域の広さが高く評価され、人気と実力を兼ねた俳優として歌舞伎界をけん引してきたほか、後進の育成にも熱心に取り組み芸の伝承にも尽力しました。
▽ファッションデザイナーのコシノジュンコさん(86)
パリ・コレクションなど世界各国を舞台に活躍を続けてきたほか、大阪・関西万博ではシニアアドバイザーを務めるなど諸外国との文化交流に貢献しています。
▽国立循環器病研究センター名誉総長の川島康生さん(95)
革新的な手術法を開発して心臓手術の安全性を飛躍的に高めるなど、命を救うという人類共通の課題に顕著な功績を残しました。
▽国際日本文化研究センター名誉教授の小松和彦さん(78)
妖怪を迷信ではなく、人々の心意を反映した現象として文化史的・構造的に研究するなど民俗学の新たな知見と展望を開拓しました。
▽東京大学名誉教授の辻惟雄さん(93)
絵師の正統とされる狩野派の研究はもとより、光のあたらない絵師たちに着目するなど、豊富な知識と鋭敏な感性で芸術文化の振興に寄与しました。
▽中部大学卓越教授の山本尚さん(82)
有機化合物の合成を効率的に行うのに必要な触媒を開発するなど、深い洞察と独創的発想で、数々の画期的な業績を挙げました。
文化功労者
また、文化功労者に選ばれたのは次の21人の方々です。
▽美術家のイケムラレイコさん(74)
▽陶芸家でいわゆる人間国宝の伊勢崎淳さん(89)
▽落語家の柳家さん喬さん(77)
▽小説家・評論家の水村美苗さん(74)
▽元全日本柔道連盟会長の上村春樹さん(74)
▽国立がん研究センター名誉総長で、泌尿器科学が専門の垣添忠生さん(84)
▽国立民族学博物館名誉教授で文化人類学が専門の小長谷有紀さん(67)
▽京都大学名誉教授で高分子化学が専門の澤本光男さん(73)
▽日本料理家の高橋英一さん(86)
▽マンガ家の竹宮惠子さん(75)
▽ダンサーの田中泯さん(80)
▽声優の野沢雅子さん(88)
▽新内節三味線演奏家でいわゆる人間国宝の新内仲三郎さん(85)
▽劇作家・演出家・俳優の野田秀樹さん(69)
▽建築家の坂茂さん(68)
▽元日本レスリング協会会長の福田富昭さん(83)
▽広島大学名誉教授で半導体デバイス工学が専門の三浦道子さん(76)
▽国立国際医療研究所所長で感染症学が専門の満屋裕明さん(75)
▽東京大学名誉教授で文化人類学が専門の山下晋司さん(76)
▽東京大学名誉教授で政治学が専門の渡邊浩さん(79)
▽このほか文化勲章を受章する北川進さんも文化功労者に選ばれています。
文化勲章の親授式は来月3日に皇居で、文化功労者の顕彰式は来月4日に都内のホテルで、それぞれ行われます。
王貞治さん「みなさんに感謝」
文化勲章を受章する王貞治さんはプロ野球、巨人の中心打者として大リーグの記録も上回る通算868本のホームランを打ち、「世界のホームラン王」と呼ばれました。
引退後は監督として巨人でリーグ優勝1回、ソフトバンクの前身、ダイエーで3回のリーグ優勝、2回の日本一に輝き、少年野球の大会の開催に力を尽くすなど野球の普及や発展にも取り組んできました。現在は、ソフトバンクの球団会長を務めています。
王さんは福岡市で取材に応じ、「本当にびっくりしています。われわれはチームスポーツなのでみんなでいただいた感じです。みなさんに感謝の意を表して『ありがとうございます』と言いたいです」と心境を話しました。
また、4年前に文化勲章を受章し、ことし6月に亡くなった盟友の長嶋茂雄さんに触れ、「この喜びを分かち合えたらよかったと思うんですけど、長嶋さんも喜んでくれていると思います」と話しました。
そのうえで今後について「これまでやってきた野球をいい形で進めていくことで恩返しするしかないと思います。勝ち負けにあまりとらわれない野球をやっていけたら輪が広がるだろうと思います。野球を志す人を増やしていけるようにがんばりたいです」と野球のさらなる普及・発展に意欲を示しました。
片岡仁左衛門さん「大きな評価をいただけて幸せを実感」
文化勲章を受章する歌舞伎俳優の片岡仁左衛門さんは、大阪出身の81歳。
十三代目片岡仁左衛門の三男で5歳の時、片岡孝夫の本名で初舞台を踏みました。
関西で活躍した後、東京へと活動の場を広げ、1998年、53歳で十五代目片岡仁左衛門を襲名しました。
歌舞伎界を代表する立役で、端整な顔立ちと美しい所作などに定評があり、時代物から世話物まで幅広い役柄を演じてきました。
中でも「菅原伝授手習鑑」の菅丞相の役は知性と憂い、清廉さが見事に表現された当たり役で長年、演じています。
2015年には人間国宝に選ばれ、後進の育成にも熱心に取り組んでいます。
仁左衛門さんは「自分が好きでやってきたことで、大きな評価をいただけて幸せを実感しています。舞台をつとめていてお客様に受け入れられている空気が伝わってきたときがいちばんうれしいです。若いときは仕事がなく舞台に立てないつらい時期もありましたが、それもこれも今となっては楽しい思い出です。これからもなお一層、精進して、多くの方々に歌舞伎に親しんでもらえるよう努力しなければならないと思います」などと喜びを語りました。
コシノジュンコさん「これからも私ができることを」
文化勲章に選ばれたデザイナーのコシノジュンコさんは大阪府岸和田市出身の86歳。
東京の文化服装学院に在学中、新人デザイナーの登竜門とも言われる装苑賞を19歳で受賞し、デザイナーとしてデビューしました。
赤と黒や、丸と四角など、「対極」をコンセプトにしたデザインで国内外から高い評価を受け、1978年以降、20年余りにわたってパリ・コレクションに参加しました。
また、中国やキューバなど世界各地でファッションショーを開催するなど、ファッションを通じた日本文化の理解の促進や国際交流に貢献してきました。
近年では和食を海外に広げる活動に積極的に取り組んでいるほか、大阪・関西万博ではシニアアドバイザーを務めるなどファッションの枠にとどまらず活躍しています。
2021年には日本とフランスの文化交流に大きく貢献したとして、フランスで最も権威のある国家勲章、「レジオン・ドヌール勲章」を受章しました。
文化勲章に選ばれたことについてコシノさんは「ファッションに軸を置きつつもそれを超えた文化的な活動をしてきたことで今回、選ばれたのだと思います。私はいつも前向きで『過去はゴミだ』と言っているのですが、未来は未知の世界で何をやっても自由なのでやる気になれば何でもやれます。これからも私ができることを私なりにやっていきたい」と話していました。
田中泯さん「全く空想すらしておらず本当にうれしい」
文化功労者に選ばれた世界的なダンサーで俳優の田中泯さんは東京出身の80歳。
大学在学中にダンサーを志し、1970年代から人間の体に対する独自の概念に基づいた実験的なパフォーマンスを展開してきました。
海外での評価も高く1990年にはフランスの芸術文化勲章を受章しています。
俳優としては57歳の時に「たそがれ清兵衛」で映画に初出演し、ダンサーの身体性を生かした敵役の演技が注目され、それ以降、数多くの映画やドラマに出演しています。
NHKでも2015年放送の連続テレビ小説「まれ」で個性的な塩職人を演じるなど、さまざまな役柄で存在感を見せています。
ことし大ヒットしている映画「国宝」では、人間国宝の歌舞伎の女形を演じるため日本舞踊を習って歌舞伎の演目に挑戦し、話題を呼びました。
文化功労者に選ばれたことについて田中さんは、「全く空想すらしておらず本当にうれしかった。踊りとは体を近くで見て、感じ空気まで動かすものでありそのよさはかけがえのないものだ。体一つでコミュニケーションが始まる踊りという行為を選んだ私はすごく運がよかった。踊りを中心に生きていくことにこれからも変わりはない」などと喜びを語っていました。
野沢雅子さん「こんな素敵なご褒美をいただけるなんて」
文化功労者に選ばれた声優の野沢雅子さんは東京生まれの88歳。
3歳で子役として映画デビューしたあと高校生で劇団の研究生になり、俳優として活動していましたが、洋画の吹き替えのオーディションに合格したことをきっかけに声優のキャリアをスタートさせました。
テレビアニメ「ど根性ガエル」のひろし役、「銀河鉄道999」の星野鉄郎役などの声を担当し、日本の声優文化をけん引してきた第一人者として知られています。
中でも「ドラゴンボール」シリーズでは主人公の孫悟空の声を担当し、「オッス、オラ悟空!」などのセリフで人気を集めました。
88歳のいまでもテレビ番組のナレーションや朗読劇の出演など、精力的に活動を続けています。
野沢さんは「気がつけばずいぶん長い時間を“声”とともに歩んできましたが、自分なりに続けてきたことで、こんな素敵なご褒美をいただけるなんて、本当に感激しています。このご褒美は、声優界を代表してお預かりしたものだと受け止めております。また、作品やキャラクターを生み育ててこられたクリエイターの皆さま、ファンの皆さまに、心より感謝申し上げます。皆さまの存在があってこそ『文化』が育まれ、私たち声優の歩みも支えていただいてきました。元気だけが取り柄ですので、これからも全力で“声”を届け、少しでも文化への恩返しができたらと思っております」とコメントしています。
野田秀樹さん「全く思いがけなかった」
文化功労者に選ばれた劇作家で演出家、俳優の野田秀樹さんは長崎県生まれの69歳。
東京大学在学中の1976年に劇団「夢の遊眠社」を結成、ことば遊びを交えた鋭く風刺のきいたせりふや、ステージを縦横無尽に動き回る躍動的な演出を取り入れた舞台が人気を集め、小劇場の演劇シーンを席けんしました。
その後、演劇企画制作会社「NODA・MAP」を設立し、作品ごとに人気俳優を集め、話題作を次々に発表してきました。
演劇を通じて差別や分断、歴史や暴力といった根源的なテーマで現代社会への問題提起を続けてきました。
現代劇だけでなく、歌舞伎やオペラの演出も手がけてきたほか、海外公演も精力的に行うなど長年にわたり演劇界の第一線で活躍しています。
東京芸術劇場の芸術監督を長年、勤めているほか、多摩美術大学では後進の指導にも熱心に取り組んでいます。
文化功労者に選ばれたことについて野田さんは「全く思いがけなかったが、演劇は、自分が若い頃に比べると日本文化の中で少しずつ真ん中では無くなってきている感じがしていたので、そういう時に演劇に目を向けてくれるのは、非常にありがたく思います。芝居は身体性を持つ人間にしかできない深く人間に根ざした表現で、AIには絶対にまねができないと思う。これからも芝居は人々の強い興味の対象であり続けると思います」と話していました。