
本日4月19日、私は誕生日を迎えました。
もう歳だし、家族が用意してくれたケーキを食べただけですが。
取り敢えず節目の日には、普段とは違う話題で書評を一席。
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徳大寺有恒、巨匠と呼ばれる自動車評論家です。
幼少の頃からクルマ以外のおもちゃには見向きもしなかった、ひたすらカーマニアを標榜する私ですが、50年排ガス規制が行われて軒並みクルマの性能が低下し、スポーツタイプのクルマが生産中止になった1975年-1976年の2年間はクルマへの興味が失せていました。当時は音楽に目覚めた時期でそちらに興味が行っていた事もありますが。
そんな中父が、
「こんな本が売っていたぞ」
と買って来たのが

間違いだらけのクルマ選び(初版)でした。
一読した感想は、
「すごい!こんな見方でクルマを批評出来る人がいるなんて。この人一体誰なのだろう?」(最初は覆面作家だったので)
それまで、自動車雑誌等でクルマの出来映えについては肯定的な記事ばかりで、否定的な事を書く評論家は殆んどいませんでした。また乗用車を一堂に並べて批評する単行本も殆んどありませんでした。
1970年代、日本車は世界水準に追いつくべく躍起になっていた時代ですが、まだレベルが低い状態でした。その事実を取り上げることは殆んど無く自動車メーカーと評論家が持ちつ持たれつの中で、これではダメだと叱咤し、クルマを総合的に「斬る」という批評スタイルを初めて行ったのが氏でした。
これで一気に氏のファンになり、クルマへの興味を取り戻して再びカーマニアになった私は、間違いだらけのクルマ選びを2006年の最終版まで28年間買い続けることになりました。
2006年で最終になったのは、本人の病気のためというのが公式見解でしたが、「契約が終了しただけで、私はまだ書く気はある」という当時の氏のコメントとは食い違っていました。その辺りは出版元の草思社が、2008年に事実上の倒産した事と関係があるのかはよくわかりません。
私は高校生の頃自動車雑誌を立ち読み6時間という記録を建てましたが、最近はあまり書店には行きません。でも時間調整にちょっと寄ったらこの本を見付けました。もうすぐにレジに直行です。
ともかく、間違いだらけというタイトルの本がまた読める、これは私にとっては非常に喜ばしい事です。
さて内容ですが、タイトル通りエコカーについての解説、提言に誌面の半数以上を費やしています。
曰く、
「ハイブリッドカーがこれからのクルマの全てを占める訳ではない」
「電気自動車はバッテリーの革新が起きない限り、ある程度のシェアを占めるのはまだまだ先の話」
「その前に内燃機関の技術向上で次世代に繋がなければならない」
「ディーゼル乗用車を締め出すのはいけない」
「道路や法律等インフラの整備が遅れると、せっかくの次世代エネルギーカーも立ち遅れてしまう」
です。彼の予測では、近距離はスモールタイプの電気自動車、遠距離はハイブリッド/プラグインハイブリッドカー)という意見で、これは私もそう思います。
でもディーゼル乗用車はどうでしょうか。ヨーロッパ車のディーゼルエンジンは下手なガソリン車よりもそれは素晴らしく、トヨタ、ホンダ、スバルさえも輸出向けにはディーゼルエンジンがあるそうですがまだ乗った事がないのでわかりません。エクストレイルのディーゼルも見たことが無いし・・・
私はディーゼルだと、即答しないドヨーンとしたエンジンレスポンス、頭打ちの速さ、ひどい振動と全くいいイメージが無いので、それ程素晴らしいならば乗ってみたいですね。
後半は氏の選択した30車種のエコカーを批評、100台を採点とあります。
ミニバンでは、何と昨年モデルチェンジしたRKステップワゴンを批評しています。
初代や2代目のかつての批評では
「ドシンバタンのよくない乗り心地」
「温泉旅館の送迎にでも使えば」
と酷評されていました。氏の実生活ではミニバンは必要ないらしいので冷淡なのかなと思っていました。ところがRKでは
「3列目シートの収納はとてもクレバーな設計で、さすがミニバンの老舗だ」
「ステップワゴンはある種機能を極めたクルマになっている。インサイトやフィット同様長く残す価値のあるクルマである」
と割合い高評価になっています。
それはステップワゴンオーナーとしては喜ばしい事ですが。
他車にも手厳しい批評は少ないです。もう少し厳しく
「こんなクルマでも買ってくれるユーザーがいるのはただ感心するばかりである」
程度の意見も言ってほしいです。
ところで氏は、個性的な容貌や独特の文体や常識にとらわれないライフスタイル(妻帯者なのに、若い女性を口説いたりする事を平気で公表したり等)で自動車評論家の中ではマスコミへの露出が大きいので、カーマニアの中でも割と嫌う方がみえますね。
無論氏と私とでは、ほぼ親子ほど年齢が違うし、家族環境(氏は奥さんと2人家族)や出自(自称貧乏だが、父親が資産家で恵まれた少年時代やレーシングメイトを起業するまでの過程を見ると裕福としか言いようがない)も違うので、氏の見解に全面的同調はしません。
全体の感想として、氏もお年寄り(失礼)になってだいぶ丸くなったのかなーという印象です。
それでも初版から論調には一本筋が通っていて(多少揺れている年もあるが)、著書を読むと安心します。
ハードの面はもとより、ソフトの面で環境や文化に至るまでに論破する評論家は今でこそいますが、30年以上前から継続しているのは氏を置いて他にいるでしょうか。
敢えて挙げれば新車情報のキャスターを長年担当された三本和彦氏ですが、TVでの江戸っ子そのものといえる「べらんめぇ」調は歯切れがいいのですが、車に対する装備やヒストリー等が十分にリサーチされていない点が散見され、誌面での論調がTV程の切れ味が無い事が少し残念だと思っていました。
もし初版を読んでいなければ、私はカーマニアにはならずに今頃は全くの一般人になっていたかも知れません。
文中には
「その先の時代、エレクトリックカーは安全に半自動運転でお年寄りや子供でも乗りまわせるかもしれない。出来れば私もその時代まで生き延びて電動のパーソナルコミューターを乗り回してみたい。天がそこまでの寿命を私に与えてくれることを願うのみである」
とも書かれています。幾度か病気で倒れて氏も大変だと思いますが、もっと健筆を奮ってほしいですね。
私の本棚にある徳大寺有恒著の蔵書です。
