臭気

　今朝の地下鉄車内。
　運良く副都心線直通の列車に乗れ、これまた運良く確保できたドア袖のポジションに寄りかかってみんカラーになりきっていた。

　あともう少しで乗換え駅、というところで乗ってきた乗客の誰かに、私は眉を顰めた。

　安っぽいオーデコロンの匂い。しかも一瓶全部振り掛けて来たのかの如き強烈さ。まるで便所の芳香剤である。

　そうなるともはや「香り」などとは呼べず、「匂い」を通り越して「臭気」の領域。
　迷惑千万な「トイレ女」or「雪隠野郎」の猛省を促したい。





　随分前のことだが、JR埼京線でこれまた強烈な人間に出くわした。
　敢えて「乗客」と書かなかったのは、追々お判りいただけるだろう。


　元の色が想像できぬほど汚い服。
　崩壊しかけ爪先の開いた靴。
　少なくとも一年以上は整えられていない髪。
　同じ期間カミソリを当てていないだろう髭。
　手の甲や脛には、垢とも汚れともつかない謎の物質が層を成してる。

　その人物は見た目が特異なだけでなく、刺激臭と表現すべき強烈な異臭を放ちながら、車内に立っていた。

　乗り合わせた他の乗客も、まず只ならぬ異臭に気付き、次いで「発生源」を認めると遠巻きにして去っていく。
　よってその人物の周辺は、夕方の時間帯にも関わらず無人状態。余計に異様な風貌と臭気が強調され、他の乗客との溝を埋めがたい深さにしていた。


　自動改札化されて駅員が減ったにしても、そんな人物が入場しようとしたら駅員が見咎め、引き留めるだろう。恐らくイレギュラ(イリーガル?)なルートで駅舎内に侵入し、電車に乗り込んだものと思われる。



　今の私なら真っ先に乗務員･駅員･警備員に通報して退去させるが、当時の私は寛大だったのか、はたまた異臭を発する人物への興味が勝ったのか、自分からは動かなかった。

　しかし異臭で気分を悪くする人が出てきたり、不潔極まりない体からノミやダニ･虱が車内に撒き散らされ、同時に病原菌も伝播させていたかもしれない。
　そうなると「地下鉄サリン事件」張りの生物兵器テロである。


　

　先日、東京メトロ副都心線渋谷駅においてサバイバルナイフを振り回した愚か者がお縄になった。
　私と同じ沿線の住人。行き帰りの通勤電車内で隣り合わせ、乗換駅のコンコースで擦れ違い、無神経にも私の背中に押し付けられたバッグ内に凶刃が隠されていた･･････やもしれない。

　如何なる理由を付したところで、無防備な背中に太いナイフを突き立てた蛮行を正当化しようがない。
　より混雑する時間帯や、列車内での凶行だったなら、興奮の余り連続通り魔に化けたり、列車･駅構内で大パニックを惹き起こす危険性もあった。犯人へは厳刑を以て制裁を課して欲しい。


　　
　日々の生活圏内、職場や家庭の間近で、凶悪なテロ事件･凄惨な殺戮が起きるご時世。
　死神もサラリーマンやOLに混じり、素知らぬ顔で電車通勤しているのかもしれない。