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#通貨について:この旅行記では、ニュー台湾ドル(新台幣)を“元”、日本円を“円”と表記しています。なおこの旅の段階での為替は1元≒2.6円を目安にしてください。
● 在来線で新烏日へ
台湾西海岸中部の町・彰化で、町歩きと扇形機関車庫見学を楽しみ、今度は台湾西南部の主要都市・高雄へと移動する。
彰化から、台湾鉄路管理局(台鐵)の在来線でそのまま高雄へ向かえば、時間はやや掛かるものの乗り換え無しで楽に移動できるのだが、今回は台湾高速鐵道(高鐵:台湾新幹線)への乗車が旅の目玉の一つであることから、敢えて逆行や乗り継ぎを厭わずそちらを利用することにする。
高鐵の台中駅までは、基本的に往路と同じルートを逆行する格好になる。
で、彰化駅で新烏日駅(在来線の駅名。高鐵の台中駅に併設)までの切符を買おうとするも…券売機にボタンが無く購入不可。
そもそも新烏日駅は、2007年の高鐵台中駅開業に合わせて新設された駅ということもあり、それ以前からの券売機が更新されていない様子。
ちょっと考えて、新烏日駅から800m程先にある烏日駅(こちらは昔から在来線に存在する駅)までの券を購入。
区間車料金で15元と金額が同じであり、しかも烏日駅までの切符なら新烏日駅を行き過ぎる格好であり、まあ問題は無いだろうという判断。
(ちなみに台湾では、近距離切符でも日本のような「乗車駅からの金額表示」ではなく、「乗車駅と下車駅を明示」した切符が発行される。)
そもそも券売機に駅名が入っていないという事が原因でもあり、決して金額や区間を誤魔化している訳でもないので、もし何か言われたとしても「話せばわかってくれる」だろうという判断である。
但しこれは台湾というお国柄を勘案しての判断であり、もし他の国であればこれを言いがかりにして賄賂(表向きは「罰金」)を要求されたりしかねないので、自分で判断せず、係員に申し出て指示を仰いでいただろう。
そして帰宅ラッシュで混み合う区間車(普通電車)に乗車。車両は往路と同じ韓国製の車両。
(新烏日駅到着後に撮影)
ラッシュ時に掛かってしまったため、車内は大混雑。
何とか乗り込んでドア近くに立って居たのだが…台湾の電車には「乗務員用ドア」というものが存在せず、車掌は一般の乗客用ドアに乗り込んできて、上部にあるスイッチでドア開閉を行っている。
そのため毎回車掌が混雑した車内に割り込んできて、ますます混雑に拍車が掛かってしまう。
ちなみに車掌は毎回、「キーを差す→ドア開閉操作をする→キーを抜く」という手順を踏んでおり、これを満員電車で行っているのだから、結構面倒なのである。
しかしながら、これが台湾ではごく一般的な方式であり、高鐵(台湾新幹線)においても同様の方式となっており、高鐵の700T型車両は日本の700系新幹線ベースの車両であるにもかかわらず、わざわざ乗務員用ドアを省略しているのである。(乗務員は旅客用ドアから出入りする。)
さてドア付近に立っていたお陰で、思わぬ発見も。
途中、数分停車したこの駅…
拡大して
そう「成功駅」という、何とも縁起の良い名前。
ちょうどドアの前にいたので、停車時間にちょっとだけ写真撮影。
日本でも旧「幸福駅」、旧「愛国駅」、「学駅」など、「縁起駅名」として持て囃されているが、ここ台湾にも「成功駅」のほか「永康駅」、「保安駅」など駅名が縁起がよいとされている駅がいくつもあり、日本同様に記念入場券など販売されている。
実際に降り立つことはなかったが、「永康→保安」の御守り袋付き木製記念乗車券など、今回の旅で入手することが出来た。
● 台湾の「便當」を購入
そして新烏日駅に到着。ここで高鐵へ乗り換えである。
まず在来線の改札を出たところにある「台鐵本舗」という、鉄分の濃い売店(グッズ売り場兼売店のような感じの店)に立ち寄る。
なかなか面白い鉄道グッズを色々と取りそろえているのだが、今回はリュック一つと荷物を極限に減らしているため、お土産類は台湾一周を終えた後、帰国前に台北でまとめて調達することにしており、今回は完全にスルー。
で、何を買ったかと言えば「便當」…そう「弁当」、すなわち駅弁。
台湾では日本統治時代の名残で、「便當」(発音も「ベントー」)と呼ばれており、駅弁文化が存在しているのである。
但し日本の駅弁とは色々な違いが存在し、先ず第一に「冷えたものは食べない」という台湾の食文化の関係上、便當は絶対に保温された状態で販売されており、ここの売店ではカウンターのガラス戸付きの保温ケースで販売されている。
なおこの他の販売方式としては、店員に申し出て保温ボックス(クーラーボックスのようなもの)から出して貰う、あるいは車内販売では毛布のようなものに包んで持ち歩く、といった方法をとっているのを見かけた。
ちなみに中身はこんな感じ。
台湾の便當はどこの駅でも「ご飯の上にカツ・煮卵・野菜・ハム」と判で押したようにワンパターン。ちなみにコンビニ弁当(こちらは冷蔵庫→レンジでチン)でも全く同じ献立である。
但し業者によっては、この定番品の他に、「カツがチャーシューに変わっている」など気持ち程度のバリエーションを選べるところがあったり、あるいはベジタリアン向けの商品があったりもするのだが、あくまで「ご飯の上におかず」という形式は完全に固定されているようだ。
なお今回の旅では何度か便當のお世話になることになるので、こうしたバリエーションについても、その都度紹介していくこととしたい。
● 高鐵の標準車を体験
購入した「便當」を脇に抱え、高鐵の台中駅へと移動。
ちょうど数分後に左営行きの速達タイプの列車(台北市内の板橋駅を出ると、台中、そして終点の左営しか停車しない列車。日本で言うところの「のぞみ」的な列車)があったので、あわてて券売機で切符を購入し、改札を通る。
(ちなみに午前中に台北駅の券売機で切符を購入したときは、日本のクレジットカードは使用できなかったが、ここ台中駅では問題なく使用することが出来た。)
するとちょうど列車が入線してくるところで、ダッシュでホームへと駆け上がる。
ホントにギリギリ…かと思いきや、台湾の列車は各駅での停車時間が長めなので、実はそこまで焦る必要はなかったのだが…
そして本日2回目の台湾高速鐵道700T型に乗り込む。
※午前中に台北駅で撮影した画像。そしてこの画像は4回目の使い回し…
午前中の台北→台中では、各駅停車タイプ(日本で言う「こだま」的な列車)を利用して、グリーン車相当の「商務車」で寛いだのだが、今回は乗り比べという意味もあり「標準車」を利用。→
ちなみに「商務車」の乗車レポートはこちら。
車内の様子
…はい、ワンパターンな悪戯です(汗
上の写真は日本の新幹線700系のもの、本物は…
商務車(グリーン車)同様、やはり兄弟車だけあって、意匠などに共通点が多く見られる。
ちなみに座席はこんな感じ。
基本的には日本の新幹線と同じだが、今回の座席は「緊急出口」座席であり、脱出用ハンマーなるものが備えられている。
同じようなハンマーを、
パリ-ベルリン間で利用した夜行列車「シティナイトライン」でも見かけている。
「台湾高速鐵道は最初は欧州方式の車両を導入予定だったが、後に車両だけ日本方式の新幹線車両に変更したが、線路などの設備は欧州規格のため、日本・欧州双方の安全基準を満たさなくてはいけなくなった…」
…という話から考えると、この脱出用ハンマーは欧州の安全基準を満たすために設置されているのではないだろうか、と推測はしてみるものの、裏付けを取ったわけでもないので、これは素人の勝手な想像として聞き流していただきたい。
ちなみに今回利用した標準車の「対号座」(指定席)はガラガラ。今回も3人掛けのシートを一人で使用することが出来た。
さらにその気になれば向かい合わせにして6人分のシートで寛ぐこともできたのだが。
おそらくこれは台湾北部の台北都市圏への人口の一極集中により、台北から遠ざかるほど輸送需要が少なくなっていくという要因もあるのだろう。
実際、台中駅で降りる人は随分と居たのだが、逆に私のように台中から乗り込む乗客はほとんどおらず、こんな調子なので南下するほど車内はガラガラになっていくのである。
ただ「自由座」(自由席)は値段が若干安いこともあってか、それなりに利用客がいる様子。
パッと見ではあるのだが、乗客密度が高い順に「自由座>商務車>>>対号座」といった具合である。
自由座はどこの区間でも、それなりに乗っている印象でだが、対号座はハッキリ言ってガラガラ。もしかすると高い商務車に乗るよりも快適かも知れない。
そんなことを観察している間に、列車は制限速度300kmをギリギリ越えない速度で飛ばしてゆく。
ちなみにこの列車の台中-左営間の所要時間は44分。あまりのんびりしている時間もなく、あわてて駅弁を食べることになってしまった。
なお飲物を買い忘れてしまったため、車内の自販機で購入。台湾の市価よりやや高いのかも知れないが、それでも日本の市価より安いくらいだろうか。
そしてあっという間に左営駅へ到着。
現段階では、ここ左営駅が終着駅であり、高雄市内へは在来線、あるいはMRT(高雄捷運:地下鉄)へ乗り継ぎとなる。(在来線なら2駅)
但し高雄駅までの延伸工事が進められており、近いうちに乗り継ぎ無しで高雄の中心部まで直通できるようになる。
高雄駅を東京駅に例えると、左営駅は上野駅…と言った感じだろうか。
ちなみに台北側も、今では台北駅まで高鐵が乗り入れているが、2007年の開業当時は手前の板橋駅(台北駅から在来線で2駅)が始発駅となっていた。
そして高雄市内へと移動するわけだが、併設の新左営駅(台中同様、駅名の命名方法が分かり難く、在来線の左営駅は1.9km離れた全く別の場所にある。)からの在来線でも良かったのだが、何となくMRTのほうが便利そうに思えてそちらを選択。
長い長いエスカレーターで地下へと潜り、MRT乗り場へと向かう。
そして券売機で値段を確かめて切符を購入。
出てきた切符は…
再利用可能型のコインタイプ。ICチップが埋め込まれており、入場時には「タッチ」、そして下車時には「タッチして回収口へ入れる」というシステム。
上の写真は出口側改札機なのだが、ちょっと出っ張った場所にタッチし、そのまま穴に投入して退出することになる。
そしてホームへと下りる。
MRTでは「左営」駅が正式名称だが、別の場所にある在来線の区別や、高鐵利用者への配慮か「左営/高鐵」という風に表記している。
また沿線の各駅の英語表記も、単純に音を英語表記するのではなく、駅名の意味を意訳した英語名を表記しており、非常にわかりやすい。
例えば、「生態園區駅」は「Ecological District Station」、「巨蛋駅」は「Kaohsiung Arena Station」(高雄アリーナ、外観から別名「巨蛋(ビッグエッグ)」の最寄り駅のため)、そして高雄駅も敢えて、「高雄車站」英語では「Kaohsiung Main Station」と名乗っている。
ちなみにMRT車内の様子はこんな感じ。
ややプラスチッキーで味気ない気もするが、短距離乗車が前提のMRTならこれで十分なのだろう。むしろシート面の清掃など簡便で合理化にも役立っているのかも知れない。
そして高雄駅へと到着。
写真右側が台鐵(在来線)の高雄駅舎である。その他、学習塾(補習班)の看板がやたらと目に付く。
そして高雄駅から、MTR駅への出口を挟んだ反対側にも、レトロな駅舎が…
ちなみにこちらは日本統治時代に帝冠様式で建てられた歴史ある駅舎。2002年に現役駅舎としての役割は終えたものの、保存を望む声が多く、わざわざ82.6mも曳家するという大々的な工事を行ってまで保存されることになったのだとか。
中には日本統治時代の建造物をまるで汚らわしいもののように邪険にする国もあるが、日本統治そのものの是非は別の問題として、建造物などの遺産については「価値」を冷静に検討して、貴重な文化財として保存していこうという姿勢は良いことだと思う。
ちなみにこの旧駅舎は、町のシンボルとして「高雄願景館」と名付けられ、内部には高雄の誇る建造物の模型などを展示している。
なお将来的に高鐵の延伸などで高雄駅が拡張された時には、この建物を駅の玄関として再活用しようという計画もあるのだとか。
こうして鉄分の濃い旅をしてきたわけだが、次回はホテルの紹介と、夜市(ナイトマーケット)での夕食の話題で、鉄道は一回お休み。
その次から、高雄市内の鉄道遺産などを回る予定である。
<つづく>