前回からのつづき。
オーディオのことをここで書き出しちゃうと、本が書けるほどの長さになるので適当にしますが、今思えば、アナログ・レコード・プレーヤーほど奥の深い機器は他には無かったのではなかろうかと思えるくらいに、色んなアイデアに溢れていたモデルが数多くあった気がします。
何しろレコード・プレーヤーそのものを構成する各部品、駆動部分やキャビネット、トーンアーム、そしてピックアップ・カートリッジ、それを繋ぐリード線、さらにはシールド・ケーブルに至るまで、自分好みにカスタマイズすることが可能なモノはもちろん、果ては糸でターンテーブルをドライブするなんていう奇抜なアイデアに見えるモノまで存在したくらいでしたから。
あと、そのアクセサリー類も豊富でしたね。思い出せば笑ってしまうものもあったりで、アーム型のレコードクリーナーやピストル型の静電気除去装置なんてその代表的なものだと思うけど、とにかくクルマのチューニングと同じような世界で、素人欺しやプラシーボ的なものもあれば、NASAの技術を応用したレコード保護材なんていうものまであった。最終的には揮発性のリキッドを使ったモイスチャー式のベルベット製レコード拭きが一番で、更に帯電防止素材でできた中袋を別途買ってきて使用すれば完璧、という結論に達するまでに、結構な時間を要した。何かを直接吹きかけるモノは全て却下。レコード盤や針が痛むだけだった。
話は逸れましたが、とにかく、レコード盤に刻まれた物理的な波形をいかに正確に読み取るか、ということにすべての技術は注がれていたわけで、そのためには入口であるピックアップ・カートリッジこそが要であり、さらにその入口を正確に機能させるためには(レコード盤を正確にトレースさせるためにも)スムースに動くアームも必要だった。
当時(今でもそうかもしれませんが)、それこそピンからキリまで色々あったこの「大事な」音の入口の中に、各オーディオ雑誌のテスト記事に必ずと言っても言い過ぎではないほど常に登場する一品がありました。各ブランドの音質や性能の違いをチェックする際の基準として使用されていたものです。
それは
DENONの
DL-103(他に103Sもあった)というMC型カートリッジです。
これは
放送用として開発されたカートリッジで、NHKだけではなく、おそらく日本中の放送局の標準機器として使われていたものだろうと思いますが、それ故に民生機のテストでは常に基準として扱われてきました。それこそ、FMステレオ放送で流れていたレコードの音は、おそらく全部このカートリッジを通って出てきた音だったと言ってもいいかもしれません。
ところがこのカートリッジは、自分の持っているアームには付けたくても物理的な理由で取り付けができませんでした。カートリッジの自重や針圧が合わなかった。そのせいで、アームの選定に失敗したと後悔していた頃があるくらいでした。というのも、MC型と言えば自重も針圧も重かったので、自分の低針圧向きのアームには他のメーカーのMC型もほとんど付けられなかったから。
ところが自重が軽く、しかも針圧も軽くて済み、DL-103のフラットな音質特性に対して、逆に賑やかな特性の新製品
DL-301(型番が103の逆順301にその音質特性を表していると、当時の店長が教えてくれた)が1980年に発売されます。
そして、その音を聴いた瞬間にすっかりファンになってしまい、使用していたアンプがMC型に対応していなかったにも関わらず(昇圧トランスも一緒に買う必要があった)、意を決して「これください!」と言ってしまうわけです。(^_^;)
それまでは
SHUREのMM型、確か
M75から始まって、
V-15 Type3へとステップアップして使用していたんだけど、それよりも、まるで目前にあった一枚の幕が取り払われたように、より繊細で澄んだ音で、なおかつ自分好みのポップス向きなテンションの効いたサウンドにビックリだったわけです。
(V-15 Type3も未だに交換針が売られているほどの名機です)
以来数十年、時々DENONの新機種に浮気したり、他メーカーの新製品に浮気したりしたけど、結局これ(数年後に
DL-301MK2となった)に戻った。音質の純度を高めれば高めるほどに、音が嘘臭くなっていく感じがして、しかも疲れるので、このバランスは秀逸だと思う。だから未だに現行品として売られていることに納得しちゃうわけです。針交換は現物交換なので、多少面倒だけど、それでも未だに売られていることにとても感謝しています。願わくばこのままであって欲しいものの一つかな。余談ですが、面白いことにPC用のスピーカーである
JBL・CREATUREをアンプのヘッドフォン端子に繋いで、レコードを再生して鳴らしてみると、CDを再生している時に比べて角のないより自然な柔らかい音に聞こえるから不思議。しかも「やっぱりこれもJBLなんだ」って、このとき初めて感じた。
あと、友人宅で再生しても針飛びを起こすくらいに反ったレコードでも、うちのプレーヤーでは難なくトレースしてしまうその性能にもビックリした。輸入盤は音は良かったけど反りが酷いのがあった。とにかく当時の自分にとっては高い買い物だったけど、結局30年以上も使っているわけだし、とっくに元は取っていると思う。そう言えば、針を押さえている根本のゴム部分をダンパーと言っていたと思うけど、針がレコードのうねりで跳ねてしまわないように振動を吸収しているところなんてクルマと同じ!それこそ開発者同士の交流があったら面白いかも(^^)
ところで、往年のレコード・プレーヤーも見たくなり、あちこち徘徊していたら、スイスの
Thorensやドイツの
Dual(
新生Dualはアメリカ企業になったらしい)というメーカー名を思い出した。たぶん
あいつの家にあったのはDualだったと思う。さすがに型番は分からないけど、レコードを数枚スタックできた
あのオートチェンジャーの動きも懐かしい。そして78回転で再生できたお陰で、別の友人宅に眠っていた彼の祖父のSP盤も聴くことが出来た。未だに忘れられないトスカニーニ指揮・NBC交響楽団演奏の「運命」。LPだと一枚で収まるのが、確か4枚組?になっていた。演奏もカラヤンやベームとは違った解釈に驚いた記憶がある。
最後に、今の仕事をし始めた頃に知り合った同年代のカメラマン宅に、アワビ=ターンテーブルが上位機種(確かDP-7000?)になっていて、まな板=キャビネットも大きな(アームを2本付けられる大きい方の)DENONのプレーヤーを見た時には思わず声を上げた。メインアームが
SMEの3012(これならDL-103が使えた)、もう一本が確かSAECだった。。。
もうこの辺で止めておこう。今週、彼とは本当に久しぶりに会う予定なので、その後、どうなったか聞いてみよう(^_^;)
Posted at 2009/11/16 17:25:18 | |
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