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伏木悦郎のブログ一覧

2010年02月16日 イイね!

身も蓋もない話

2010年は時代の変化がより一層明確になる年。様々な事象、それに対応した計画、社会の変容を見ていて感じられたことが、目の前に立ち現れる。これからのディケード(10年)は、これまでの10年以上に20世紀から21世紀への転換がはっきりする、その意味で変化を余儀なくされる時代だと思っています。

今までの"あたりまえ"をベースに物事を考えることが、かならずしも合理的ではなくなる。過去の経緯(いきさつ)にこだわり、そのなかで育まれた"常識"をベースに判断して行くと、決定的に間違えることがあり得る。

多くの人々が、戦後65年間を要して先達が築き上げた豊さをあたりまえのものとして享受していて、それは未来永劫続くものだと、確たる理由もなく思い込んでいるフシがある。

良い悪いはともかく、必死にやってきた結果として今がある。そういう冷静な判断もなく、いまの豊さは自動的に保証されていて、その前提の上に立って、未来を漠然とイメージしているようにも見える。

無理でしょう? と思うわけです。横滑り防止装置についての僕の意見に対する無垢な反応の多さに、あらためて問題の深さを実感しました。誤解のないように断っておきますが、僕はEPS、ECSなどと表記される電子制御デバイスの効能は理解している。何年やってると思ってるの?という気分です。

final safety deviceとして安全性に寄与するメリットが極めて大きいことを了解した上で、しかし全車標準装備にすれば問題解決となるのだろうか? そもそもの話に立ち返れば、前提に誤りがあるという考え方もできる。

それ以前にメカニズムに安全性を委ね、テクノロジーによる安全性を際限なく追求していたら、自由なモビリティというかけがえのない価値が失われ、元も子もなくなるというパラドクスが浮上してしまう。

『あたりまえの話』では、クルマは人・道・車(マン-マシン-フィールド)が織りなす3重のシステムだと書きました。その考え方からすると、ヒトの関与できる領域や道路や法規などの充実で対応できることにはあまり力点が置かれずに、クルマというハード(テクノロジー)の一点突破で解決を試みようという現状は明らかに偏っている。

クルマはドライバー自らが運転するからクルマなのであって、自由なモビリティにこそ楽しさをはじめとする魅力のすべてがある。安全はクルマにとって最優先されるべき商品性の核となる要素ですが、メカニズムへの全面的な依存を意味する標準化には、安全は自分で確保するものという前提を希薄にするという意味で一考を要する。

何よりも気になるのは、1980年代以降脚光を浴び.ることになった電子制御による安全デバイスの多くが、商品性向上のために推進された高出力化、高速化を基本とする高性能化、高品質化を担保する装備として普及したことです。

身も蓋もない話ですが、日本の法定最高速度は100㎞/hです。日本は近代的な法治国家なので、原則としてはそれ以上のスピードを出すことが認められていません。

人も道路もクルマもそれ以上の速度に十分対応できる水準にあるし、少なくともあと3割程度スピードアップが許されればクルマの利用価値は飛躍的に高まる。ドイツを何度も走った経験のある僕としては、できればあのクルマが活き活きと走れる状況を日本でも実現したい。そう思わずにいられない。

実現すれば、東京への一極集中に代表される中央集権的な国のあり方から、コンパクトな地方都市を有機的に結びつけて国土を有効利用するネットワーク型の地方分権の仕組みに移行することも現実的になるし、オイルピークが切羽詰まった段階を迎えたといわれ、次世代エネルギーへの転換が迫られるこれからの状況への対応としても望ましい……。

言いたかありませんが、国内法規に照らせば路上を走るクルマの大半がオーバースペックです。内燃機関の特性から言って、ある程度の余剰性能は欠かせませんが、平たく言って市販車の半分、パワー自慢の高性能車では3分の2が消費不能な"過剰性能" だと断言できる。

使わない、というより使っちゃいけない領域の優劣を高性能の名の下に競い合い、そこに飛び込めば痺れるような快感とともにカタルシスが得られる走りを自慢げに語ることで共感を得ようとする。メディアという公共性によって、あたかも既成事実として公的に認められているかの印象を与えるが、事実はまったく正反対。

そうであるのにも関わらず、ドイツメーカーのビジネス戦略に易々と乗って「横滑り防止装置標準化プロパガンダ」の急先鋒になってしまう。そして皆が言うことだからと自分の問題として考えることなく鵜呑みの形で信じ込んでしまう。何度も書きますが、皆が口を揃えることには必ず裏がある。

かつてこういうことがありました。バブル真っ盛りの1989年頃に某ドイツメーカーが日本市場再上陸を企画しました。ブランニューの2ℓ級セダンは当初シンプルなSOHCエンジンが標準で、空力ボディの採用などによって130psの動力性能ながら200㎞/hに迫るアウトバーン育ちを実感できる走りのパフォーマンスに仕上がっていた。

当時はバブルの勢いもあって国産車はハイテク/ハイパフォーマンスを誇る"高性能車"が百花繚乱のごとくの状態。そんなかでシングルカムの素っ気ないパワーソースに5速MT、4速ATオプションという設定は、いかにも商品性に欠けました。

後に16バルブDOHCの2ℓモデルが追加されたのですが、そのメーカーのヘッドクォーターは日本市場への導入を渋りました。「日本の最高速は100㎞/hだろう? SOHCモデルで十分性能は出ている」。日本では記号性が大事でブランドイメージのためにも16バルブDOHCを早急に投入したほうがいい……強く訴えても、なかなか言うことを理解せず結果として商機を失いかけました。

性能は出ている……まさにその通りでしたが、日本市場に精通するにしたがって彼らは理解したようです。そのメーカーはドイツでも真っ先に折り畳み式サイドミラーを導入するほど日本市場の特質を理解し、その利点を自社に取り込みましたが、グローバル化の波の中で急速に性能品質を高めた日本車との差別化に苦しむようになり、やがて再撤退という苦渋を舐めることになりました。

現在日本市場に残っているドイツメーカーは、その経験に学んでいます。高性能/高品質イメージを徹底するブランド戦略に、高速性能に優れるがゆえに安全性に対しても先進性を備える。見方を変えれば完全なるマッチポンプですが、イメージとしての商品性に重きが置かれる日本市場では、豊かな人々の存在もあいまって正義になってしまいました。

滅多に使わない装備ならもったいない。そう考えるのが一般的なのに、外国市場では標準装備なのに日本市場ではオプション装備もない……みたいな論調が幅を利かせるようになりました。

クルマを作るのはメーカーではなく、法律とユーザー。またまた身も蓋もない話ですが、僕がクルマを考える基本的なスタンスです。クルマは法規で厳しく管理されていて、それに適合しないクルマは作れないし売れない。また、ユーザーが気に入って買ってくれなければ、どんなに優れたクルマであろうと作っても無駄になる。

単にモノとしてのクルマの出来の良否ではなく、交通法規を含めた走行環境へのフィットとそこで暮らすユーザーの価値観によってクルマは形作られる。クルマのテクノロジーによる一点突破でハッピーな状況が得られると考え、事あるとメーカーに指弾の声を上げる。すべてを人ごとにできるという意味では楽ちんですが、そんなリスキーな立場をいつまで自動車メーカーが背負ってくれるでしょうか?

3重のシステムの考え方に立てば、横滑り防止装置に下駄を預け、皆がそうなればひとまず安心と考えることに違和感が募ります。消費不能な高性能を不問に付して、その過剰性を補完するデバイスの標準化を叫ぶ。喜ぶのは高付加価値の対価を得るメーカーだけです。

個別にそれを良しとすることには異論はありません。問題は標準化を強要して社会的コストをいたずらに高めようとする姿勢です。一度標準化するとなかなか元には戻せません。オイルピークが具体的な課題として浮上し、余裕のある石油エネルギーを背景にしたモビリティに陰りが見え始めた今。ことによると大幅なスピードダウンが求められる状況でハードルを高くすることには異議を唱えたい。

エントロピーという言葉を知ったのは、1986年に登場しその年のカーオブザイヤーに輝いた日産パルサーの試乗会でのこと。担当エンジニアと試乗後に懇談して話が尽きたところでその人が『要するに物事を決めるのはエントロピーなんですよね』ポツリと呟いた。何のことかさっぱりだったが、気になって調べるとその発言の大きさに唸ってしまった。

現代物理学が唯一絶対的な真理として認めているという「熱力学の第二法則」。覆水盆に返らずという諺で表わされるエントロピーの法則をきちんと理解して、より良き道を進むのが今のところ最良の選択肢ということになるようです。話をいたずらに難しくしているのではありません。ただ、今まで通りで行こうとすると、必ずここで衝突する。避けて通れないなら、早めに言った方が良いのかな…と。

またまた長くなってしまいました。次は、本ブログのメインタイトルになっている『からだとクルマ』について話さないといけないようです。


Posted at 2010/02/16 20:24:25 | コメント(6) | トラックバック(0) | 日記
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