
ホンダN-VAN、出る出ると言われてやっと登場したNシリーズの商用車です。
長らくホンダの1ボックス系軽自動車は、商用はアクティバンとバモスホビオプロと、その乗用のバモスとバモスホビオでした。ホンダ1ボックス系軽自動車は、アンダーフロアミッドシップによるリヤドライブ(または4WD)という特異なパワートレーンでしたが、遂にN-BOXの乗用FWDベースに生まれ変わったというのがNの名前を持つ所以です。

まず最大の特徴は、ホンダでは初、軽商用車でも初の左側センターピラーレス構造です。更にリヤシートと助手席を折り畳んでフラットな面として荷室の床面積を拡大することが可能です。

センターピラーレスは現行タントではおなじみだし、助手席シートバックをほぼ水平に倒せるのもエブリィバンやハイゼットカーゴでも可能ですが、助手席をここまで落とし込んで、左側から荷物の出し入れを積極的に行おうとするのはN-VANが初めてです。

但しフラットにするが故シートの薄いのも事実。観光バスの補助席よりはましだけど、この助手席に座り続けるのはちょっと遠慮したい、せいぜい1時間くらい?
その代り運転席はN-BOXと遜色無い感触で、下にエンジンがあって作りがよくない他車とは一線を画す出来です。

商用車として重要な荷室サイズですが、リヤシートのみ倒した状態の奥行きは画像のCで1,510mmとなっています。

ところが、私が通常のドライビングポジションを決めて運転席後端からトランクマット後端までの距離を測ると約1,400mmしかありません。

ちょっと見にくいですが幅は約870mm。

ちなみに、会社で使っているS321Vハイゼットカーゴ(2017年モデル)で運転席後端からトランクマット後端までの距離は約1,850mmです。幅は約950mm。
よく荷台サイズを比較するのに使われるコンパネ板は、900mm x 1800mmなので、ハイゼットカーゴには何とか平置き可能ですが、N-VANでは無理です。
フロントシートを畳んだ状態で、インストルメントパネル下端からの距離は、N-VANは2,560mm(展示車は+STYLE COOL)、ハイゼットカーゴは約2,630mmでほぼ同数値です。
またハイルーフ同士で荷室高は、N-VANが1,365mm、ハイゼットカーゴが1,235mm、荷室床部高は、N-VANが525mm、ハイゼットカーゴが635mmと、N-VANはセンタータンクレイアウトとFWDベースである利点が生かされていることが分かります。
やはりボンネット下にエンジンとミッションが有ると無いとでは、約400mmの荷台長の差が出るということで、収容力はハイゼットカーゴには敵いません。それでもフロントシートを畳んだ状態では同じだけの長さを確保して補うといった具合です。
クルマの成り立ちからすれば、N-VANはハイゼットカーゴではなく、ウエイクの4ナンバー版である、ハイゼットキャディが真のライバルです。
ハイゼットキャディは実のところウエイクから進展した個所は少なく、N-BOXをベースに商用車としての機能を吟味したN-VANとでは、クルマとしての軍配は大差を持ってN-VANに上がります。

インテリアですが、カタログには傷や汚れに強いインテリアとありますが、それよりもプラスチックの質感はとてもよく、過去のNシリーズでは最良と思える出来。ダイハツすら凌ぐのでは。

助手席を畳んだ際に、運転席足元に荷物が入り込まないようにする小物侵入防止板などよく考えられています。

しかし、上記同様私が運転席でドライビングポジションを決めて、リヤシートに普通に座った場合この状態。フロントシートバックに膝が当たっています。商用車ではリヤシートが前寄りに位置する必要があるので止むを得ないのですが、助手席同様に薄い事もあるので、リヤシートを常用するような用途には無理があります。子供でも小学校低学年くらいまででしょう。

エンジンはNシリーズより少しデチューンしたN/Aと、上位グレードではターボも選べます。トランスミッションはCVTに加えて、N/AではS660譲りの6速マニュアルミッションも。

ホンダセンシングも全車に搭載。(下位グレードと6MTではレス設定も有り)

グレードはアクティバン後継のビジネスユース下位グレードGとL、バモス(ホビオプロ)後継のオーナードライバーユースも見据えた上位グレードの+STYLE FANと+STYLE COOLの4種類。

ボディカラーは下位グレードがタフタホワイトⅡとルナシルバーメタリック。上位グレードはブリリアントスポーティブルーメタリック、クリスタルブラックパール、プレミアムホワイトパールⅡ、シャイニンググレーメタリック、プレミアムベルベットパープルパール、プレミアムピンクパール、プレミアムイエローパールⅡ、ガーデングリーンメタリック。
新色のガーデングリーンメタリック以外は、N-BOXでおなじみの色です。

アクセサリーカタログにはビジネスユースで便利そうなアイテムが多数掲載されています。ラゲッジマットフローリングタイプ、これいいかも。

車中泊アイテムも設定があります。中でも外部電源入力キットはオートキャンプ場でAC100Vの供給を受けることが出来ます。これは軽自動車では初めて見るアイテム。

+STYLE FANはハイルーフに丸型発光のフルLEDヘッドランプ。

+STYLE COOLは唯一標準ルーフで、テールランプがクリアタイプ。
両車共に下位グレードよりも、内外装共に少しグレードアップしてオーナーユースにも応えられる仕様になっています。
あと、さすがに商用車だけあって、スペアタイヤが標準装備(但しリヤバンパー中央を取り外さないと取れない)なのはいいのだけど、12インチに留まるのは残念。他メーカーの商用車も申し合わせたように145R12 6PRなので止むを得ないのかもしれないけれど、このボディサイズ、特にターボなら最低限14インチでないと、せっかくのパワーも生かしきれないと思います。
ということで、最新のNシリーズとして登場したN-VANですが、これ(オーナードライバーならねらい目は+STYLEシリーズだろう)をN-BOXの代替として考えるなら止めた方が無難です。
まず、N-BOXにあるパワースライドドアが無く、スライドドアガラスは前ヒンジ後開きでほんの少ししか開きません。また前述のように運転席以外のシートは薄くて、リヤシートのレッグルームも狭くて、多人数で長距離乗ることを前提には作られてはいないのです。
車中泊用途には、周辺グッズを揃えればもちろん可能ですが、ボディサイズからせいぜい2人まででしょう。無論1人なら全く問題ありませんが、ソロっていうのもちょっと寂しいかな。
N-VANは+STYLEシリーズであっても、フラワーショップやアパレル関連などの、ちょっとおしゃれでかさばらない荷物を、単身で運んで得意先を回るといった用途なら実にぴったりです。(カタログ写真もそうなっているし)
個人的には、アクティにはトラック(現行はキャブオーバータイプのキャビンを持つ伝統のアンダーフロアミッドシップ)があるのだから、トラックをベースに1ボックス化してキャブオーバータイプで4ナンバーのアクティバンを作って、N-VANは5ナンバーとしてバモスの純粋な後継車にした方がよかったと思うのです。
まあ、今更キャブオーバーではバンは作りにくいか?安全対策はどうするのか?5ナンバーとするとN-BOXとの棲み分けはどうするのか?となると難しい。ホンダの企業体力では、軽商用車に2系統のフロアパネルを維持するのは苦しいのかも知れません。やはり素人考えですかね。
くどいけれど商用車なので、「ピープルムーバー」ではなく「カーゴムーバー」であること、税金が安くても、初回車検は2年目で受けなければならないことを、購入検討する場合はお忘れなく。