そら００７のブログ一覧

（↓ぜんぶ実話）


遠くから近づいてくるクルマのヘッドライト。

ガードレールから腰をあげて、トシオがフラフラと歩いて行く。

嫌な予感。

トシオは街灯の下へと向かう。


近づいてくる排気音。

野太い音。

トシオは親指を立てて拳をつくり、走ってくるクルマに向けて手をあげる。

ヒッチハイク？！

急ブレーキ。


人並み外れて夜目の効く僕（今でも視力４.２）。

そして、まるでスローモーション映像のようにその時のことを今でも憶えている。


街灯。

閉店した店からもれる灯り。

トシオがとめたクルマは純白のクラウン。

運転席のドアが開き、そしてドアの下から手がのぞき、純白の靴が路上に出される。

土禁。

純白のエナメル靴。

まるで生まれたばかりのようにピカピカ。

クルマの中から脚が出て、靴の上に降ろされる。

これまた純白の白いスラックス。

オトコがトシオに近づく。

「あ～ん？」、オトコの大きな声。

「ガキがナニ言ってんだ！」


やっぱり、こうなるか。

僕の予感は良く当たる。

ペンギン的第六感。


トシオの声は聞こえない。




トシオの元に向かう。

「面白れぇ！乗せてやるよ！トランクに乗れ！！」

いきなり、煙草を持ったままのオトコの腕が旋回する。

タバコの火が赤い円を描く、、ホタルみたいだ、、

タバコの火がトシオの頬で弾けると同時に、トシオの頭が大きくのけぞる。

赤い花が咲いて散る。

一瞬の小さな花火。

タバコを持ったまま拳で殴りやがった。

走る。

オトコが僕に気がつく。





（つづく）

声をかけてお茶した女の子ふたり組と急速に仲良くなった。

一瞬の隙をついては、彼女たちがバイトする海の家までダッシュして顔を見に行く。

二言三言、話せるだけで嬉しかった。

うまい具合にそれぞれパートナーも決まる。


マスターの理不尽な要求も辛くない。

前にも増して一生懸命に働いた。

早いところ仕事を終わらせて、自分たちの時間が欲しいのだ。

工夫をする、、段取りを考える、、先のことを考える。

そうすると、、、

不思議なもので、マスターに認められて、僕らの考えを聞いてくれるようになった。

うまくいくときは、うまくいく。



顔をあげればいつでも海がある。

２４時間波音が響く。

朝から晩まで聞こえる波音。

夢の中でも波音が聞こえる。

広い夏空。

雲が流れる。

そして、女の子が微笑んでくれる。

夏だ。

１０代の夏だ。

夏はこうでなくてはいけない。

オマケにマスターがおとなしい。


しかし、僕とトシオが向かうところに、、、

長く続く幸せはない。

必ず事件は起きる。



約束の金曜日。

夕方。

計画通りにトシオがビールを余計にジョッキに注ぐ。

怒られる。

でも、もちろんマスターがそのジョッキをあける。

予想通りに、それがキッカケになってマスターが飲み出す。

マスターが気分良くなる話をどんどんする。

酔ったマスターを奥さんがクルマで送っていく。

コワいくらいに、、、うまくいく。



夜。

昼間の喧噪はすでに遠い。

たくさんの可能性と素敵な予感に満ちた夏の空気も、、夜はけだるく疲れた身体と心に甘い。

４人で花火を楽しんだあと、僕とトシオはそれぞれの女の子の手をとり別々の方向に歩き出した。

あのとき、、何を話したんだろう。

僕は何を語ることができたんだろう。

とりとめもない話だったのだと思う。

手をつないで月夜の砂浜を歩いた。

それだけでとてもハッピーだった。


彼女たちを自宅まで送ることになった。


４人で歩いた。

笑って、おどけて、フザけて、歩いた。

ふと気がつく、、、もう１時間は歩いている。

気がついたキッカケはトシオが足を引きずっていたのだ。


彼女たちに訊く、「あとどれくらい？」

３キロくらいかな、と答えが返ってくる。

あと３キロ、、、

遠かったんだ。

だからいつも迎えがきていたんだ。

住んでいる地区の名は聞いていたけれど、、、

地元じゃないからまったく見当もついていなかった。


バテながらなんとか送り届ける。

笑顔の「おやすみ♪」のあとは、、、帰り道だけが待っている。

トシオと歩き出す。

まだチューをしていないことを確認する。



足の痛むトシオがブツブツ言い出す。

小一時間歩いたところで、「もう歩けねぇ」と言う。

自販機でコーラを買って、道ばたのガードレールに腰をあずけて休む。

もう１時をまわっている。

数時間後にはマスターに尻を蹴られる朝が来る。


遠くにクルマのヘッドライト。

トシオが何かつぶやく。

聞き取れない。

トシオがやってくるクルマに向かって歩き出す。


…嫌な予感がする、、、



ＰＳ
写真は張り切って先頭を歩く僕と、足を引きずりながら着いて来るトシオです。

朝が来た。

台風の雨風に叩かれようが、オートバイから落ちようが、

生きていれば、また陽が昇って朝が来る。

真っさらな今日いちにち。

ありがたい。


トシオの足は腫れ上がっている。

文句なしのリタイヤ。

Ｆ１でいうと、哀しそうにロン・デニスが首を振り、ヘッドセットを外す場面だ。



「てめーら、バカやりやがって！！ そら～、二人分働けよ！」

マスターが今日の方針と方向性を優しく僕に伝える。

はい、了解。

今日は二人分働く。

涙が出るくらいコキ使われるんですね。


マスターはスゴい。

ホント、茨城の人は優しい。

言葉通りにコキ使う。

何ごとも有言実行なのだ。

気持ちがゴリ・マッチョ。



夕方過ぎて、食材が足りなくなる。

「そら～、俺のクルマで行って買ってこい！」

免許ないですけど。

「乗れるんだろ！！」

もちろん！

テクニカルな車庫入れもＯＫです♪

というワケで買い出しに行く。

初代プレリュード、、ピカピカ。




道に出るため左折しようとして、、、

他の海の家で働く女の子二人組を右手遠方に発見。

マスター、見てるかな、、

振り向く。

しっかり見てる。

そりゃーまー、、、そうだろ。

無免許少年の船出だ。

仕方がないので、左折して道に出て、、、

ちょいと走って空き地でＵターン。

マッハで戻る。

「今日も暑かったね。何か飲まない？」



１５分くらい平気だろう、、

話がはずむ。

２０分過ぎる、、

揺れる髪が可愛い。

３０分経つ、、

足先で揺れるサンダル。

４０分、、

迎えに来たお姉さん合流。

１時間、、

バイバイと手を振る。



やべー、、

完全にやべぇ、、

イナゴの大群に襲われたことにしようか、、、

台風の影響で道路陥没、、地滑り、、エンジン不調、、パンク、、

めまい、、貧血、、脱腸、、膀胱炎、、

ダッシュ。

てきとーに買い物して戻る。



トシオが足を引きずって働いている。

トシオをとめる。

すまねぇ、トシオ。

…空が覆い隠れるほどのイナゴの大群だった。



トシオ、聞け。

段取りをつけてきた。

金曜の夜は彼女たちと砂浜で花火だ。

マジだよ、マジ。

マスターを早く酔わせて、奥さんに送ってもらおう。



夏はいつでも輝かなければいけない。

１０代だったら、なおさらだ。


夏空と心に花火を打ち上げるのだ。




（つづく）

ニコリともしない薬屋のおばさん。

マケてくれないかなぁ、、


輝く１０代。

若さがこぼれる僕の笑顔は、、、通じない。

お金を払って外に出る。



足の痛みがヒドいらしいトシオ。

ホコリだらけだった消毒薬や包帯のパッケージを思い出す、、


痛いのは時間が経ってきたからだろう。

肩を貸してホークⅡの元へ。

サンダルも履けない。

ステップを踏むと痛いと言う。

ゆっくり走ることを約束。



というワケで、

優しさでスロットルを開け、

優しさでブレーキをかけ、

優しくギヤチェンジをする。

ゆっくり流すように走る。


集合管の音。

後ろから。

マルチ。

ミラーに映る赤い姿。

みるみる近づく。

あっさり抜いていくのかと思ったら、真横に並んで急制動。

赤タンクのＦＸ。

クラッチを切って、ハデに吹かしてくる。


うるせぇなぁー。

他県ナンバーだからだ。

この頃は、こういうことがよくあった。


ひと吹かしして、あっさり行ってしまうかと思ったら、、、行かない。

後ろに下がってローリングし、横に並んでは切り詰めた集合管から咆哮を聞かせる。

しつこい。

アタマの中でカチンと音がする。



トシオ！蹴ってやれ！！

あっ、トシオは怪我してるんだ、、


…包帯足で蹴るとビビるぞ、、



赤タンク、、

しつこい、、




そして、あっさり、、ペースが上がる。

ホークⅡ二人乗りの全開で走る。

シフトダウンしながら肩からコーナーに入る。


あっちの方がポテンシャルは遙かに上。

余裕でくっついてくる。


トシオが邪魔、、

落とそうかと思う。

だいたい大袈裟に包帯なんか巻いているからナメられるんだ。



全開で走る。

ステップに足を踏ん張ると痛いらしい、、

後ろからトシオに殴られる。

尻で押し返す。

落とすぞ、トシオ！


…トシオ、、また、引っかかったりして♪

ミラクル・トシオ。




そのうちＦＸがいなくなる。

ヘルメット奥のトシオの黒さに怖じ気づいたか。

もう日本人に見えないトシオ。

垂直跳びが得意な部族の戦士みたいだ。

嬉しいときは、そりゃー高く跳ぶぞ。

（今日はムリだけど）




風に吹かれて気持ち良く走る。

海が見えてくる。

やっぱり嬉しい。


到着。

いなけりゃいいなぁと思っていたが、、、マスターがいる。

オマケに酔ってる。

最悪だ。

包帯に気がつき、、、何だ？と訊いてくる。

ワケを話す。

「切り傷、擦り傷には海水だ！」と言ったかと思うとトシオを担ぎ上げる。

軽々と。

海水？？

ヤケドには味噌♪というおばあちゃんと同レベルのものを感じる。


僕が思うに、、、塩水はシミるんじゃないでしょうか、、

マスターの肩の筋肉が隆起している。

たいしたもんだ。

そのまま海へと歩く。

そして、、、もちろん、、、

トシオを海へ投げ入れる。


…茨城の人はみんな優しい。



（つづく）

（すべて実話です）



ホークⅡをゆっくり走らせる。

トシオがしっかり僕をつかむ。

僕の腰に手を回してくる。

女子かっ！


可愛いねぇ、トシオ♪

失敗をして人は何かを学び、そして成長する。



保険証がない。

病院に行ったら、きっと高い。

街の薬屋でガマン。

痛みがヒドかったら、、、ミロを飲ます。

きっと強い子になる。


大丈夫、トシオは普段から強い。

数学に弱いが、痛みには強い。

黒ピカのトシオ。

マサイの戦士。

うっほ♪



薬局発見♪

薬局と温泉はひなびたのがいいねぇ♪



おばちゃん、一人。

トシオの足を見せる。


「予算８００円で治療したい」と僕が言う。

「８００円じゃムリだね」、鼻で笑うようにおばちゃんが答える。

「遠くから来ていてお金がないんです」、おばちゃんを見上げる。

必殺の懇願顔。

マダムキラー。

目を少しだけウルませ、照れの表情を唇の端に出す。

ちょっと微笑んでみせる。


「消毒もいっぱいしなきゃイケないし、もうちょっとかかるよ」とおばちゃん。

マダムキラー撃沈。

…茨城の人はみんな優しい、、



夏だし、膿んじゃったら困るし、炎天下でヤキソバ焼きだし、チューはまだだし、、

仕方ない、、、おばちゃんに任せる。


明日からの分の消毒だ、替えの包帯だ、塗り薬だ、ナンだカンだで３０００円取られる。

思わぬ出費。

足も痛いかもしれないが、財布にも痛い。



包帯で足をグルグル巻きにされたトシオ。

こんなに巻かなきゃいけないの？？

ホコリをかぶっていた売れ残りの包帯をさばかれた気がする、、


さて、優しいマスターのところへ帰るべ。

トシオを乗せてゆっくり走りだす。



水戸市内。

ほどなく、ＦＸが現れる。

男カワサキ、赤タンク。

そして、、

ちょっかいを出してくる、、




（つづく）




ＰＳ
どらちゃんの奥様、こんばんは。
いつも読んでくれているそうで、ありがとうございます。
くだらない話なのに恐縮です。

具合はどうですか？
しばらくキツいと思いますが、
ムリせずに充分にお体をご自愛くださいませ。

必要でしたら連絡ください。
エプロン持って駆けつけます。
アランジアロンゾのパンダのエプロンが似合うんです。
「可愛い♪」って言われます。
街で噂のエプロン姿です。
見たいでしょ♪
お気軽にどうぞ♪♪