ダイラガー　それが青春

今日は残業ですっかり遅くなってしまった。
もう午後11時か。

夜の国道321号、車の通行はほぼ皆無で貸切状態　民家もまばらで街灯すら無い山中のアスファルトをひた走る。

やもすれば道沿いの歩道の向こう側にある雑木の中に人影のような。

何だ？

減速して車を寄せ、後続車など来ないだろうが一応ハザードを点ける。
助手席の窓越しによく見てみると暗くてハッキリとは見えないが、下半身部分だろうか？草木の中にうっすらと浮かんで見える。
シルエットからどうも女のようだが、、、何も身に付けてない？
野糞でもしてたのか？こんな時間にこんな場所で？
周りには車も見当たらない　歩きのバックパッカーか何かか？
ともあれ、夜の田舎の国道沿いで下半身丸出しの女に会うなんて、神様ありがとう僕に友達をくれて。

微妙な高揚感を感じつつ車を降りてゆっくりと近づく。
足長い　やっぱりケツ丸出しだ。
上半身はよく見えないが前屈で何か探している様子だ。
この素晴らしき瞬間をガッチリとワシの網膜に焼き付けるべく、ブルゾンから老眼鏡を取り出して装着する。
老眼も進行したが、若干視力も落ちている　歳にはかなわんな。
だがダイソーで買った度数1.5の老眼鏡、世界が変わる程クソ見える。

ムゥ〜　確かにケツには違いないが、何か様子がおかしい。
裸に見えたがそれにしては色が濃い　毛？毛むくじゃら？
花平バスーカのアレか？
にわかにケツが動く。
そしてゆっくりとこちらに振り返ったソレは巨大なシカだった。
でけえ　やたらでけえ　立派な角まで生えている。
ワシとシカまでの距離は約2m　ジッとこちらの様子を伺っている。

どうする？

ワシの脳内イメージでは、この後エキサイトしたシカが突進してワシをツノで突き刺し、空中に舞い上がったワシは車田正美風に頭から落下　車のフロントガラスを突き破って犬神家のスケキヨみたいな最後を遂げる。

否！

シカ風情に霊長類最強と謳われるこのワシが殺られて犬死にとあっては末代までの笑いの種。
執筆中の公道最速理論も未完のうちに逝ってしまう訳にはイカン。
だが極真空手のウイリー・ウイリアムスは素手で熊を殺したそうだ。
よってシカ程度なら赤心少林拳の心得のあるワシでも倒せるという結論に達する。

ヤツが突っ込んんできたタイミングにカウンターで流星拳を横面に叩き込むぜ。
少年はみんな明日の勇者だからな。オオィェ〜

しかし待てど暮らせど相手は微動だにしない。
まいったな、こちらから仕掛けるしか無いのか？
むやみに野生動物を刺激するのは恐怖を感じるが、とりあえず威嚇してみる。

ヲイ、コラァ！タコ！コラァ！

全く無反応。
シカに無視された。　
死ぬ程恥ずかしい。

長州力では全く効果が感じられない。
胸踊るロケット変身でもしない限り無駄だろう。
ちきしょう、車に何かあるかも知れない。ちょっと待ってろ。

刺激せぬようゆっくり後退りして素早くドアを開け車内にもくりこんで物色。
武器は無いのか、武器は？
車載ジャッキでブン殴って撲殺でキメるか？
重さもあるので破壊力抜群だろう。戦いはこれでキマリさ超常スマッシュギンガイザー　知らねえだろ。

リアハッチまでゴソゴソと移動し、カーペットをめくって狭い中苦労してジャッキを取り出す事に成功。
素手で戦う予定だったが、予定というのはあらゆる状況に対応すべく常に変わるものだ。
リアハッチをバーンと開けて派手に勢いよく飛び出たらヤツもビビるんじゃないか？
でも内側からは開きそうも無いので仕方なく後部座席のドアからションボリと出たら、シカいねえでやんの。

性的衝動を経て生死を賭けた戦いへのアドレナリンの分泌、そして誰も居なくなった。

人がどれだけ足掻こうと、結末は変わらないと確変落ちのフルフロンタルは言った。

帰って飯食うか。