「富士ヒル。それは、自分自身との、一年間の、答え合わせ。」
僕の脳裏には、あのスタートラインに立つまでの、あまりにも濃密な道のりが鮮やかに蘇る。当日の興奮ももちろん、そこに至るまでの日々が、どれほど僕を試したことか。
2024年6月。初めて挑んだ富士ヒルは、92分40秒という現実を突きつけた。ゴールラインを駆け抜けた瞬間、安堵と共に湧き上がったのは、言い訳のできない、ただ純粋な悔しさだった。その悔しさこそが、新たな炎となり、僕を突き動かした。2025年。あの頂へ、もっと速く、もっと強く辿り着く。それが、この一年を貫く、揺るぎない目標となった。
ロードバイクに跨り、ただひたすらにペダルを回したあの日々から、数えて3度目の春。最初の1年は、ただただ減量と脂肪燃焼のためだった。見慣れた景色が、繰り返されるペダリングの中で遠ざかり、また近づく。単調な日々。それでも、わずかに感じる体の変化だけが、僕が前へ進んでいる唯一の証だった。
2023年6月、富士ヒルへの挑戦を決意した瞬間から、僕の日常は一変した。ヒルクライムトレーニング。それは、甘美な響きとは裏腹に、容赦のない自己鍛錬の日々だった。2024年6月から2025年6月まで。走行距離、11,745km。月平均978km。数字だけを見れば、よくやったと自分でも思う。だが、その一キロメートル、一ペダルには、数えきれないほどの葛藤と、諦めない意志が詰まっている。
真夏の焼けつくアスファルトの上、汗が目に滲みてもペダルを止めなかった。そして、最も過酷だったのは、厳冬期だ。気温が氷点下を下回る夜明け前。まだ暗い道を、僕はロードバイクに跨っていた。シンとした冷気が肌を刺し、指先は凍え、吐く息は瞬時に白く染まる。ハンドルを握る手が感覚を失っていく。それでもペダルは回し続ける。聞こえるのは、風を切る音と、自分の心臓の鼓動だけ。孤独が骨の髄まで染み渡る。
「なぜ、そこまで追い込む?」
内なる声が、何度も囁く。肉体的な苦痛。それよりも深い、精神的な葛藤。それでも、遠く薄明るい空にぼんやりと浮かぶ、富士山のシルエットが僕を奮い立たせる。あの頂へ。その一点が、僕の魂を再び覚醒させた。
トレーニングの中心に据えたのは、ペダリングの改善だった。前回の富士ヒルの動画を分析する。そこには、無駄な動き、力任せの「踏む」ペダリングが克明に記録されていた。かかとが大きく沈むアンクリング。非効率そのものだった。
僕は決意した。片足計測の4iiiiから、両足計測のAssiomaパワーメーターへの交換。それは、まるで自分の体の奥底に隠された秘密を解き明かすような感覚だった。左右のバランス、パワーフェーズ、すべてのデータが可視化される。ポジションを見直し、フォームを修正し、ペダリングそのものを再構築する日々。試行錯誤の末、今まで意識できていなかった筋肉、お尻から太ももの裏側にかけての大殿筋群が活性化していくのを感じた。体重は変わらない。筋肉量はむしろ減っているかもしれない。それでも、FTP(Functional Threshold Power:1時間維持できる最高出力)は着実に向上していった。
しかし、パワーメーターは残酷な真実も突きつけた。交換前、僕は自分のFTPを239Wだと思っていた。だが、現実は227W。2024年の富士ヒル時点での平地FTPは、目標としていた体重比3.5倍には遠く及ばず、実際は3.38倍だったのだ。この事実は、次への課題として、僕の心に深く刻まれた。
もちろん、この一年、常にモチベーションが高かったわけじゃない。特に富士ヒルが終わった直後の6月から10月、そして厳しい寒さに見舞われる12月から3月にかけては、トレーニング量が著しく減った。仕事やプライベートで別のことに意識が向き、自転車への情熱が細い糸のように感じられる時期があったのだ。それは、夜の飲酒量の増加や体重増加という、目に見える形で現れた。
大会参加も、富士ヒル以外では10月の定峰峠ヒルクライムのみ。しかも、その大会に向けて、昨年(2023-2024シーズン)のように意識高く臨めたかというと、正直なところ、そこまでの手応えはなかった。昨シーズンは最低体重で定峰峠に挑み、4月には日光白根ヒルクライムにも出場していたことを考えると、今年の状況は物足りなかった。
モチベーションの低下は、そのままトレーニングの質に直結した。特に秋から冬にかけての練習は、形式的になっていたと言わざるを得ない。高強度練習を再開し、ヒルクライム練習も本格的に再開したのは、4月に入ってから。いわゆるビルド期に入るのが遅れたことは、明らかな反省点だ。
それでも、心の奥底に消えることなく燃え続けていたのは、「来年こそは必ず」という強い執念だった。厳冬期の夜明け前。冷たい空気の中でペダルを回し続けたのは、弱い自分に打ち克つため。モチベーションが低下した時期も、過去のトレーニングの記憶が、微かながらも前へ進む力を与えてくれた。
富士ヒル2024年大会の6月から、今年の4月まで。僕の体重は、まるで意思を持ったかのように増量の一途を辿っていた。これが、今回の大会における、最大の反省点だった。66.4kgでスタートした僕の体は、ピーク時には70.3kgにまで膨らんでしまったのだ。
4月、5月になって、ようやく重い腰を上げて減量に取り組み始めた。まるで、破綻した家計の帳尻を合わせるかのように、必死だった。その甲斐あって、大会当日の体重は67.6kg。昨年の大会と比べても増量した状態だった。
特に、1月あたりから週に1回程度の名古屋出張が僕の生活に深く食い込み始めた。それは、まるで甘い囁きのような誘惑だった。出張を言い訳に、僕はかなりの量のお酒を飲んでしまった。ひどい時には、日本酒を一人で四合。身体の奥底から、熱いものがこみ上げてくる。それは、達成感とは程遠い、後悔の熱だ。お酒。そして、それに伴う食べ過ぎ。それが、体重増加の最大の要因であることは、僕自身が一番よく分かっていた。
普段、僕のトレーニングは、1週間を高強度と低強度で隔日に分けて組んでいた。しかし、お酒を飲んだ翌日は、体が重く、L1(ゾーン1)やL2(ゾーン2)の低強度に甘んじるしかなかった。そうでない日はL4(ゾーン4)で数分のインターバルを入れることもあった。しかし、日頃の低糖質な食事が、まるで足枷のように僕のパフォーマンスを制限しているように感じた。強度を上げきれない。踏み込もうとしても、体が反応しない。高強度練習の前に、炭水化物やBCAAを摂っていなかったことも、大量の筋肉分解を招いていたに違いない。
その結果、年間を通して距離は乗っていたにもかかわらず、3月まではパワーの向上はほとんど見られなかった。それは、まるで停滞した水のようだった。しかし、4月に入って、僕は再び自分を律した。お酒をさらに控え、トレーニング強度を上げた。すると、停滞していたFTPが、5月末には227Wから237Wへと向上したのだ。この数字を見た時、心底嬉しかった。だが、同時に、強い後悔の念が押し寄せた。やはり、一年を通して継続的なパワー向上を目指すべきだったのだと、強く感じた。
日頃から少なめの炭水化物で体重減少や維持を試みていた。しかし、これが逆に高強度練習時の筋肉分解や、強度を上げきれないという結果に繋がったのだ。脂肪燃焼や回復を目的とした低強度トレーニング、そして身体能力の向上を目的とした高強度トレーニング。どちらのトレーニングにおいても、起床後すぐに食事をとらずに朝練習を実行したことが、特に高強度トレーニング時の筋肉分解を招いたのだと思う。
適切な食事ができなかったこと。そして、お酒の問題。これらが合わさって、トレーニング量の割に身体能力の向上に結びつかないという、もどかしい状態を招いてしまった。結果として、お酒の飲みすぎとそれに伴う食事が、6月から4月までの10か月間、僕の体重増加を継続させてしまったのだ。
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