![【ドナドナ】さらばポルシェ911(997.1) 【ドナドナ】さらばポルシェ911(997.1)](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/blog/000/047/589/979/47589979/p1m.jpg?ct=cec78e855c35)
以前
ポルシェ987ケイマンを手放した際、確かに「クルマやバイクは単なる機械だから特別な感慨は持たないようにしている」と書いた記憶がありますが、そんな「単なる機械」に愛情や情熱を注ぐ方々が沢山いることも知っています。そして、自分がそのうちの一人であったことを悟りました。しかも無茶苦茶ディープな。
約9年間乗ったポルシェ911カレラ(タイプ997/3.6L/6MT)を手放しました。理由は色々ありますが、まずは加齢による特に動体視力・反射神経低下や仕事のし過ぎによる慢性の重症テニス肘といった体力の低下、自身の不安定な収入による今後の維持への不安、介護やインフレに伴う負担増、そして何と言っても重課税による大きな負担です。“古い物を大切にすればするほど税金を徴収する”といった、この国のまるで罰金制度のようなクソ税制にまんまと屈してしまった感、そして体力的な不安から愛車の維持を諦めてしまった自分自身への情けなさと、「単なる機械」への申し訳なさで非常に落ち込んでいます。
手放すことを決心した997との最後の週末、ラストドライブに選んだルートは、この季節でも積雪や路面凍結が無い南房総。997で幾度となく通った館山道、そして何度も立ち寄った早朝の市原SAの隅っこの定位置で別れを惜しみながらのスタートです。
房総半島内陸の信号も交通量も少ないワインディングを快走し、
ビンゴバーガーで有名な「道の駅 三芳村・鄙の里」にピットイン。早朝の空はまるで997の新たな門出を祝ってくれるように抜けるような青空です。
房総グリーンライン/房総フラワーラインと、ドライブ好き・ツーリング好きにはメジャーなルートをゆっくりと噛み締めるように流し、この近隣に住むさかなクンがプロデュースする
「渚の駅・たてやま」に立ち寄ります。自分の自宅が海沿いなこともありますが、いつも海沿いルートを走ることが多く、最近洗車してあげていなかったこともあり、潮風のせいかちょっと薄汚れてますね。
このところのガソリン高騰による燃費を気にしながらの運転からクルマを解き放ち、南房総のワインディングにて低いギアでレブリミット付近まで存分にブン回すドライビングを堪能すると、自然吸気3.6リッター水冷6気筒水平対向エンジンが快音を奏でます。前に“
排気量の割りには大したことない”なんて書いてしまってごめんね。そして立ち寄った
館山湾沿いの駐車場で1枚。左側通行であるここ日本では、道路上で左側に車の頭を向けて撮影することはあまり無いと思うので、ここでは左サイドからのアングルで撮っておきました。快晴による順光で対岸の三浦半島と大房岬が美しいです。
富浦の農道で、春の陽光をいっぱいに浴びて咲く菜の花と記念撮影。そういえば今まで都心や街中を走ったことは少なく、ほとんどが渋滞を避けてのカントリーロードでした。
館山道と京葉道は昼過ぎからすぐに上り線の渋滞が始まるので、再びワインディングを駆け抜け早めに昼食をとって帰路につくことにし、割りと早い時間帯からやっている
「じんべえ」に立ち寄りますが、人気店ゆえ既に駐車場は満車に近い状態でした。
地物のキンメ煮付けとアジフライ、刺身の盛り合わせをいただきます。人気店だけあってさすがの新鮮さと美味しさで再訪決定です!(バイクでね)
君津ICから館山道に乗り、帰りも市原SAに立ち寄り定位置の端っこに停めて小休止。ポルシェ911独特のリアビューも見納めかと思うと、このクルマの維持を諦めた自分への悔しさと悲しさが込み上げてきます。
何度も通った館山道を慈しむようにゆっくりと走り、911の感触を全身と脳に染み込ませます。年式は若干古いものの「狙ったところに必ず行く」というコントロール性の高さとシュアな挙動は本当に素晴らしいものでした。
事故を起こさず・壊さず・捕まらずの安全運転で、無事マイホームのマンションに到着。買い物をした荷物をこのロータリーでフロントのトランクから何度も下ろしたことが思い浮かんできます。それほど実用性にも優れたクルマでした。
業者間のオートオークション(USS)に出すため、リアの社外品LEDテールライトユニットを純正に戻します。オークション査定は極力ノーマル状態の方が評価が高くなりますので、競りにかける際はカスタム箇所を元に戻せるようにしておくことが大切です。
明けた日曜、本当に最後のドライブとして選んだのは何度も通った大黒PAです。早春の寒い朝早くから、爽やかな車バカ達がいつものように集結していました。
いつもより長居しながら物思いにふけっていたら、ポルシェ997後期型MT車と991前期型MT車にお乗りの水冷ポルシェMTオーナー2名からお声がけいただきました。何でも自分の乗る997前期型MTを見つけてオーナー(私のことですな)が戻ってくるのを待っていたそうで、初めてお会いするのにお互いの水冷ポルシェの珍車?の話題で大いに盛り上がりました。
もっと早く知り合っていれば、水冷MTオーナーズ3台でツーリングに行けたのになあ。
横浜の街を味わいながらゆっくりと流し、自宅へと向かいます。街乗りはあまりしませんでしたが、扱いやすいMTと粘り強いエンジン特性で、歩く速度ぐらいのゆっくり運転でも非常に乗りやすいクルマでした。
帰宅して自宅近くのGSで、普段は面倒がってやらなかったホイールの内側やナット穴の隅々まで、感謝を込めて綺麗に洗車します。
フロントトランクのトリムの隅々も。
エンジンルームはパイプ類とハーネス類の1本1本まで綺麗に磨き上げます。
もちろん内装もピカピカに。疲労の少ないシートと無駄な加飾が無い997の無骨なインテリアは、まさしくドライビングに徹する仕事場的な居心地の良さでした。
そしてピカピカの姿で最後のホームタウン・メインプロムナード。
自宅に向けて角を曲がったところで、偶然にも親戚のお爺さん(VWビートル)とひいお爺さん(ポルシェ356)のリアエンジンの大先輩に遭遇。このご近所さん2台はよく見かけますが、こうして古いクルマを維持し続けていることへの尊敬の念を禁じ得ません。
帰宅すると、オドメーターは最後に98,320kmを指していました。
10万kmを超えるとオークション評価が大きく下がることへの懸念もあり手放すことを決心しましたが、1台のクルマをこれほど長く乗ったのは初めてです。
自分はクルマやバイクをはじめ、自転車や楽器や仕事道具から服やブーツなどをとても大事にして自身で手入れをしながら長く使う方ですが、いつの間にか年とともに「たかが機械」「たかが道具」に人並み外れた愛情を注いでしまっているのかもしれません。
断腸の思いのまま自宅マンション駐車場のシャッターを下ろします。明日以降はこの場所にこの表情豊かなクルマがいることはありません。997のこの表情は何を思う顔なのでしょうか。
この先バイクと自転車だけの生活となりますが、“今本当に欲しいクルマが無い”という心境なので、マンション駐車場と任意保険も解約しました。
その日の夜遅く、翌日以降のオートオークションの競りにかけられるため、ずっとお世話になってきた
カレストスポーツさんのローダーで引き取られていきました。ふと気付くと「単なる機械」を載せたローダーが左折して姿が見えなくなるまで手を降っていました。そして何十年ぶりかに声をあげて泣きました。
幼少期から「大人になったら絶対に乗るんだ」と心に決めていたポルシェ911を所有できて幸せでした。買おうと思えばもっと新しいモデルも買えましたが、空冷911のキュートさとアナログ感を残した997の乗り味は、本当に愛すべきクルマでした。重整備以外は
基本的に殆どDIYによって自身でメンテや修理を行い、一度だけ
エンジンにトラブルが出て冷や汗をかきましたが、基本的には9年もの間とても頑丈で頼もしい相棒でした。
人生少し長く生きていると、得るものも確かに多いけど失うものも同じぐらいかそれ以上に多いということが分かってくるものです。
これまで60年以上に渡り世に生まれたポルシェ911は、その7割以上が現役で走っているとのことですが、この997も新たなオーナーの元で生き永らえてほしいです。
ありがとう、そしてさようなら997。
〈エピローグ〉自分の楽曲は「別れ・後悔・失望・嫉妬・焦燥・懺悔」といった重いテーマで作った曲が多いですが、甚だ手前味噌ながら997との別れに敢えて自分の楽曲を添えたいと思います。
【君の知らない道を行く『空色の街』】