
日本へ!舵中央の続きです。
日本に近づくにつれて、それまでの海の色から次第に
近海の色に変わって来ます。
懐かしい日本の影が見えてきました。
あの母国に女の子が待っている、そう思うと船足が極めて遅く感じられるのでした。
入港準備!号令が響きます。今回は錨泊等ではありません
ちゃんと岸壁に接岸します。
曳船が舫を取りに向かって来ます。入・出港共、傍から見れば簡単に見えますが、事故が起こったり
フネに損傷が出たり危険を伴います。ですから一連の動作は決まっていても必ず各部署を集め
連絡をします。
前部甲板で舫の用意をしています。同じように後部甲板も発動しているでしょう。
ブリッジのウイングから測距を行い、連絡員からどんどん報告が上がります。
「両舷停止!」「両舷停~止」 曳船に舫が渡されます。無線で交信
岸壁でも接岸作業が行われています。防舷物も下ろされフネの接岸を待ちます。
長かった航海も終わり、女の子の待つ日本に帰国です。
休暇があり、上陸!
彼は逸る気持ちで、女の子に連絡をしました。
男の子はその日当直でした。次の日の夕刻です、女の子は彼に会うことが出来ました。
「おかえりなさい!」
「ただいま!」
お互いに、今迄ずっと考えてきた事があります、今度会ったら必ずこう言おう。
「おかえりなさい!」だけじゃなくて、大好きな男の子にこう言おう・・
でも、女の子は「おかえりなさい」が精一杯の表現でした。
涙が溢れて次の言葉が出て来ません、あれ程何度もこう言おうと決めていたのに・・
練習したのに・・・何度も何度も・・
男の子は彼女を抱きしめました。
「ただいま☆・・○○(名前)ゴメンネ・・一人で寂しい思いをさせて・・」
「帰って来てくれてありがとう・・・無事で」涙が彼女の言葉を遮ります。
女の子は彼の胸で泣きました。
「看護婦さんが泣くなよ・・○○・・俺もどれだけ会いたかったか・・・」
「うん・・」
晩秋の冷たい夜風が彼らを包み、夜の帳が静かに下りて来ます・・
その夜はずっと彼らは一緒に過ごしました。
「今度はいつ出港なの?」
「定修に入るんで、暫く居るかな?」(定期修理で入渠します)
「日本に居られるのね!」
「うん」 とは言え遊んでいる訳ではないです。予め計画で決まっていて業務をこなします。
「私ね、今は准看だけど、頑張りたいの」
「正看取るんだね」
「そう、お給料はあんまり変わらないけど、看護婦ずっとしたかったから」
(当時は看護師ではなくて、看護婦)
「大事な仕事だね、夢を追いかけるって素晴らしいし、カッコイイ」
「うん、今、外来に出てるでしょ私、患者さんが言うの、Fさん(女の子)彼氏居ないんか~?」
「で?どう言うの?」
「居ますよ~残念でした~ぁ!って」(よく看護職員は冷やかしやナンパに遭遇するんです)
一緒に働く仲間達が援護射撃をしてくれるそうです。
「ダメですよ~Fさんは、彼氏居ますからね」
患者さんはチェッ!みたいな顔をして引き下がるそうです。もちろん強引に食事に誘ったり
ドライブしようと誘ったりしてくる方も居るそうで。
「浮気すんなよ、俺の居ない時に~」
「しません!バカ!」
女の子は当時、ポニーテールがよく似合っていて、タレントの大西○花に似ていました。
男の子はそんな彼女に白いリボンの髪留めをプレゼントしました。
いつも男の子に会うときは白のリボンの髪留めを着けて来ました。
男の子はそういう健気さが大好きで、いつもそれではいけないと感じて、次に紫色の髪留めを彼女に与えました。
後に この紫色のレースの髪留めが効いてくるのです。
つづく・・
Posted at 2015/11/22 10:49:22 | |
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埠頭の風 | 日記