以前
「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」を紹介した際「
LUCKY」についていつか話したいと書いていましたが、気分的に「LUCKY」が観たくなり鑑賞したので紹介です。
本作は内容的にはかなり地味です。アクションでなければ恋愛物でもない、90歳の爺さんの日常です。(微かに恋愛っぽい部分は...あるか)
公式サイトでのSTORY紹介
神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガを5ポーズ、21回こなしたあと、テンガロンハットをかぶり、行きつけのダイナーにでかけることを日課としている。店主のジョーと無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタが注いでくれたミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解くのがラッキーのお決まりだ。そして帰り道、理由は分からないが、植物が咲き乱れる場所の前を通る際に決まって「クソ女め」とつぶやくことも忘れない。
ある朝、突然気を失ったラッキーは人生の終わりが近づいていることを思い知らされ、初めて「死」と向き合うが
これをネタバレしないように補足すれば「死」がより身近になったことを自覚し「死=怖い」という感情を得た無神論者で現実主義者なLUCKYが、毎日のルーティンから外れた些細な出来事の積み重ねから、死は全ての人や物にとっての真理であり宇宙の真理である「すべては無に帰る」こととして微笑んで受け入れていく様子が描写されています。
面白いのは、無神論者として「無=真っ黒な空」になることに管理者(神)などいないと悟っているのですが、この悟りは仏教思想のそれ(色即是空 空即是色)と同じということ。
現実主義で一匹狼、すこし偏屈な主人公「ラッキー」を演じるのは、ハリー・ディーン・スタントンで、本作が遺作になりました。
氏は「
パリ・テキサス」で主役のトラヴィス・ヘンダースンを演じた俳優です。
私の印象では、どちらかというと主役というよりは脇役が多い俳優さんかと。
「パリ・テキサス」は何故かamazonでのビデオ配信では利用できない作品になっています。それで言うと「パリ・テキサス」のヴィム・ヴェンダース監督の別の作品「ベルリン・天使の詩」も同じく利用できない作品で、たまに再び見たい映画の1本なので、残念です。
エレファント・マンやツイン・ピークスの監督であるデヴィッド・リンチが脇役としていい味を出しています。リクガメの飼い主のハワード役ですね。
気を失ったあとに行った先の医者の問いかけ「1人で孤独じゃ?」への「"孤独"と"1人暮らし"は意味が違う」というLUCKYの返しが印象的な台詞としてトレーラーのキャッチにもなっています。
自分もそこそこ友人はいて、ほんの少しは社交的ではあるので1人暮らしになっても孤独ではないと自負していますので、LUCKYを観るたびに心の中で「そのとおり」と思い観てきましたが、今回のコロナ騒動の自粛の中では「1人暮らし=孤独」になってしまうことに気付かされ、今までとは違った気分でLUCKYを鑑賞しました。
すべての映画にも共通するのですが、2回3回と重ねて観ると細部で自分の気が付かなかった点に気が付かされます。
とある場所の前を通った際に必ず口にする「クソ女め」とつぶやく部分、初見ではすこし偏屈で人嫌い、未婚のLUCKYは女性が嫌いで吐き捨てているのだろうと思っていましたが、その理由はストーリーの中で示されていました。
でもその場所の名前も兼ねて、少しは女性嫌いであるという意図も入っているのではなかろうかと邪推しています。
悟りを得てからはつぶやかなくなったのも、LUCKYの心境の変化を表しているのでしょう。
この「クソ女め」の単語がおそらくスラングだと思うのですが、何という単語かわからず、モヤモヤとしています。
女性嫌いではないと少しわかるのは、いつも買い物に行く店の女性から招待された、彼女の息子の誕生祝いのシーンで、彼女の母親を見て過去の記憶が思い起こされたのか、スペイン語で見事なマリアッチの歌を披露するシーンがとても印象的です。細かく描写はされていないですが、おそらくスペイン人女性と過去に何かあったのでしょう。
この歌の歌詞、心に刺さる人は多いのでは?
私もその一人ですがw...素直になればよかった
あの燃えるような愛は粉々にくだけもとにはもどらない
苦しくておかしくなりそう、でも愛し方は知ってる
別れてずいぶんたつが愛の迷子になったようだ
君の言うとおり素直になればよかったよ
君を取り戻したくてたまらない
どうしても君の腕にもどりたいんだ
君のいる場所ならどこにでも行く
降伏する方法も分かったし今ならやり直せるから
Youtubeにこんな動画もありました
映画中で最後まで明らかにされていない事実として、LUCKYが家からクロスワードパズルのヒントや、子供の頃にBB銃で撃ってしまったマネシツグミの話を電話で話している相手が誰だったのかという点、あとエレインの店で弁護士の男と喧嘩になり表で待っている時に諫めにきたポーリーが消えた先は何処だったのかという点があります。
監督によると電話の相手はきちんと設定があるが、あえて明らかにしていないそうです。
自分は今のまま90歳まで生きればLUCKYと同じ境遇になるわけで、この映画は全く他人事ではない話として心に刺さってきます。
おそらく90歳までは生きないと思うけど、今現在映画最後のLUCKYのように達観した境地には至っていませんし、そうなれる自信もありません。
作品中でLUCKYは「人はみな生まれる時も死ぬ時も1人だ」と言っていますが、私も全く同じ考えです。しかし、自分のメンタルの状態によっては、これが強がりと感じてしまう時もあるわけで...
人生の折り返し点を過ぎて「死」というものが少しずつ現実味を帯びてきているなか、自分は微笑んで死を迎えられるのか、毎回見るたびに考えさせられる映画です。
万人向けの内容ではないと思いますが、私としてはお勧めの映画の1本です。
2020年5月18日現在、LUCKYはamazon prime video対象になっていますので、prime会員であれば無料で鑑賞可能です。
Posted at 2020/05/18 00:07:02 | |
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