
最近アフターマーケットの軽量クランクプーリを装着した車両で、オイルポンプが破損したりするトラブルが頻発していると知って意外な気がしました。クランクシャフトのねじり共振を避ける(共振点を上げる)には、フライホイールやクランクプーリは軽いに越した事は無いと自分は考えていたからです。「軽くする=悪い」という事はないんじゃないか?と自分なりに考えてみました。
クランクシャフトはピストンが受けた燃焼圧を回転力(トルク)に変換する、鍛鋼または球状黒鉛鋳鉄で出来た太くてゴツいパーツです。しかし燃焼圧によるトルク変動がクランク一回転につき4気筒で2回(回転2次)、6気筒で3回(回転3次)と間欠的に入ってくるのと、クランクシャフト自体が長い(特に直6)ため高回転まで回すとねじり振動の共振点に入ってエンジンブロックを振動させて音を出したり、更にはクランクシャフト自体の折損に繋がるリスクがあります。
クランクシャフトを細く長いねじりばね(トーションバー)と考えると、その前後にクランクプーリとフライホイールという円盤状の錘が付いている状態です。これがゆっくりと大きな角度で繰り返しねじれている状態が続くと折損の危険が出てきます。クランクシャフトを太く短くして硬くし(ばね定数を上げ)、かつ前後についている重りを軽くすれば共振点は上がってねじり振動の周期は早くなり振幅(角度)も小さくなります。例えば実用7,000rpm MAXのエンジンであれば、クランク系のねじり共振点をこれ以上の回転域に上げてしまえば問題なくなります。
しかし高回転まで回すごく一部のユーザの為にクランクシャフトを高剛性化するのはお金がもったいないし、フライホイールも立体駐車場の坂道発進を考えたら軽量化は難しい。発進性を犠牲にして軽くすればクランクシャフトは助かるけど、トルク変動が変速機まで素通りしてガラ音を出したりする。またクランクプーリもオルタネータ、パワステポンプ(最近は減ってるけど)、水ポンプ、エアコンと様々な補機を駆動しなければならず、また耐久性やコストを考えたらプーリも重たい鋳鉄製とせざるを得ず共振点を上げるのは難しい。そこで市販車の場合はゴムと錘を組み合わせたねじり振動ダンパが採用されます。
ダンパは実用域に入ってしまった単一の共振点(直6だと6,000rpmとか)を叩くにはてきめんに効果があります。しかし共振点を多用するとゴムが吸収したエネルギを発散できずに壊れるし、ダンパでは複数の共振点を潰す事は難しいので、1万回転とかまで常用し共振点がいくつも常用域に入ってくるようなレースエンジンには使われません。レースエンジンでは基本に忠実に高剛性化&軽量化で共振点を底上げする手法が採られます。
私事で恐縮ですが、AE86でジムカーナやミニサーキットで戦っていた頃、ハイカム&フルコンを組んで回転上限を8,500rpmまで上げていました。クランクシャフトはピン径が太くて重く高剛性なAE92後期用を使用し、フライホイールは戸田、クランクプーリはオートギャラリー横浜、コンロッドはAE111純正、ピストンは戸田の鍛造品とクランクシャフト以外は出来る範囲で軽量な部品を選びました。当時既にパワステやエアコンは廃棄済みでしたし、1,000rpm以下ではアイドリングも困難だったので充電不足の心配もなく、したがってクランクプーリは小径且つベルト1本掛けの超軽量なやつです。アルミ削りだしでダンパは当然ありません。私生活の変化から競技続行を諦めるまでこの仕様で数シーズンを戦いましたが腰下にはトラブルはありませんでした。
ねじり振動ダンパを外すのであれば、クランクシャフトがそれなりに高剛性であることは前提として、フライホイールやプーリは極力軽量化に努めねじり共振点の底上げを図ることが重要と思います。不具合現品を見た訳ではないのであくまで推測ですが、ゴツいアルミ削りだし(当然ダンパーは無し)にカラーアルマイト処理で見た目はゴージャス、でも実は慣性モーメントはそんなに軽くなっていない。フライホイールも重たいノーマルのまんま。。。そんな状態で高回転までガンガンぶん回す事がクランクシャフトにとっては危険なのかもしれません。
【おぼえがき】
●究極のエンジンを求めて 兼坂 弘 著 P17~
クランクシャフトが爆発圧力に耐え切れず折れるということはまったくない。恐ろしいのは爆発圧力によって加振されるねじり振動の共振だ。L6よりも短く、この面で楽であるはずのこのエンジンのクランクシャフトのねじり振動は、図(本ブログTOP画)のねじり歪値に見られるように、だいたい8000rpmにおいて4次(1回転に4回)の共振点に突入しヤバイ。ねじり振動ダンパーでこのねじり歪値を低くおさえ込むワザもないわけではないが、ダンパーにしたところで1分間に32000会もブルブルやられると破損したがるので、ダンパーがやられるとクランク・シャフトまでやられてしまうので、8000rpmまでこのエンジンは回すべきではない。
P124~ …ほとんどすべての面で優れている直列6気筒エンジンの泣き所であるねじり振動の問題が出てくるのだ。つまり、6000rpm近くでクランク軸にねじり振動を発生するのだ。これをプロは3次のねじり振動といい、クランク軸の1回転に3回クランク軸をねじり、クランク軸はねじ切れそうになって、助けてくれーとばかりに悲鳴をあげ、エンジンももらい泣きをして、ものすごい音を出すのだ。
●トータルバランスチューニング Vol.4 出力向上のためのエンジン講座 冨永和雄 著 P35~
…本来、振動音を抑えるためのものなので、振動音を気にする必要のないレーシングエンジンにダンパープーリーを付けたりしません(中略)ダンパープーリーは3次成分しか見ていないし、レーシングエンジンはもっと高回転まで回すから6次成分とかが効いてきます。瞬間的に通過するだけの3次成分のためよりもクランクシャフト全体のねじり歪み量を考えて、高回転で折れることを防がなければならないわけです。ダンパープーリーはかえってマイナス効果になってしまいます。だからクランクプーリーは絶対に軽くしなければいけないのです。
P41~ …ダンパープーリーをなくした時にクランクシャフトはどうなるのかっていえば、まず室内騒音が増える。6000回転近辺でいきなりうるさいエンジンになっちゃうだろうね。でも7000、8000回した時にクランクシャフトのねじり量が減って強度的に楽になった、それが答えだと思ってるんだ。具体的な話でいえば、1番メタルが焼きつかなくなったとか、オイルポンプが割れなくなったとか…
P42~ …プーリーは出力が増えたり回転数が上がったりしたらノーマルの限界を超えちゃう。もしもノーマルプーリーを使いたいっていうのなら、ゴム劣化があるから定期的に交換してやる(中略)音もそれなりに静かだし、そういう考え方でいってもいいと思うよ。あるいはクランクが強くなってるのなら、レーシングエンジンみたいにクランクプーリーがないのもあるんだから、クランクプーリーは軽いのにして単にオルタネーターや冷却ポンプを回すだけの役目にする。それが回転系のひとつの答えだろう。そうすればクランクシャフトのねじりも減るし、ミソすり運動も減るから、オイルポンプやメタルなんかのトラブルも当然減少する。
●新版レーシングエンジンの徹底研究 林 義正 著 P134~
…クランクシャフトのねじれ振動はコネクティングロッドメタルを叩き、耐久性を損なう。またその反作用によってメインベアリングに力がかかり、これがシリンダーブロックの振動を増加させる。(中略)エンジンの前端部で動弁系を駆動している場合は、カムシャフトの回転運動にまで影響を及ぼすことになる。
(中略)レース用NAエンジンでは、図のように小さな振動の山がいくつも使用回転域に入ってくるため限りがなく、ダイナミックダンパーを同調させる事は意味がないと言える。ダイナミックダンパーは、バネ・マスの共振によって振動エネルギーを吸収するものであり、当然、重い質量が必要になる。したがって、軽量化の面からもダイナミックダンパーはなしで済ませたほうがよい。
そのためには、高い設計技術が必要になる。また、レース用NAエンジンではとくに高い周波数の振動を吸収しなければならず、その分ダイナミックダンパーに使われるゴムの変形の繰り返しが激しく、ゴムだれを起こすことがある。そうなるともう役には立たない。ゴムの代わりにシリコンオイルを入れたビスカス式を使うことも考えられるが、万が一スティックしたら、エンジンの前側にもフライホイールが付いているのと同じになってしまう。
(中略)私はレース用NAエンジンでダイナミックダンパーを使うことには反対である。クランクシャフトの固有振動数を上げるなど、設計技術で対処すべきである。
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クルマ全般。 | 日記
Posted at
2013/02/16 09:56:32