
※BSFCマップは2.0TFSi Gen.3B(ミラーサイクル140kW版)の物です。
「高速高負荷域のBSFCが悪い」とマツダにdisられ続けているVWのTSiですが(そう言うマツダは自身のSKYACTIV-Gの全負荷域BSFCを隠し続けていますが)、従来の1.4TSiに代わる新型1.5TSiが発表されました。
第37回ウィーン国際エンジンシンポジウム新世代「TSI」を発表
・新世代のTSIエンジンは、燃費効率をさらに大幅に低減
・ミラーサイクルと高圧縮比の組み合わせで、燃費をさらに向上
・量産ガソリンエンジン初のVTGターボチャージャー
フォルクスワーゲンは、第37回ウィーン国際エンジンシンポジウムで、最新世代の「EA211 TSI evo」を発表しました。この次世代ガソリンエンジンの最初のモデルは1.5リッターのTSIエンジンです。低燃費と同時に高いトルクを発生するこのエンジンは、当初は96kWと110kWの仕様で、2016年後半から市場に投入される予定です。この新しいエンジンには、数々の先進技術が搭載されていますが、その中でも可変タービンジオメトリーを採用したターボチャージャーは、大量生産を前提としたガソリンエンジンでは初めてとなる技術です。(引用終わり)
VW・AUDIは先に新型A4に搭載され日本でも発売されている2.0TFSi Gen.3Bで既にミラーサイクル(ε=11.8)を採用しています。
他社の様なリーンブーストやEGRブーストではなくミラーサイクルを採用したのは恐らく燃料事情の良くない新興国での触媒被毒および配管腐食の問題、それに対応する為クールドEGR有り/無しの両バリエーションを持つことはVWの考えるモジュール設計コンセプトに合致しないと判断されたのでしょう。
マツダにdisられている様に高速高負荷時のBSFCが良くない(
こちらの資料の表3.1-1で2,500rpm、吸気管圧75kPaまでA/Fはほぼストイキを維持しているが、ノック回避のため点火時期リタードが始まっていることが判る)ことはVW自身も認めており(MFi Vol.45でもミッデンドルフ博士が「実はTSiユニットも(170km/hを超える様な)高回転高負荷時の燃費はあまり良くありません」と白状している)、ミラーサイクル採用によるノック回避と排気温低減は高負荷燃費の改善に繋がるでしょう。
ただしミラーサイクルにも弱点があります。VWは吸気弁早閉じミラーサイクルですが実質的な排気量が減少してしまうので同じトルクを得るのにオットーサイクルよりもブースト圧を高める必要があります。2.0TFSi Gen.3Bは図で解るように1,500rpm程度でインターセプト点に達しますが、実はここではまだオットーサイクル運転をしています。インターセプト点を過ぎてもウェイストゲートは閉めたまま更にブーストを高め続け、図の1,800rpm位になってやっとアウディ・バルブリフトシステムを切替えてミラーサイクルに移行します。
オットーサイクル運転域ではε=11.8という高圧縮比下でノックを回避しながらトルクを絞り出す為、BSFCが悪化している事がコンター図の色にもはっきりと現れてしまっています。仮にこれを嫌って全域ミラーサイクルとしたら、インターセプト点は1,800rpmと高回転側にずれて低速トルクが低下してしまいます。
新型TSiで驚いたのはε=12.5と2.0TFSi Gen.3Bより更に高圧縮比されていること!もしこれで2.0TFSi Gen.3Bと同様に低速域でオットーサイクル運転をしたらBSFCはハチャメチャに悪くなってしまうのでは!?
プレスリリースを読んだ当初、高コストなVGターボは高出力(110kW)版にしか採用されないのでは。。。と想像しましたが、ここでふと思ったのは1.5TSiは低出力(96kW)版も含め全域ミラーサイクルで、不足する低速ブーストを補うためにVGターボを全適したのでは!?ということ。考えてみればNOx規制で厳しいディーゼルの場合は低速から排圧を高めてブーストを立ち上げていく苦しい場面でも必ず一定量のEGRは入れなくてはいけない訳で、そのディーゼル(全域EGR)がVGターボを得て十分な低速トルクを獲得するに至った現在、ガソリンで全域ミラーサイクル+ターボもいまや「有り」なのかもしれない、と。。。
しかし排気干渉から解放されるオマケ付きの減筒化を敢えて選ばず、4気筒のまましかも現時点でポルシェでしか採用例がないガソリン用VGターボを全適とは!これにはマツダでなくても「コストは大丈夫?」と心配になりますね。(汗
いまを遡ること23年前、マツダは世界初の乗用車用ミラーサイクルエンジンKJ-ZEMをユーノス800に搭載して発売しました。
位相可変バルタイは当時アルファロメオ、日産はじめ数社が採用を始めたばかりで、このKJ-ZEM型機関についてはバルタイは固定で常時ミラーサイクル。したがってマツダは排気エネルギに依存せずブーストを高められるリショルムコンプレッサを採用し低速トルクを確保しました。燃料供給ですが三菱GDIの登場までには更に3年後まで待たねばならず、KJ-ZEMでは当然PFIでボア80.3mm、ハイオク仕様にして幾何学的圧縮比ε=10.0に留まっていました。
いまやVWがターボチャージャのみで全域ミラーサイクルを達成したとすれば。。。KJ-ZEMは登場するのが余りにも早すぎたのだなぁ!!
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jawayさんより、タービンハウジング形状がディーゼルやポルシェのそれとは変わっているのでベーン枚数の少ない普及版では?とのコメントを頂きました。
「Mixed-flow turbine」とあるので、ディーゼルでVG全盛になってあまり見なくなった斜流タービンでしょうか?それとこの画像だと排マニとの接続部の形状がわからないので排気干渉を防ぐ隔壁があるかどうかも解りませんね。。。続報が待たれます。
**** 2016年7月20日追記 ****
日経Automotive 7月号買いました。p43には
CG3月号掲載時に私が指摘した、マツダ公表によるBSFCカーブ(50Nm超で全域SKYACTV-Gが優っているように見えるが、ちょっとしたトリックあり)がほぼそのまま再掲されていますね。また人見氏はA/F=30でHCCIして排気量を倍にすると言っていますが、同じく倍増する摩擦損失に対して過給ダウンサイジングに代わるソリューションの提案は無し。それはともかく。。。
p52からは「EA211 TSI evo」が採り上げられています。VWはこの1.5TSiの登場に伴って「安価なポート噴射仕様のガソリンエンジン『MPI』の品種を減らす」とあり、「ダウンサイジング終焉」どころかVWは今後更に過給ダウンサイジングの普及を加速させる事がわかります。またターボは斜流ではなく普通のラジアル式の可変ノズルベーン付きでした。下はVW AGにより公表された画像です。肝心のVG機構部が見辛いですが。。。サプライヤはボッシュ・マーレ・ターボシステムズ社のようです。
当然ながらVG機構を組み込む都合上シングルスクロール構造となり、4気筒だと排気干渉があります。記事によるとBMEP>8barの中高負荷域ではスカベンジングを行いますが、排気干渉があるのにスカベンジング!?ここはトヨタ8NR-FTS同様に排気タイミングを糞詰まりにする(短デュレーション+VVT遅角)事で排気干渉を回避しているのでしょうが、これをやると排気行程でのポンピングロスが増えるし素直に減筒すればイイのに。。。Dセグのパサートへの搭載も考えるとNV性能的に4気筒以上が必須なんでしょうか。BMWとPSAはDセグにも3気筒を載せてきましたが。
またガソリン車へのVGターボ適用にあたり排気温度は最高880℃に抑えたとありますが、掲載のBSFCマップ(メーカ公表図ではないので引用は控えます)によるとピークパワー付近で238g/kWhと、殆どガソリン冷却には頼っていない模様で流石に高膨張比化の効果が伺えますね。
「燃費の目玉」の中心にあたるBSFCは222g/kWhで「最高熱効率は37%超に達したとみられる」との事ですが、トヨタ式に低位発熱量
42.6 42.1MJ/kg(これまでは44MJ/kgが通例)で計算すると正味熱効率は
38.1 38.5%になり、先代プリウス2ZR-FXEの最高値38.5%に
迫ります 追い付きます。そしてもちろん過給ダウンサイジングエンジンらしく「燃費の目玉」の広さは特筆もので、欧州で主流となる有段変速機との相性も良さそうです。
**** 2016年8月5日追記 ****
最近のトヨタ式の低位発熱量は42.1MJ/kgらしいので朱記訂正。情報源は
「落書き帳」のなかの
「エンジン技術_10 いろいろ雑記帳」。いつも貴重な情報をありがとうございます。。。
***** 2016年9月1日追記 *****
7月20日の追記で「(4気筒で)排気干渉があるのにスカベンジング!?」と書きましたが、こういう事の様です。図はホンダ技報からの引用。

バルブオーバーラップ期間の初~中期に新気を吹き抜けさせておく(図中(a))。オーバーラップ後期には次の気筒のブローダウンで吸排気の圧力が逆転(緑線と赤線が交差)しますが、排気ポート中は吹き抜けた新気で満たされており高温の排気が逆流してくるまでには時間がかかります。その前に排気弁を閉じてしまえばスカベンジング完了!
とは言うものの。。。図の横軸(クランク角)を見ると、排気遅開き化により次気筒のブローダウンは完全に下死点後になってしまっているのが伺えます。排気行程のポンピングロス増で損してもノック回避を優先し低速トルクを取ったのでしょう。また最近はA/Fリッチ化を避けるため、(水冷されている)ヘッド内で排気を集合させてターボを直付けする事が流行っていますが、ブローダウンによる逆流を防ぐには排気ポートのブランチは極力長く取らなくてはなりません。もちろん排気干渉の無い3気筒であれば何も心配ないのですが。。。
↓いつも勉強させていただいている
ブログ「落書き帳」。感謝。。。
エンジン技術_11 過給エンジンの吸排気弁オーバーラップ中の掃気 - 落書き帳
***** 2018/2/28 追記 *****
初見は日経AT編集部の作だったので引用を控えていましたが、VWの1.5TSi evo(96kW仕様)のBSFCマップが公開されていました。
こちらの資料"Downsized, boosted gasoline engines"の8頁。

定格出力点においてもBSFCは240[g/kWh]を下回り、全域λ=1を達成している事が伺えます。さて、全負荷時A/Fをリッチにしないとパワーダウンが避けられないNAガソリンエンジンはどうするでしょうか。
「リッチもリタードもやってない」という某社も自信があるなら全域BSFCマップを公開して頂きたいものですが。。。
落書き帳さん、いつもありがとうございます。
エンジン技術_6 燃費の目玉(5) - 落書き帳
もげ. 01/30 19:58
全域λ=1(燃料冷却・出力増量無し)で最大出力時BSFC240g/kWhを切った1.5TSiがやっと日本導入!開発目標が高負荷燃費の低減であり「ポロの速い奴」じゃなくもっと大きく重い車種を望みたいが「喉元過ぎて熱さを忘れた」市場では今はTDiを売れるだけ売っときたい、という魂胆か
Polo TSI R-Line | フォルクスワーゲン公式