
本田技報を読んでいたら、近々デビュー予定の3気筒1LターボのBSFCマップが掲載されていました。比較対象の「1.8L NA」はR18A型エンジンと思われます。等馬力カーブ(赤い点線)は私が画像を加工して重ねてあります。
R18AもVTECを使って部分負荷時ミラーサイクル運転を行っていましたが、それでも過給ダウンサイジング化で「燃費の目玉」が低負荷側に広がった事が一目瞭然ですね。注目すべきは2,500~3,000rpm付近の中回転域では全負荷時のBSFCまで低減していること。吸気量が限られているNAエンジンは、僅かな全負荷トルク上乗せの為に出力増量を行いますが、その必要が無いターボでは全負荷に至るまでA/Fをストイキ化した効果が現れています。
但し過給ダウンサイジング化で全域BSFCが下がった訳ではなく、60kWを超えるような高出力域ではBSFCが悪化しています。熱負荷増に対応するA/Fリッチ化に加え、インターセプト点を下げるため小容量のターボチャージャを採用しており、タービン流量が飽和する高速域では排圧増によるポンピングロスからも逃れることはできません。例えば160km/h超で飛ばし続けるようなシーンでは、過給ダウンサイジングの燃費は従来のNAエンジンより確実に悪くなるでしょう。
VWも1.4TSiを投入した当初から「実はTSiも170km/hを超える様な高速高負荷時の燃費は良くない」と白状しており(ソース:MFi Vol.45「ダウンサイジングエンジンの意味と展望」)、既に
新型1.5TSI evoでは手を打ってきています。ミラーサイクル化で膨張比を確保し排気温度を抑制(日産は先にEGRブーストでこれを実現するも部分負荷域に留まる)、更に可変A/Rターボチャージャで高速高負荷時の排圧を低減して定格出力点でのBSFCを実に238g/kWhまで下げてきました(ソース:日経AT2016年7月号「VW次世代エンジンの実力」)。
さて、
過給ダウンサイジングと言えばマツダが「高負荷域の燃費が悪い。カタログ燃費優先だ!」と一刀両断していますが、公表されている1,500rpmのBSFCカーブを見てもSKYACTIV-Gの全負荷域のデータは隠されているし、
色々なデータを補完して検証してみたもののマツダの言うように切って捨てる程の物なのかは解りませんでした。
(上図の左側はトヨタ2NR-FKEのデータなので無視してください。)負荷率70~80%付近では確かにSKYACTIV-GのBSFCの低さが際立っていますが、そもそも1,500rpmという様な低回転で高負荷が連続するような運転シーンが想像し難く、低負荷域から満遍なく使う場合においてもSKYACTIV-Gが必ずしも絶対的優位にあるのか良く解りませんでした。
マツダの公表しているBSFCカーブは1,500rpm一定の物ですが、第三者機関による2,000rpm一定での正味熱効率の比較データも見つかっています(ソース:
Eine bequeme Reise「SKYACTIV-Gエンジンとは何か」)。
これを見ると、マツダ公表のBSFCカーブ@1,500rpmでは伏せられていた全負荷領域の熱効率低下(BSFCは上昇)は明白であり、マツダ人見氏の仰る「気筒休止をやれば負ける気がしない」(つまり現状は負けている。少なくともPSAのEP6DTには)ことがデータからも確認できます。
では一体マツダは過給ダウンサイジングのどこが悪いと言っているのだろう。。。と思ったら、過去にこんな図も公表されていましたね(ソース:MFi Vil.115 p55「ダウンサイジングターボの詭弁」)
左下図はいつもの1,500rpm一定での「誰も見ていない真実」。その右のBSFCカーブ@4,500rpmですが、SKYACTIV-G 2.5LはNAでは避けられない出力増量による全負荷域のBSFC急増が見られず、1,500rpmのデータと同様にカーブの右端がカットされている模様です。。。
それはさておき(笑、VWのミッデンドルフ博士が白状し1.5TSi evoで対策してきた様に、過給ダウンサイジングが高速高負荷で燃費が悪かったのは事実のようです。マツダの人見氏はカタログ燃費偏重とNEDC→WLTCへの移行を強調しますが、超高速巡航が多い一部のユーザからはTSi登場後からコンプレーンが出ていた可能性はありますね。とりあえず日本では「ほとんどの人が知らなくても良かった真実」か。。。?
結局、人見氏の言う「誰も見ていない真実」とは「過給ダウンサイジングは
高速・高負荷燃費が悪い。高速でブッ飛ばすユーザは是非SKYACTIV-Gを!」という事だったのかも。しかし4,500rpmのBSFCカーブを載せても大多数の日本のユーザには訴求しないので、1,500rpmのデータを弄繰り回して高負荷域でのBSFCの悪さを強調したかったのでしょう。
でも高速でブッ飛ばす様な使い方をするユーザにとっては、豊かなトルクリザーブでホールドギヤのまま速やかに最高速まで加速するSKYACTIV-Dの方が適しているでしょうし、ディーゼルのドラビリに慣れたドライバが今更シフトダウンしないとフル加速体制に入れないNAガソリンエンジンにそれほど魅力を感じるとも思えないところが、SKYACTIV-Gの辛いところでしょうか。。。
***** 2018/2/28 追記 *****
初見は日経AT編集部の作だったので引用を控えていましたが、VWの1.5TSi evo(96kW仕様)のBSFCマップが公開されていました。
こちらの資料"Downsized, boosted gasoline engines"の8頁。

定格出力点においてもBSFCは240[g/kWh]を下回り、全域λ=1を達成している事が伺えます。さて、全負荷時A/Fをリッチにしないとパワーダウンが避けられないNAガソリンエンジンはどうするでしょうか。
「リッチもリタードもやってない」と言い張る某社も自信があるなら全域BSFCマップを公開して頂きたいものですが。。。
落書き帳さん、いつもありがとうございます。
エンジン技術_6 燃費の目玉(5) - 落書き帳
もげ. 08/12 06:47
自技会「自動車技術」8月号見て自分もアレッと思ったのだが、1.5TSi-evoは96/110kW版ともに全域λ=1(増量なし)を達成している模様。https://blog.goo.ne.jp/dqnjunkie/e/59ac12d160db04cc7cb7a5e1124d393e
もげ. 08/12 06:49
日本ではいつまで旧い1.4TSiを売り続けるつもりなんだろか。。。
もげ. 09/26 19:50
落書き帳さんの燃費の目玉(5)が更新。縦軸BSFC、横軸kW/Lのグラフが目新しい。適切なギアが選定(特に低出力時)されている前提だが夫々のエンジンで高効率な出力帯が判る。VC-Tはもっと燃費に振った仕様も欲しい…。https://blog.goo.ne.jp/dqnjunkie
もげ. 09/28 18:44
【画像更新】「落書き帳」さんを読んでても日産VC-Tのうれしさがいまいち見えなくて、M社によく槍玉に挙げられるエコブースト1.0も並べてみた。100kW/Lの比出力を達成しつつ、我慢して大人しく走れば低燃費、という事は間違い無さそうだけど…。1.5TSi evo日本上陸に期待(汗
もげ. 10/02 19:51
燃費の目玉(5)が更新、最下段の図。1.5TSi evoの全域λ=1、最大出力時238g/kWhには度肝を抜かれたが、ディーゼルの背中はなお遠し…https://blog.goo.ne.jp/dqnjunkie/e/59ac12d160db04cc7cb7a5e1124d393e
もげ. 10/06 11:23
今年一番のガッカリにつき再掲。VC-T開発者自ら「正味熱効率ピークで40%に達しており、クールドEGRの採用は考えなかった」と白状するように、高負荷BSFC低減には重きが置かれていない。35kW/Lを超える高出力域ではマツダにdisられたエコブースト1.0をも上回る大喰らい。。。
もげ. 01/30 19:58
全域λ=1(燃料冷却・出力増量無し)で最大出力時BSFC240g/kWhを切った1.5TSiがやっと日本導入!開発目標が高負荷燃費の低減であり「ポロの速い奴」じゃなくもっと大きく重い車種を望みたいが「喉元過ぎて熱さを忘れた」市場では今はTDiを売れるだけ売っときたい、という魂胆か