恋した相手は、バレー部のマネージャーでした。自分は、テニス部でしたので、同じ体育会でも、屋外と室内でまったく接点がなく、遠い存在に感じました。しかも、マネージャーですから、安易には近づけません。
彼女は、バレー部の男子に恋していました。背が高く、とても男前でした。
私が彼女を追いかけ、彼女が奴を追う、そして奴は手あたり次第ほうぼうで、という図式でしたので、永遠に結ばれることはありません。彼女は、自分を振り向いてくれるまで待つスタンスのようでした。その背中を私が突いていたのです。
あるとき、彼女からデートに誘われました。
「前に、いつか重要な話がしたいって言ってたでしょ。それを今日してよ。あたし、聞くから」
この展開なら脈ありに感じられるかもしれません。しかし、自分には強力な情報網があり、よく分かっていました。彼女は、いつまでも待ち続ける覚悟を固めており、私から同じようにされるのが嫌だったのです。恋の死地に向かうデートでした。
ボウリング場を選びました。3ゲームを夢中で楽しみ、屋外に出ました。そのまま分かれて帰ろうとすると、諌止の声がかかり、「約束したでしょ」という悲痛の訴えがありました。
当時の心境を覚えています。
――誰よりも勤勉で、真面目な君らしい一途な恋だよ。応援はしないが、邪魔はしない。なのに、どうしてもやるのか。血が出ると分かっているのに、君に刀を渡し、それで斬ってもらう必要があるのかい?
ほぼ直立不動で見つめ合い、言葉を絞り出すのに10分近くかかったと思います。
「どうしても言わないと駄目なのか?」
許さない、と顔に描かれていました。やがて、彼女に恥をかかせている自分が恥ずかしくなりました。ありきたりの言葉で告白し、鉄板の台詞で振られました。正式に、不本意な、友達同士になったのです。
ほどなくして、私は、テニス部内で続けてカノジョができました。いずれも長続きはしませんでした。一方の彼女は、1年近く待って恋が成就したものの、一瞬で捨てられてしまいました。
――Hello, again.
本稿を記す際に、Googleで検索し、直近の彼女を発見しました。超難関の国家資格を取得し、専門分野で活躍している様子でした。そして、同学年の誰よりも美しくなっていました。女性を見る目という点で、当時の自分を誉めたくなりました。玉砕に相応しい高嶺の花でした。
ブログ一覧 | 日記
Posted at
2023/10/21 08:11:47