女王様の気まぐれ。

(明日、削除します)


彼女は女王様である。
そして僕とは数年来の友達である。
仲の良い友達であるが、ただの友達である。
プレイはしない。
同じ不思議な能力を二人とも持っている。

バリバリの女王様である。
その辺のファッションだけの女王様ではない。
女王様としてホンモノである。

彼女は滅多に笑わない。
言葉ではうまく言えない。
目が持つ力はすごい。
眉や鼻や口といったパーツの一つひとつが美しい。
まるで腕の良い職人が丹精込めて造ったようだといつも思う。

その女王様と先日都内某所を歩いた。
黒のロングコートを身に纏い颯爽と彼女は歩く。
混んだ歩道では、向かって歩いてくる人が彼女をよける。
彼女は直線的に歩く。
向かってくる会社員や学生が無意識に彼女をよけていることに僕は気がつく。
彼女が怖いのではない。
独特のオーラだと思う。

一緒に食事をした後、彼女に頼まれた用を済ませるために彼女のマンションに向かう。
その途中、彼女は思いついたようにドラッグストアに入る。
黄色い看板の『マ』で始まるあの店である。

店内は混んでいる。
どうしてこんなに人がいるのだろう。

店員を呼び寄せて彼女は包帯を見せてもらっている。
入口近くで、大きな声で呼び込みをしていた男性店員である。
彼女を前にして、店員が少し緊張しているように感じる。

僕は少し離れたところでハブラシを見る。
デンターシステマ。
群馬と都心との価格差をチェック。
…都心の方が安い、、、頑張れ、群馬。
思わず２本買う。

買ってから、、、
ハブラシを買う行為を意味深に彼女が思うかも、、、と気づく。
彼女の新しいマンションの部屋に初めて行くのである。
僕はいつも後から色々なことに気づく。

店員の声が大きい。
伸びるとか幅がどうとか言っているのが聞こえてくる。
店員が見せる包帯を彼女は気にいらないらしい。
僕の位置からは彼女の華奢な背中と緊張した店員の顔が見える。

男性店員が｢どこの箇所で使う包帯ですか？｣と彼女に訊く。
一瞬の間をおいて彼女は振り向かずに僕を指差し、、、

｢あの人を縛るの｣と答える。


店内から音が消えたように一瞬思う。
彼女の指先は一直線で僕に向かっているままである。

会社員も主婦も女子高生もみんなが僕を見る。
男性店員も僕を見る。

男性店員が何か言おうとして口を動かそうとするが言葉は出てこない。
彼のキャパシティを超えたのだ。

聞いてもいないし、思ってもいない展開である。
１０年前の僕なら、、うろたえたかもしれない。
人生経験のすべてを総動員して、、僕は笑顔でうなずく。

笑顔のままで女王様に近づき、そっと腕をとって店から出る。



(つづく、、、いや、続かない)