2021年12月17日
ちょっと衝撃的なニュースが…!?
と言っても、鉄ネタのお話です。
(長編です。ご興味のない方はスルーしてください)
伝統の連接車、前面展望席の小田急ロマンスカー『VSE50000形』が、2005年の登場からわずか17年、2022年3月で定期運行を終了するとのこと。
☞鉄道ドットコム
「小田急、ロマンスカー「VSE」を2022年で定期運転終了へ」
引退の理由は、こちらに書かれています。
☞マイナビニュース
「小田急電鉄の白いロマンスカー・VSE、独特の構造が引退の理由に」
引退の理由は3つ
1.今や小田急唯一の連接車でホームドア対応が困難。
2.軽量アルミダブルスキン車体のため、更新工事が困難。
3.空気圧式車高調、車体傾斜装置の保有部品がなく保守コスト増。
と、言われています。
1.ホームドア対応
VSE50000形より古いEXE30000形や、VSE後継の、MSE60000形、最新のGSE70000形は連接車ではなく、オーソドックスな2軸ボギー構造です。
台車が連結部にあり隣り合う車体で共用する連接車は、車両限界との兼ね合いで車体長さを長くできません。通常のボギー車が車体20mに対して、VSEは13.8m(中間車)、このためドア位置が他車と共通配置にできないのです。
(補足; ホームドアには、ドア位置が異なる編成対応のため、ホームドア位置を可変できるタイプがあり、現在では必ずしも致命的な理由になりません。唯一の連接車系列ということで、色々な面で標準化が困難、ということなのだと思います。)
2.軽量ダブルスキン車体
700系やN700系新幹線にも採用されている車体構造で、軽くて強い車体となっています。しかしタダでさえ溶接の難しいアルミ製に加えて、2重構造の車体は劣化部分の更新強化改造が難しい、と言われます。
走行距離が長い新幹線は、更新しないで廃車する前提で採用されていますが、在来線の小田急では返って扱いにくい構造になっていました。
3.車高調、車体傾斜装置の保守困難
カーブ制限速度が続く小田急線。VSEは乗り心地を確保して速度向上を図るという意欲的な設計がなされたため、連接車でありながら空気圧式車体傾斜装置を採用。さらに低床構造にして、駅到着時のみ車高を上げるという「車高調」機能が搭載されていました。
このVSE唯一の特殊な構造が災いして、補修部品確保が困難になり、継続使用をあきらめる事態となってしまいました。
ここで、過去の投稿も交えながら、
【小田急ロマンスカーのお話】を
まずは、VSE50000形乗車記。 最初に乗ったのは?
2016年9月8日のブログ、から。
☞【(続)出張報告】小田急ロマンスカーで、『やっちゃう』 会社へ!
箱根湯本12:29発「はこね18号」新宿行きに乗車します。
「はこね18号」を選んだ理由は・・・?
小田急ロマンスカーのフラッグシップ、VSE50000形に乗車するため~♪
(;^o^)メ (パチパチパチ)
VSE50000形
一時期、小田急ロマンスカーの代表格として名鉄パノラマカー7000系と共に一世を風靡した前面展望車NSE3100形の再来と言われる、10両11台車連接、運転室を2階にした編成両端展望室が特徴です。
白に赤いラインの塗装は、ドイツ新幹線ICEにもちょっと似た雰囲気が!
DBのICE3 (写真はWikipediaから)
VSEとは「Vault Super Express」の略称。
Vaultとはアーチ型天井のことで、室内のデザインから命名されました。
木目調の素材を多用した、落ち着いた車内。
本厚木までの、ゴージャスな40分♪
伝統のシートサービスが健在です。
以前はコーヒーを頼むと、サービスカウンターから陶器かガラス製のカップで座席に届けてくれたものですが、今はワゴンによる車内販売で紙コップ…。
それでも、ビスケット付きがうれしい。
お昼ご飯は幕の内弁当(^^)
サービスカウンターです。
コーヒーメーカー、電子レンジや冷蔵庫があります。
以前は売店として機能していましたが、今は車販基地に使用されています。
先頭車に行ってみます。展望スペースの指定席は残念ながら満席だったのでした。
天井はまさにVault!
景色がよく見えるよう、シートは外側に少し傾けて設置されています。
あっという間に本厚木到着。
お名残惜しいですが、VSEを見送ります。
2回目の乗車、
最後部ですが念願の展望席へ。
2017年11月29日のブログ
☞【出張でテツ旅 ③】 箱根登山鉄道チョイ乗り、VSEでやっちゃう会社へ!?
箱根湯本駅にVSE50000形「はこね」が到着。
VSE50000形は、長野電鉄に譲渡されたHiSE10000形以来の全面展望10両連接車。
先週長野で10000形(長電1000系)に会いました。
そして、12:29発「はこね18号」新宿行となります。
指定の座席は・・・!
『1号車1番D』 先頭が10号車なので一番後ろの展望室席です。
乗車時間になりました。最後尾展望窓から箱根湯本駅を。
12:29、箱根湯本を発車しました。
箱根湯本-小田原間は箱根登山鉄道線で、小田急ロマンスカーが乗り入れる形になります。
本厚木まで約40分のロマンスカー。早速昼食。
入生田駅でEXE30000系とすれ違い。
箱根登山鉄道は軌道幅1435mmの標準軌ですが、小田急線は1067mmの狭軌。
小田原から三線軌道が続いています。
入生田駅には箱根登山線の車庫があり、三線軌道はここまで。
以前は、小田原駅まで続き、箱根登山鉄道の標準軌車両が強羅から直通していました。
現在、各駅停車は小田原-箱根湯本間と、箱根湯本-強羅間に系統分離され、小田原-箱根湯本間は小田急から転籍した、1000形の4両編成が使用されています。
トンネルを抜けて小田原へ到着。
ダブルクロスポイントが見えると・・・、
小田原に到着。ここから小田急線へ。
左は、小田原-箱根湯本間の狭軌区間各駅停車のホームと1000形。
新松田を通過。
ポイントはJR御殿場線への連絡線で右に分岐すると御殿場線へ。
特急「あさぎり」→「富士山」が走ります。
次第に市街地となり。
間もなく本厚木。
本厚木到着。
サービスコーナーのある3号車。
白いボディに赤いライン、シングルアームパンタの姿は、ドイツの高速鉄道ICEを連想させます。
客室内の天井が丸いことからVault Super Express 略してVSEと呼ばれています。
さてここで、
【小田急ロマンスカーの歴史小括~】
『小田急電鉄』、
元々の会社名は『小田原急行電気鉄道』
1927年
新宿-小田原間が開業し、急行も運転を開始します。
1929年 西条八十作詞、中山晋平作曲、うた佐藤千夜子の
「東京行進曲4番」に、
『シネマ見ましょか、お茶飲みま~しょか、いっそ小田急で逃げましょか♪』
という歌詞が出てきます。
まだロマンスカーが運行される前の話なのですが、
「つかの間の逢瀬には飽き足らず、今風の不倫ではなく『駆け落ち』するなら小田急で行っちゃえ!」
というこの歌詞。
京浜急行でも、東急でもなく、小田急で逃げるところに哀愁を感じます。
小田原まで逃げても、すぐ見つけられてしまいそうですが・・・。
1935年6月
箱根へ観光客輸送のため、新宿から小田原までをノンストップで結ぶ「週末温泉急行」の運行が開始されます。
土曜日下りのみの設定で、「お忍び電車」とも呼ばれました。淫靡な響きが漂います。
これが小田急ロマンスカーのルーツで、車両はクロスシートとトイレを装備したデハ101形が用いられました。
温泉急行デハ101とロマンスカー1700形 (写真はWikipediaから)
第二次大戦中の運行休止を挟み、1948年小田原行き特急の運行を開始。
1951年
特急専用車1700形、が登場。
3両編成で扉は2か所、車内は全座席転換クロスのいわゆるロマンスシートが並んでいるという、特急ロマンスカーにふさわしい専用設計で全席座席指定。
カウンターを持つ喫茶スタンドも設置されていました。
この車両が現在のロマンスカーの方向性を決定づけました。
SE車3000形
1957年、国鉄鉄道技術研究所(現在のJR総研)の技術協力を経て、SE車3000形が登場します。SEはSuper Expressの略称で、8両9台車連接。
国鉄新性能電車の祖、101系が登場したのも1957年でしたが、こちらは通勤用4扉の箱型車体。 小田急SE車3000形は、低重心と軽量な車体を取り入れ、高速安定走行を追求した電車です。この年、国鉄東海道本線でSE車3000形を用いた高速走行試験が行われ、当時の狭軌(軌間1067㎜)世界最高の145km/hを記録。この結果はその後の国鉄新性能特急電車151系の開発に貴重なデータを残します。
東京-大阪間を6時間台で結んだ151系特急「こだま」が登場したのは1958年秋のことでした。
登場直後のSE車3000形特急「乙女」と、晩年の御殿場線連絡急行「あさぎり」
(写真はWikipediaから)
当時、車両の優劣に関わらず私鉄車両が国鉄線内で「特急」として走ることは許されない風潮だったため、「あさぎり」のみ全席指定の「連絡急行」という列車種別になっていました。
SE車3000形は「あさぎり」を最後に運用離脱し、1992年全車廃車となります。
3001編成は大井川鉄道に譲渡されましたが、その後廃車解体されます。
しかし歴史的産業遺産としての価値から保存を求める声が高まり、小田急社内でSE車3000形の永久保存が決定。3021編成の復元整備が行われ、現在でも海老名検車区に設置された密閉式の保存用車庫で静態保存されています。
次に登場したのが、
NSE車3100形。
1963年、翌年の東京オリンピックを控え急増する観光客輸送に対応するため、特急の増発が計画され、11両12台車連接の3100形が登場します。
ほぼ同時期に登場した名鉄7000系パノラマカーと同じく、運転席を2階に上げて前面展望室を初めて設置しました。NSEはNew Super Express の略称。
おじさん世代には、小田急ロマンスカーと言えばこの電車。
NSE車3100形 と LSE車7000形 (写真はWikipediaから)
LSE7000形
1980年老朽化が懸念されつつあったSE車3000形の代替用としてLSE車7000形が増備されます。11両12台車連接で前面展望の基本構造は変わりませんが、細部のデザインと電気機器の一部を見直して登場。座席はリクライニングシートになります。結果的にはこの時点でSE車は廃車されませんでしたが・・・。
LSEは Luxury Super Express の略称です。
HiSE10000形
1987年に登場。LSE7000形の仕様を踏襲しつつ、車内を高床式のハイデッカーにして前面展望席以外でも眺望に配慮した構造で登場しました。
High decker、High performanceをもじってHiSEと称されます。
2005年運用離脱し廃車となりました。
このうち4両5台車連接に組み替えた2編成が長野電鉄に無償譲渡され、2006年から長野電鉄1000系特急「ゆけむり」として長野-湯田中間を走り始めました。
HiSE10000形(写真はWikipediaから)と長野電鉄1000系
2017年11月20日長野電鉄長野駅で
☞【出張でテツ旅 ②】トラブル連続!帰り道は信越本線の残像をたどる・・・。
小田急HiSE10000形が譲渡された長野電鉄1000系「ゆけむり」湯田中行き
小田急車と営団車(日比谷線3000系)が並ぶ
RSE20000形
小田急線とJR東海御殿場線直通特急「あさぎり」用として、SE車3000形置き換えのために1991年登場。RSEは、Resort Super Express の略称。
JR東海も共通仕様で乗り入れ用特急車を製造することになり、同時に登場したのがJR東海371系。
ハイデッカー、2階建て車連結、2軸ボギー台車、特別席(グリーン車)の設置など、それまでの小田急ロマンスカーとは1線を画す仕様となっています。
RSE2000形(写真はWikipediaから)
JR東海371系(写真はWikipediaから)
小田急線とJR御殿場線はJR松田駅‐小田急新松田駅の連絡線でつながっています。JR東海371系は1編成だけでしたが、オレンジのJRマークを身に着けた371系が新宿駅の小田急線ホームにたたずむ様は一種独特の存在感がありました。
また代々木上原駅では、千代田線直通のJR東日本常磐緩行線203系や207系との、他社線内でのJR車同士の出会いが見られました。
2012年運用離脱し廃車。
371系と20000形は共に、3両1編成ずつが富士急行に譲渡され「フジサン特急」として運用されています。
ここまでが、過去帳入りした小田急ロマンスカーです。
・・・
『閑話休題』
以下、現在でも運転されている系列。
EXE30000形
1996年登場、NSE3100形の置き換えを目的に、前面展望席や連接構造をなくし、貫通運転台車を組み込んで、分割併合運転にも対応。通勤輸送やホームライナー運用を視野に入れた仕様で登場しました。EXEはExcellent Expressの略。
EXE30000形 本厚木駅
MSE60000形
2008年登場、日本初の地下鉄有料特急用として地下鉄千代田線直通運転を目的に製作されました。地下鉄乗り入れ以外「はこね」「さがみ」「えのしま」など通常特急運用にも就きます。
また、RSE20000形の後継として御殿場線直通「あさぎり」→「富士山」にも使用されており、
その多彩な運行が可能な特急という意味で Multi Super Express 略称MSEと称されています。
MSE60000形 非貫通先頭車(地下鉄線内対応の非常扉があります)
MSE60000形 分割併合用貫通運転台車
2018年までの小田急ロマンスカーは、VSE50000形を筆頭に、EXE30000形、MSE60000形の3系列で、「はこね」「さがみ」「えのしま」「あさぎり」「ホームウェイ」に運用されています。
地下鉄千代田線直通はMSE60000形により「メトロはこね」「メトロさがみ」「メトロホームウェイ」の列車名で、北千住-箱根湯本間を運行しています。 MSE60000形はJR東日本とJR東海の両社に接する訳ですね。
そして、2018年
GSE 70000形
"Graceful Super Express" が登場。
GSE70000形もVSEと同じアルミ合金ダブルスキン構造です。しかし足回りはオーソドックスな2軸ボギー構造で、EXE30000形のような分割併合はしない7両固定編成。(写真はWikipediaから)
しかし、このデザインと塗装色は、往年の名鉄パノラマカーに見えて仕方がない…。
元祖名鉄パノラマカー7000系 (写真はWikipediaから)
GSE70000形登場から2年後、
2020年近鉄の名阪ノンストップ特急(通称名阪甲特急)用に、
近鉄80000系「ひのとり」がデビュー。 (写真はWikipediaから)
運転台こそ2階構造ではないものの、50000系「しまかぜ」と同じハイデッカーの前面展望に配慮した先頭車は、これもGSE70000形や、往年の名鉄パノラマカー7000系に見えます。
個性を追求しているつもりでデザインが似通ってくるのは、クルマも同じですね。
それにしても、平成のロマンスカーVSE50000形が引退するとは、残念でなりません。
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