日本車マジック

　　2週間のご無沙汰でまたカレラ４に乗れるのようになったが、三菱ランサーの安楽さに慣れた体が再びカレラ４に合うのに予想外の時間がかかった。ランサーは曖昧なものは曖昧なままにという、日本人の心性そのままのクルマだが、ポルシェは「情報をしっかり感じとって操作せよ」という無言のプレシャーがクルマからかかる。カレラ４は911の中では安楽仕様なのに、それでも明瞭な差がある。常に「身体感度を高くする」ことを要求される。


　考えてみると、日本車は敢えて闘争心をくすぐらないように出来ている。GT-R等の特殊なクルマを除けば街を走っている日本車は、ぱっとみて序列を誇示するものがなく、皆均等な印象を受ける。日本人にはそれが心地よいのだし、自分もランサーに乗っている時の開放感の一部にそれを感じていたと思う。


　ところが、これが高速道路上だと混乱をもたらす。例えばアウトバーンでは、後方から迫りくるクルマを一瞬で識別して、キラリと光るスリーポインテッドスターやキドニーグリル、最近ではフォーリングスを視認して遅いクルマは道を空ける習慣がついている（そうだ）が、日本ではそれが曖昧なので、結果的に無秩序な混走になってしまう。
　それでも昔はまだ日本車でも今以上にスポーティーカーが多かったし、一つの車種でも○○ＧＴとか最速モデルを用意し、当時の若者はそれを熟知していて「お先にどうぞ」と車格に敬意を表して道を譲るマナーは持ち合わせていた。


　高速道路は序列社会であるということをわきまえないとかえって危ない。しかし、そうでない市街地は平等社会である。別に速いクルマが後ろにいたからといって道を譲ることはない。日本車は後者の道路環境にぴったり合っている。ポルシェは正直に言えば乗り心地も含めてこういうところでは良さは出せない。だから一概にどちらがよいとは言えない面もある。今回、日本車のよさが、実はドイツ車と比較した時の欠点の中にあったということを再認識させられた。


　ある出張先にJRで行った時、いつもの迎えの人が下車駅まで急用で来れなかった。代わりの人が迎えにきているはずだったが、ついぞ駅の出口まで来ても誰にも声をかけられなかった。引き返して改札口の方に戻ったら、いつまでも奥の方を見つめて立っている人がいた。
　私の方から声をかけたら、驚いたようにこちらを見て「すいませんでした」と謝っていた。そう、私が当人だと思われなかったようだ。乗降客が少ない田舎の駅なのに・・・。


　まあ、本人がその程度なので、クルマのことなど語る資格はないのだけど、ちょっとだけがっかりした。