飛んでイスタンブール　第六話　　　　旅で出会った尾根遺産たち　　その一

　　旅先で出会う人々は、ある意味夢の中で出会う人と同じだ。突然現れ、ひと時の時間を共にし、やがて目の前から消え去る。名前もアドレスも知らず、また会える可能性もほとんどない。思い出すと妙に懐かしく、また切なくなる。Wi-Fiがスマホに情報を注ぐように、旅は世界の何かが自分の心にささやきかける。それは時空を超え、折り重なるイメージの中に曖昧ではあるが物語を紡ぎ始める。



　 　成田空港のツアー受付カウンターにトランクを押しながら向かった時が最初だった。カウンターの向こう側にいたその娘は、カウンターから身を乗り出さんばかりに小さくジャンプして、美しい笑顔で私達を迎えてくれた。この人が添乗員か、ラッキーと思うのも束の間、パスポートチェックをし始めると私達のツアーは隣のカウンターであることがわかった。同じ旅行会社であるがトルコ１０日間ツアーと８日間ツアーの二つに分かれていたのだった。



　そして私達の添乗員は同じ女性ではあったが、こちらは普通の人だった。手続き進行中も、ちらちらと隣の添乗員を見てしまった。私達の後は、まだそちらには客が来なくて普通の顔に戻ってカウンターの上にある書類などを整理したりしていた。鼻がキュンと高くてきりっとした顔をしている。トルコ人と日本人のハーフみたいな印象だ。実際は日本人なのだろうが。先程の笑顔と真顔の時の淋しそうな表情の落差がまたまた魅力的だった。



　　ツアーでトルコを回っている時、何度か彼女をみかけた。あるホテルでの夕食後、エレベーター待ちをしている時、近くに彼女が偶然いた。思い切って声をかけてみた。「１０日間コースと８日間コースではどこが違うのですか？」と。彼女は私達を覚えていてくれたようで、またあの笑顔になりハトゥシャシュ遺跡を回らないのだと言い、二日分余計楽しんで下さいねと。その後、お土産屋でも偶然会い、「あら、こんにちは」と言葉を交わした。その３秒間の見つめ合いの中に、恋愛妄想を抱く。男とはそういうものだ。
　８日間コースの方は私達の１０日間コースと違って若くて派手目の女性客も多く、彼女もその中に紛れ観光客のような華やかさを振りまいていた。
　


　　「あっちのツアーにすればよかったね、添乗員かわいい子だしさ」と妻に言ったら笑っていた。でもそういうことになったら、それはそれでみっともないことだ。夫婦の旅行で若い添乗員に言い寄るオヤジなんて・・・。
　心に残る女性は日々生活していてそう出会わないけど、彼女はそうだった。ん？トルコの女性ではないって。長くなるのでトルコの女性の話は次回に。