
格安ツアー旅行には落とし穴がある。それは旅行会社が現地のお土産屋と結託してカモネギ御一行様を嵌めるからだ。そういう利害関係があるから旅行代金を安くできるので、これは致し方ない。自分が買わないと決めていれば済むことだ。ところがこれがどうして、敵もしたたかに攻めてくる。今回のツアー期間中での関門は4か所あり、最初は皮の被服屋、次が絨毯、トルコ石、陶器と続く。どれもす巧みな日本語で人心をつかみ、最初は無価値と思った商品を“欲しいモノ”に変容させていく。つまりは一種の催眠商法である。さて、私たちは無事関門を突破できたのであろうか?
最初に立ち寄った店は皮の被服屋。ここは客にリンゴ茶を配りながら先にプチファッションショーを見せてくれる。スタイルのいい若者が登場して何点か見せてくれるのだが、10分ほどすると観客から5人ほど選ばれ、いっしょにファッションショーに参加させられる。そして終了後、別室の売り場に連れて行かれ、売り込み攻勢が始まるのである。定価から電卓を見せながらどんどん値引いていき、お買い得感を煽る。もちろん、ファッションショーに参加した人は、参加優待価格とか言われてさらに乗せられる。それでも価格は10万円~20万円はする高級品だ。まさかと思ったが、ファッションショーに参加した妻はにこにこしながら一着買ってしまい、あえなく撃沈。

体型がそもそも違うということをわかっているのか、日本人の諸君はw
次の絨毯売りは凄かった。背が高く一見優しそうなジェントルマン風の男が、日本語による非常に巧みな話術で、トルコ絨毯を最初の織る過程から詳細に説明していく。そして安物から順次高級なものへ絨毯を床に次々広げていき、そのたびにツアー客のオバサン達からウヮ~!と歓声があがる。まずい、完全に術中に嵌まっている。

いかにも映画に出てきそうな、インテリマフィア風の男
そして30分以上かけた説明が終わると、各ツアー客にマンツーマンで対応する販売員がいつのまにか隣席してして親しげに日本語で語りかけてくる。ひざまずいて下から目線で「見るだけただですから」とか言いながら。
もちろん、私のところにも来て、どれが気に入ったかを聞いてきた。買わないつもりで、下の写真にあるえんじの大きな目が描かれたものがトルコらしくて良かったと言うと、最初は60万円、黙っていると電卓をはじいて50万円代、最後は37万円まで値下げした。そして終いにはそれに合う額縁のサンプルまで用意したところに、先ほどのインテリマフィアも現れ攻勢をかけてきた。
額のサンプルまで用意。必死である。
そこで一言、「
イスティミヨルム!」。 これはトルコ語で「いりません、結構です。」という意味だ。予め店に入る前に反芻して覚えておいた。すると、一瞬奴らの顔色が変わり、インテリマフィアが男に何事かささやき、あきらめたようだった。言葉の力は絶大である。男は私たちが帰る頃、放心したように両足を投げ出して長椅子に座っていた。おそらく歩合制の仕事なのだろう。
この後のトルコ石屋もおもしろかった。二つのトルコ石をそれぞれ両手に持ち「皆さん、どちらが本物かわかりますか?」と客に聞き、関心を引き付ける。そして「どちらも偽物です」「これはトルコ石ではなく、ただのトルコの石です」と笑いをとる。そして本物はこうだと説明を続ける。ここはあまり押しが強くなく楽だった。もちろん買っていない。
最後は陶器。なんでも日本のNHKにも出演して有名なガリップ先生というのがいて、実際目の前でろくろを回したりして芸術家を装う。ところが、このガリップ師匠、売り場にまで来て、買いそうな客がいるとささっと寄ってくる。店員曰く「この商品は、今ガリップ先生に聞いてみて、あなたのために特別安くします」「買ってくれたら、ガリップ先生のサインがここにしてもらえます」と。まるでコントだ。しかし、ここではまた、うちの妻が腕を通すワイン差しを買ってしまった。私から見るとインチキ臭い先生だが、作品は美しいと思う。

「落としても割れません」とガリップ先生。「E=MC2で説明できます」とは言わない。
というわけで2勝2敗の結果に終わった。こういうものはほとんどのツアーで経験するだろう。短時間でモノの価値を刷り込む彼らのテクニックはたいしたもんだと思う。
旅の思い出に、適度な値のものだったら買ってもいいかも知れない。少なくともあなたのクルマ道楽にかかるお金よりは少額なのだから。
Posted at 2012/10/10 17:55:25 | |
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