
ランチアラリー037は、魅力的なクルマの多いグループBカーの中でも僕の大好きなクルマの1台ですが、先日のサンクターボツーリングの帰路にてabrse037さんのラリーの助席を信州~東京までの長時間に渡って体験するという貴重な機会がありましたので、今回はそのインプレッションを含めランチアラリーストラダーレについて個人的目線でつらつら書かせていただきます。
まず、僕とランチアラリーの最初の出会いから。僕にランチアラリーのことを教えてくれたのは、のちにニュースステーションのアシスタントでブレークしたニュースキャスターの小宮悦子さんでした。夕方のニュース情報番組で、当時はまだ無名の局アナだった彼女が所謂スーパーカーを毎日1台紹介するコーナーがありその日のクルマが真っ赤なランチアラリーストラダーレだったのです。1982~83年頃のことだと思います。当時はまだ特にクルマが趣味だった訳でも無く、何の予備知識もなかったのですがあのランチアがストラトスの後継を作ったのだということは理解できたのと(流石にスーパーカーブーム世代だったのでストラトスはよく知っていた)リヤウインドウからエンジンが丸見えのところなど所謂普通のスーパーカーとは全く違う、何というか機能美的なカッコよさを感じたのを覚えています。
その後程なくして書店で何となく買った自分にとって初めての自動車雑誌(モーターマガジン誌)をきっかけに自動車趣味の道へ突入。1983年のことです。時はまさにグループB幕開けの時、WRCでランチアがメークスチャンピオンを獲得した年でした。
でその時代を知る人達の間で今でもよく記憶に残っているのが当時ランチアの正規輸入元であったガレージ伊太利屋の雑誌広告です。「ランチアラリー 980万円!!」ほっ欲しい・・・。高校生をもトキメカセル衝撃的な広告でした。こんなスペシャルなクルマが正札をかかげて誰でも買えるなんて。ちなみに当時、正規輸入元であったキャピタル企業でのサンクターボ2の価格は729万円。これと比べても相対的にお買い得だったと思いませんか?ランチアラリー。
でabrse037さんのランチアラリーストラダーレですが、フルノーマルのままのクルマが多い日本国内にあって珍しくオーナー自らの手によって独自のモディファイがされています。
リヤスポイラー付き。これは比較的ポピュラーなモディファイで少なくとも海外では新車時からオプション?として存在していた模様。これが無いと様にならないとお考えの方も多いでしょう。(しかし、ノーマルのストラダーレにこれを付けるとリヤ荷重が強すぎてアンダーが強くなるとの外誌の記事も有り。)
リヤホイール変更。実は比較的リーズナブルな価格で流通しているとお聞きしました。
このエアロカバー付きのラリーは中々無いのでは。
リヤエンドはエボ仕様に変更。これはなんとオーナーのお手製!!丸いテールライトは本物のエボもフィアット850の流用だとか。
リヤウインドウはノーマルのガラスからエボ仕様のパースペックス製に変更。
マフラーもエボ仕様に変更。
いかにもスペシャル風なこのタコ足、なんとノーマルです。
スペアタイヤとその収納ボックスが外されているのでスペースフレーム剥き出しのフロントボンネット内。ラジエター横の大きなオイルクーラーはなんとノーマル。
エボと同じエアベンチレーション。なんとこれもオーナーの自作。
普段はインダクションボックスに隠れて外からは見えないエアファンネルも自作。
これまで外からは何度も見せてもらっているラリーでしたが、助手席体験は今回が初めて。まず、乗り込むところからやはり大変。もともと低い車高に加えシートのサイドにロールバーが走っているので小柄の僕でもちょっと骨が折れます。(降りるときはもっと大変。)座席につくと低い着座位置にすっぽりとはまる感じ。(シートがフルバケットに交換されていたこともあって尚更)
コックピットはとてもレーシーで最高にカッコイイ。
前方の視界はこんな感じ。自分のノーズは中央のバルジ以外殆ど見えません。
そして注目のリヤの視界。やはりリヤスポイラーのせいで絶望的です。辛うじて青い空がちらりと見えるのみ。
サイドミラーの眺めはこんな感じ。
天井のエアベントを中から見るとこんな感じ。確かにかなりの風が入ってきます。
今回かなりの渋滞も経験しましたが、エンジンルームから熱気が漏れたりすることもなく室内の温度は全く問題無し。音の侵入も特に酷いことはなく普通に会話できます。以外にもコックピットの環境はノーマルマフラー装着時の僕のサンクターボと大差無しです。乗り心地も突き上げるほどの固さは無く適度な固さ。ただし、路面のギャップでバタンバタンと伝わるショックはサスアームがブッシュを介さないピロボールマウント故の独特のものでした。
今回のルートは高速道路ばかりだったのでエンジンの特性を伺える機会は余りなかったのですが、渋滞のノロノロ走行でもぐずることもなく十分なトルクがある様でこれなら一般道でのツーリングも全く問題無しですね。
で、一番興味深いのは果たしてストラダーレの全開でのポテンシャルは?なのですが流石にこればかりは未知の領域です。国内メディアの試乗記も新旧有りますがほとんどは体験試乗レベルのものです。そんな中、CGの1982年10月号ではまだ輸入直後のディーラー車を吉田匠さんがテストしており谷田部での計測も行っています。
しかし、そのDATAは衝撃的なものでした。0-400m 16.2秒。遅い・・・。
今から30年以上も前のことで、当時国内最速クラスだったスカイラインRSターボでも15.4秒だった時代ではありますがそれにしても・・・・。ちなみに同じくCGの1983年4月号でテストしたサンクターボ2の0-400mは15.3秒でした。
従ってインプレッションの方も安定したシャシーに素晴らしいブレーキ、そして完全にシャシーがパワーを上回っているという評価で、その素晴らしくレーシーな作りには興奮しつつも走りそのものは余り楽しそうではないというのが伝わってきました。
全くの素人発想ですが、ストラダーレのパワー不足の一番のネックはやはりその燃料供給装置にあるのではないでしょうか。このクルマ過給機付きでありながらなんとキャブレターなのです。しかも単なるダウンドラフトのシングルキャブです。
この時代、確かにまだ電子制御インジェクションはそれ程多くは無く、ターボ車で言えば、ポルシェターボ、アウディクワトロ、5ターボはKジェットロ(機械式インジェクション)を、そのまた前のBMW2002ターボは、クーゲルフィッシャーの通称メカポンを使用していました。その他では初期のエスプリターボはキャブレターだったと思いますが。
ちなみに037ラリーのエボはクーゲルフィッシャーを使用しています。(ただしデビュー直後の037ラリーはなんとキャブのままでラリーの実戦に参戦していました。あくまでも勝ちに行く前の試験的な参戦の段階の話ですが。)
なぜにキャブを選択したのか?やはりホモロゲに必要な200台の生産を急ぐ為、そしてできるだけ安く上げる為だったのではないでしょうか。
きっと燃料供給をインジェクションに変更し、過給圧を現状の0.6kから1.0kくらいに上げてやればエンジンパワーは目覚ましく上がるのでしょうね。
しかしabrse037さんに聞くと、残念ながらストラダーレ用のライトチューン用のパーツというのはほとんど存在しないのだとか。あちらのマジでやる気の方は、一気にエボ仕様を作っちゃうのでしょう。(一体いくら掛かるのか想像もできませんが)
確かに昨今ますます価値の上昇している僅か200台に満たない貴重なクルマですからサンクターボのようにガンガン走るクルマでなくノーマル状態を維持することに価値を置くべきクルマなのだと思います。そんな中、自分好みのモディファイを続けるabrse037さんは素晴らしいです。もうこの際リヤバンパーも外しちゃいましょう!!(笑)
最後にランチアラリーストラダーレの真の姿をとても分かり易く書いてくれているフリーライターの半谷範一氏の体験記をご紹介します。
以下抜粋
・・・実際にラリーのステアリングを握るチャンスがやってきたのは、その数年後の話だった。場所は箱根。相手は殆ど未走行に近い状態の車というのは最高の組み合わせだった。当時の私にとってラリーはアイディアルカーの筆頭であり、まさに気分は最高だった。
しかし・・・実際に走らせてみた印象は、私がそれまで長い間夢に描いていたものとはまるっきり異なるものだった。正直に書いてしまえば、全然面白いクルマだとは思えなかったのだ。
ハンドリングには鋭さというものがなく、車両重量に対して決定的にパワーが不足しており、エンジンフィールにもこれといった面白さを感じることができなかった。ストラトスのような敏捷さには到底及ばない。結論はすぐに出た。
「ストラトスの方が100倍面白い。」
中略・・・
ときはそのさらに数年後、場所は同じ箱根。相手はノーマルで程度の良いラリーだった。しかし、その時の印象もあり、もはや全く期待などしていなかった。撮影でちょっと運転しても、その感覚は変わらず、単に面白くないクルマだと再確認しただけだった。もしそのままだったら、恐らく私は一生ラリーの魅力に気付くことはなかっただろう。
劇的な変化は、キャリアカーの待つ集合場所へと急ぐ帰路で起こった。先行する手錬の先輩が駆る911に遅れまいとするうちに、知らず知らずのうちにペースは上がり、「ふっ」とその領域に入った。するとどうだろう、それまでのことがまるで嘘のように、素晴らしい挙動を示すようになったではないか。2速でフルパワーを掛けるような状況ではわずかにテールが流れるのが分かるが、決してとっちらかるような状況にはならない。そのままパワーを掛けながら、ゆっくりステアリングを戻してゆけば、コーナーの出口ではステアリングの舵角が見事に中立の位置になる。
完璧だ。
私がラリーの魅力に気付くことができなかったのは、そのシャシーのポテンシャルが高過ぎて、私の稚拙な運転技術では楽しめる領域にまで踏み込めなかったことが原因だったわけだ。私はただただそれが見抜けなかった自分を恥じるしかなかった。ストラトスの魅力は誰にでも分かるだろう。しかしラリーは違う。ゆっくりと走っている限り、ラリーの魅力は決して分からない。
名文ですね。
037の エボ仕様が素晴らしいのはWRCでの素晴らしい活躍とともに皆が知っています。でもストラダーレは?
エボでチュリニ峠を全開で走らせることではなく、ストラダーレでTC2000やはたまたTC1000といった身近なコースを全開で走らせる(勿論往復も自走ですよ)ことを妄想してしまうちょびっとだけ謙虚な自分です。(笑)
ところで現在、エンジンOH後の燃調の為、再度入庫中の僕のサンクターボですが、やはり高回転域でA/F値が濃くならない・・・。やはりフューエルディストリィビューターが怪しい模様。難航するかも・・・
エンジンのパワー感的には特に問題なく以前通り絶好調なんですけどね。でもこれまでもそんな状態でエンジン壊してきたので・・・。今回ばかりは慎重に行かざるを得ないです。11月のヒルクライムの出場はピンチです。このまま不発のまま今年が終わってしまうのか??