時間は私を押し流す川であるが、川は私だ。
時間は私を引き裂く虎であるが、虎は私だ。
時間は私を焼き尽くす火であるが、火は私だ。
不幸にも世界は現実であり
不幸にも、
私はボルヘスである。
J. L. ボルヘス 「新時間否認論」
ネオクラッシックカーの祭典に、昨年に引き続き顔を出してきました。ヒャッホウ。
お誘いくださった
XGさん。
準備万端、動線まで修羅道を歩いて確認する修羅の幹事
sakosさん
快く受け入れてくださった
Astina 1800DOHC さん
興味の尽きないお話をしてくださったN さん
本当にありがとうございますm(__)m
私は車好き歴2年。それ以前はTOYOTAとMazdaのエンブレムの見分けもつきませんでした。そんな私にとって80〜90年代の車たちはそれぞれ一つの点であり、先代や後代、同時期にどんな車たちがいたかという線や面のイメージがありません。
そういうのがわかってきたらもっと楽しめそう。
へへ
今回お会いした方々はAstina/ユーノス100 フリークの方々。この週末の愉しみはXGさんや皆さんのお話や振る舞いに触れることでした。
Mazda ユーノス100
販売期間 1989年-1994年
乗車定員 5名
ボディタイプ 5ドア ハッチバッククーペ
エンジン
B5-DE型 1.498L 直列4気筒
BP-ZE型 1.839L 直列4気筒
駆動方式 FF
最高出力
81kW(110PS)/6,500rpm
99kW(135PS)/7,000rpm
最大トルク
126Nm(12.9kgm)/5,500rpm
156Nm(16.0kgm)/4,500rpm
変速機
4AT/5MT
サスペンション 前後:ストラット
全長
4,260mm
全幅
1,675mm
全高
1,335mm
ホイールベース
2,500mm
車両重量
1,010kg-1,060kg
トレッド
前:1,430mm
後:1,435mm
姉妹車
マツダ・ファミリアアスティナ
sakos さんはバイクも嗜まれるヘンt...ゲフンゲフン(咳)、趣味人で、なんと初めて購入した車であるAstinaにずっと乗り続けておいでです。
....なんじゃそら。
いやいや、だってスープラとかセリカとかシルビアとかインプとかエボとかロードスターとか沢山あるじゃないの。
私が思う出会ったが最期、離れられない車ってNSXとかセブンとか....なんというか、強烈に代えのきかない個性を持った車です。
でもAstinaは?
Astina 1800DOHC(以下、DOHC)さんはかつて所有して以来忘れられず、事あるごとに思い出して焦がれていたAstinaをついに購入されたとのこと。
....なんでよ?
Astinaについて語り出したら止まらない様子は本当に印象的で、こんなに無邪気に愛車への思いを語れる人柄にこちらまで嬉しくなってしまいます。
Nさんはジムカーナなどもなさるスポーツマン。とても親切で行動力のある方で、もっとお話をお聞きして色々教えて頂きたかった。「モアパワー」と思いそうなのにAstinaとユーノス100を両方お持ちです。
XGさんはNさんにお譲りになったユーノス100に会いに一年に一度九州を訪れる。私の先生。
あのエンジンの化身に乗っておいでなのに。
...わからん。
そんなわけで、私なぞとは比ぶべくもない経験値をお持ちの方々が分かち難く思うこの車の魅力を知りたかった週末なのです。
ヘンt.....sako さんは論理的に理由を挙げてくださいました。
「ちょうど良いサイズなんだよ」
たしかに5ナンバーで取り回しが良い
「それでいて5ドア」
後ろに人を乗せる機会の多い方には重要よな。あとリアの座り心地と着座姿勢良いな、コレ!
「そしてリトラ。顔もお尻もスーパーカー世代のツボ」
確かに見れば見るほど無駄なラインがなくて、きちんと全てのラインが調和してる。
「過不足なくきちんと走るしね」
1800cc NA。油圧ステ。1000kgちょい。MT。うんうん。
「それらを全て備えている一台の車ってそうはないと思わない?」
DOHCさんは燃える瞳で止め処なく語ります。
「当時どうしてもこの車が欲しくてAstinaとユーノスと迷ったんだけど出力が少しAstinaのほうが高くて僕はその10psに賭けたんだ!そりゃスポーツカーとは違うけどしっかり底力はあってこのあいだ時間旅行号と走っていた時なんかこうやって踏み込んだらすごく力強く加速してねそれから足だって.....」
XGさんはNさんの手に渡ったユーノス100のシートに座って
「去年まではホッとしたんだよ、ここに座るとね」
抒情的な思い入れ。
....大型のネコ科動物を思わせるMEG3RSの佇まいと挙動が私は好きです。Renault sport のスタッフが「細けえこたぁいいんだよ」と言いながら真剣に悪ふざけしたような成り立ちも。
DASS
TBサスのリアセッティング
80年代祖型のフォンテエンジン
頑丈で邪魔なAピラー
アホみたいな後方視界
FWDなことすら萌えポイント
瑕疵も含めて愛することができる。
それを受け入れてくれるのは抒情的な側面を持つ車なのだと思います。
必ずしもそれぞれの時期にあって突出した性能や相対価値を備えている必要はないのでしょう。
ユーノス100は国内では1000台ほどしか売れなかったのだといいます。きっとそれも、この車に惹かれる人たちにとっては意味のあることでしょうが、重要なのはその先にあるものです。
「青年は完全なるものを愛さない。なぜなら、彼らの為すべき余地があまりにもわずかしか残っていないので、彼を怒らせるか退屈させるからである。」
ポール・ヴァレリー
そんなふうに魅入られてしまったのかもしれません。
魅入られた思いを受け止めてくれるだけの背景が、Astinaにはきちんと備わっているんですね、きっと。
ものの愛し方は様々です。
時を経て変わらぬものはありません。絶えず変化し続ける自己にとって、その曖昧で緊張を強いる時間の順列と連なりに疲れを覚える時、私は例えば地図のようなものを、羅針盤のようなものを夢想することがあります。
一目見れば自分がどこにいて、どこに向かっているのかを知り、安心させてくれるようなものがあったら素晴らしいと思いませんか?
愚かで傲慢な私は、そうした特別なものを、特別な自分はきっと手にできるはずだと信じて、ずいぶん長く世界中をふらついたりしました。
それは問いを問いのまま抱える老成した苛烈さと、それでも答えを真剣に望み続ける愚かしくも純粋な若さ。双方を持ち続ける精神がいかに価値あるものかを知る過程だったとも言えるかもしれません。そして世界中で生を営む人たちが如何に自然に、私の青臭い思考を実際に生きているかを知る機会でもありました。
同じ川に二度足を浸すことはない、そう言って時の順列を生み出したエペソスの哲学者がひやりとした水の感触を確かめるように、巡る人工衛星を見上げて円環と変化に思いを馳せるように、魅入られたAstinaは憧憬と時間の不可逆性を告げるシンボルなのでしょう。
Astinaとの繋がりは、この週末にお会いした方々だけの黄金で、「どうしてAstinaなの?」の答えを実感する資格は私にはないのです。
ええ車なんやな〜
そんな繋がりを生み出せる特別な車をつぶさに見せてくださり、特別な黄金を私にも垣間見せてくださったsakos さん、DOHCさん、Nさん、XGさん。本当にありがとうございました。
お話は全てとてもとても楽しかったです。
またご一緒させて頂けたら嬉しく思います!