ビロードのクッションに座っているよりも、気兼ねせずかぼちゃの上に座っているほうがよい
「ウォールデン; あるいは森の生活」 ヘンリー・ソロー
梅雨の中休み
その名からワダツミの持ち山とゆっても過言ではない、我が「雨乞岳」。
初級から上級まで、山全体が格好の練習場です。
ちょいと晴れたっつったって、路面は濡れてるし七輪は休暇。
ナンパなトライアラー、「雨男なるべしとぞ云ふ」こと、雨乞岳の主たるワダツミ。
フロントアップやスイッチバックターン(立ったまま後ろにバックしてターン)とかを一人で練習しておりました。
咳をしても一人。ずっこけても一人。
なんとも楽しいお遊びを終え、さて帰るか。というタイミングで、万夫不当のドロドロ・エンデュリスタの先達と遭遇したのが運の尽き。
「一人練習とは関心じゃあないか、アメオトコくぅぅぅん!コキキキキ(笑い声」
「ア、ドウモ、お疲れ様です。それじゃあ、ボク塾があるんでこれで失礼します...」
「ようし、それじゃあオレが熱心なキミに『明日のためのバイクテクニック練習スポッツ』を案内してあげようね」
「....複数形なんスネ。いろいろ突貫するんスネ(諦念。でもこのマシーナリィ、キックしかないからエンストとか繰り返すのはしんどいんですよ...」
「なぁに、大丈夫だよダイジョーヴ。初心者でもやりやすい、本当に簡単なポイントを幾つかご紹介するだけだから。だからダイジョウヴなんだよ、ひひひひひ」
「うわあ、そうなんですね♪ 良かった。またゴリゴリの鬼畜スポッツを引き摺り回される訳じゃないんだ! 爽やかな山中を小鳥さんの声とか聞きながらのんびり流す優しい世界なんだ」
「そんじゃあ、まずはこのイバラの生い茂った傾斜30°はありそうなドロドロの斜面を登って向かおうね」
「もう嘘じゃねーか!!エンジンかけたら2秒で嘘じゃねーか!嘘なのは知ってたけど、もうちょっと引っ張りなさいよ!」
「方々木の根とか出てるし途中で止まったら一番下からリスタートだから、躊躇うことなくフルスロットルで上まで登り切るんだよ? せいぜい200mくらいだからヘイキヘイキ☆」
「何故だ....何故ワダツミの周りの大人はロクに話聞かねーで強引に展開を進めていくんだ....」
なんとか登り切って、丸太を超えたりガレ場を渡ったりして辿り着いたのは新規スポット。
「ほぅら、ご覧。窪地の手前、いい感じに地面が隆起して丸太が坂道に横たわっているだろう?」
「やめろ。それ以上言うな....」
「向こう側にジャンプできるねぇ(ニタァ」
「着地先、おもくそガレバの登りじゃないですか、てか雨で完全に川じゃないですか」
「ウンウン、いい練習になるよねぇ」
というわけで丁寧にアクセルのタイミングや入る角度など教わっていざ征かむ。
写真撮ってくれば良かったのですが、そんな余裕ありません。
登りだってことで、1速を選択したのが運の尽き。ジャンプ台をフロントが超えた直後にアクセル緩めたら、思いのほかエンブレが強くて、窪地は越えたものの着地がフロントからになってしまいました。
山中に響き渡る謎のコキーン!という金属音。
そしてなんかフロントにガタが出ます。
その後もいいだけ引き摺り回されて疲労コンパイルしましたが、それにしても明らかにハンドルバーが前後にガタつく。
てなわけで下山してシャワーを浴びたらすぐさま単車屋さんへGO。
ステアリングステムがブチ折れてました。
もともとTLMのフロントフォークをつけてディスクブレーキ化している我がTLR。
換装の時にステムをぶった切って溶接してあったのだそうです。
2箇所の溶接で、一箇所は破断。もう一方もクラックが。
不良先達様も手伝ってくださり、ステム折れの修理がものの30分で終わり。
なんというか、凄えな....
「俺は頼まれて溶接しただけだけど、これはイカンネ。もっとちゃんと強度出しといたから」
工賃は受け取ってくださいませんでした。
このお店にいる方々を見ていて思うのですが、こうやって失敗や問題を抱えた手作りの部品を使って無茶な遊びをするのって、ある意味では乗りもの遊びの本質なのかもしれません。
勿論、高い精度と安全性を担保されている上質な製品たちは素晴らしい物ですし、いいものをきちんと使うってとても大切です。
だけど
「モンキーに150cc積んだらクリアランス足んなくて、ブレーキングでエンジンとフロントタイヤが干渉してフルロックで前転して大怪我した」
だのといった笑い事じゃない笑い話を幾らでも楽しそうに話す方々を見ていると、別に試験や競争をしているわけではない、肩肘張らない自由で活き活きとした「遊びの達人」たちを見るようで、とても大切なことを教えられている心地がしました。
社長さんの人柄もあるのでしょう。好奇心の塊のような、本当に気さくで素敵な方です。
性能や精度、安全性を軽んじるつもりは無論ありませんが、溶接されたステムを眺めて「どうせ、そのうちまた折れるんだろな...」と思うとなんだか噴き出してしまいますし、どこかで「折れたら社長に文句言ってやろ」と、それを心待ちにしている自分もいたりします。
バイクたちともケータハムとも、こんなふうに付き合えていけたら、私にとっての満ち足りたカーライフなんだと思った出来事でございました。