続き (ずーっとアップするのを忘れてました。)
さて機体に乗り込みます。
シーラスSR22シリーズは機体左右に大きめのドアがあるので、リアシートを含め乗り降りは比較的容易です。
機種によってはドアが小さかったりドアが一つしかなかったりして、乗り込む時点で苦労するものもあります。たとえばパイパーPA28という機種は4人乗りなのにドアが右側に1つしかないので、乗り込む順番が重要になります。
このSR22のような低翼式の機体は乗り降りの際に主翼上面の一部をステップとして使用するので、指定外のところを踏んづけないように注意する必要があります。

指定外のところを踏むとそこがへこんだり割れたりする可能性があります。まあ自動車でもボンネットやルーフを人間が踏んだら凹んでしまうのは同じですが、飛行機の場合は主翼などの外板が変形すると直接性能に大きな影響を与える(例:空気抵抗が増えて速度が落ちる、揚力が減り失速=墜落しやすくなる)ので本当に気をつけねばなりません。
さて全員が着席したらチェックリストに従いエンジン始動を完了させ、グランドコントロールに対して滑走路への移動許可をリクエストします。
移動許可が出たら滑走路へのタクシーを開始しますが、自分にとって八尾空港は初めてなので誘導路のレイアウトなどがさっぱりわかりません。本日は同乗するだけの立場なので気楽なもんですが、どの空港も誘導路は想像以上にややこしいので、もし自分が操縦するのであれば事前準備およびタクシー中の誘導路確認をしっかり行わねばならず気が抜けないはずです。
このSR22はタクシー(地上走行)用のステアリング機構がありません。

前輪は手押し車の自在キャスターと同じ構造で、向きに関してはフリーです。
ステアリングの代わりに左右主輪のブレーキをつかって向きを向きをコントロールします。右に曲がりたいときは右主輪のブレーキを、左に曲がりたいときは左主輪のブレーキを強く利かせます。えらく原始的ですが小型機にはよくあるコントロール方法です。
ただ左右ブレーキはそれぞれ左右の足で別々操作するので、それぞれ適切な踏力でコントロールするためにはかなりの練習が必要です。初めのうちは直進すらままならないので、訓練を開始してからの数時間は滑走路へ到達する前にヘトヘト&自己嫌悪に陥ります。笑
SR22はエンジンが強力であることに加えプロペラが高効率なので、アイドル回転である1000回転のままタクシーします。セスナ172などはエンジン回転を上げないと走り出さないのですが、同じことをSR22でやると速度が上がりすぎて危ないので慣れるまでは注意が必要だそうです。
本日離陸に使用するRWY27の入り口に到着したら離陸前のチェックリストを実施し、タワーから離陸許可がでたら復唱し離陸開始です。
さすが300馬力のエンジン&低抵抗の機体らしく、4名搭乗+エアコン使用という負荷が大きめの条件下であってもすぐに速度がのって浮き上がり、力強く上昇していきます。
八尾空港から北西へ向けて上昇を続けるとすぐにUSJの上空になります。
USJから姫路付近までは兵庫県の南部海岸沿いに進みます。
姫路城上空です。

この日は薄曇りで日差しが無かったことに加え、薄もやがかかっていたので、空から地上の景色を楽しむという面ではちょっと残念な状況でした。
飛行中のATC(航空無線)ですが、昼間の有視界飛行(VFR)用周波数では日本語OKだそうです。ATCは英語、という先入観があったのでちょっとびっくりしました。
ただVFRであっても夜間は計器式飛行(IFR)と同じ周波数を割り当てられる、つまり旅客機などと同じ周波数で交信することが求められるので、英語でのATCが必須になるそうです。(日本語で会話してしまうと海外のパイロットが状況を把握できず何かあった時の対応に問題が発生してしまう。それを避けるためにATCはみんな英語でやり取りすることになっている)
この日はVFRで飛ぶ機体が少なかったのか、のどかなATCでした。
コールサインが「機体番号全部をそのまま読む」も私には新鮮でした。
VFRで飛ぶ機体が多い米国では、飛行中のパイロットがお互いを目視で確認しなければならないケースが多いこともあって一般に「機種名+機体番号(頭のNを除く)」を用います。
今回乗せてもらった機体の機体番号は「JA011T」なので、国内では「ジュリエット アルファ ゼロ ワン ワン タンゴ」となりますが、もし仮に米国で飛ぶとすれば「シーラス ワン ワン タンゴ」となるでしょう。(初回の通信だけJA0を入れますが、二回目からは省略。)
姫路を過ぎたら進路を南西に変え、瀬戸内海上空を進行します。水平飛行ですが、ハイパワーエンジンと優れた空力性能の効果なのでしょう、140ノットも出ています。自分が米国で訓練に使っていた機体だと100ノット越えは無理だったので異次元です。
初めて訪問する空港を目視で見つけるのは結構難しいです。特にこの日は視程がよくなかったこともあり、自分はかなり近づくまで高松空港を見つけられなかったです。もちろん本日の機長ははるか手前から空港を認識していました。この辺りがプロと素人の差なんですね。
さて管制からはRWY26へBASEエントリーするよう指示されたので、空港の少し東側に狙いを定め徐々に高度を下げていきます。
風は穏やかでほとんど揺れることもなくBASEを経てRWY26のFINALへ進入します。地方空港とは言え、定期便が就航している空港の滑走路はSR22のような小型機にとってはとてもとても広くて長いです。

心持ち高めのアプローチです。
タッチダウン後に十分減速しても滑走路は半分以上残っていますから、途中の誘導路で滑走路を外れます。
管制の指示でエプロン西端にあるGA機用のランプに向かいます。予想してはいましたが他にGA機はいませんでした。
ターミナルには定期便と思われるJALの737がいました。
ターミナル内で小1時間ほどお茶をしてから事務所で空港使用料を支払い、八尾へ戻ります。
高松からの離陸タイミングではちょうど定期便が近づいていたために、少々あわただしい離陸になってしまいました。着陸を待っていると5分程度は出発が遅れてしまう(こちらの費用がかさんでしまう)ので管制官の方が気を利かせてくれたのでしょう。
八尾空港への帰りですが、行きとは違う淡路島の南を通るルートとなりました。
この復路は前右席(コパイ席)に座らせてもらえたので、機体やルートなどについて機長からいろいろ教えてもらうことができました。
このSR22は、セスナ172など昔設計された機体と違って”オートパイロットで飛ばすことが基本”になっているそうです。セスナ172でもオートパイロットが追加装備されている機体は多いですがあくまで手動で飛ばすことが基本。
そのため、SR22は手動(と言っても電動だけど)でドンピシャにトリムをとるのが結構難しい機体になっているそうです。確かにちょっとトリムスイッチに触っただけで機体の姿勢が明確に変化するのが同乗していてもわかります。
つまりSR22では、
パイロットは操縦桿を操作して飛行機を飛ばす。
のではなく、
パイロットは希望高度と希望方位をオートパイロットに入力する。オートパイロットは入力に従い飛行機の向きや高度を調整する(=オートパイロットが飛行機を飛ばす)。
を基本に作られた飛行機といえそうです。
今の旅客機もこれと同じコンセプト「オートパイロットで飛ぶ」で設計されていますし、パイロットへの負担低減(=安全性向上)という意味では正しい流れなので、正常進化した機体といえるのでしょうね。
ただ普段からオートパイロットに飛行機のコントロールを任せっきりにしてしまうと、パイロットとしての操縦技量は確実に低下するでしょうし、そもそも飛行機を趣味と位置付けた場合「飛ばすことを飛行機に任せるのはどうなの?」と個人的には疑問に感じてしまいます。
まあいろいろな考えがあって当然なんですが。
というわけで、今回は小型飛行機による約3時間の飛行でいろいろ貴重な経験ができて面白かったです。
また機会があれば。