堅雪かんこのブログ一覧

今、みんカラの清水和夫氏のブログに掲載されているGT-R開発責任者水野和敏氏との対談はなかなか面白い。語られている内容は、日本車と欧州車の素性の違いからくる性能差である。

　思えば、学生時代は初めて自分のクルマとなったトヨペット・コロナ1800GLにわけもわからず乗っていた。夏休みなどに同郷の友人らを乗せて帰省する際、高速道路を走ると、車線変更のたびにクルマは大きくロールし同乗者を怖がらせた。普通の道を普通に乗って走る分にはいいクルマだった。

　そのコロナに５年乗って次に乗ったのがスカイライン2000GTターボ。当時はターボと言えばポルシェだったから、日本車としては画期的だった。コロナと比べて足も引き締まり、高速道路での安定性は一枚も二枚も上手であった。スピードもきちんとリミッターにあたるまで加速していった。スカイラインはBMWをお手本にしているという話を聞いて、その先にBMWの走りを想像してみたりした。

　BMWに初めて乗ったのは、それから二三年後で先輩のクルマに試乗させてもらった。当時の320と528であったが、そのすべてのフィールが別次元なことに驚いた。（価格も驚きだったが）

　前述の二人の対談の中に「感覚限界」というのがある。引用してみると

水野：人間は自分の「感覚限界」を超えたら絶対に元の安定した状態に戻ろうとします。清水さんがおっしゃる防衛本能かもしれません。ですから「感覚限界」を超えたクルマを作っておけば事故は減ります。

　ちょっとこの話の内容はわかりにくいが「感覚限界」という言葉はあるかも知れない。長靴とスニーカーでは、歩行スピードが違ってくるし、それを履いている人も路面感覚のとらえ方が異なるだろう。
　まさしく、欧州車は長距離を延々と高速で走ったり、狭い山間のワインディングをエンジンをぶんぶん回しながら走ってもいいように作られている。すなわち「感覚限界」が相当高いのである。国産車から輸入車に替えて気付くのは、その世界の広さだ。

　日本車が長らく腑抜けだったのは、タウンスピードで短い距離をゴーストップの繰り返しで乗るという使われ方に標準を合わせたからだ。これはこれで立派な戦略だしコストも考えれば、あまり使わない機能に余分な投資は無駄である。「感覚限界」は低めなのである。だから走る喜びはない。

　ただ「感覚限界」の高いクルマを作れば事故は減るというのは、人間性への過信がありはしないか？水野氏の主張は性能に余裕があるクルマであれば事故率は少なくなるはずだということだが、ではGT-Rの保険料は統計を用いて下々のクルマより安くできるのだろうか？　長靴を履いて走る人はあまりいないが、スニーカーだったら容易に走れて、出会いがしらにゴツンしたときの衝撃は大きい。

　ポルシェはこの「感覚限界」が著しく高い。最近では珍しくなくなったが、スピードメーターの100km/h表示の位置が、普通のクルマなら30km/h表示に当たる左付近に書かれている。メーターの残り四分の三がイリーガルな世界で上限に300km/hを超える数字が刻まれている。私はここに「感覚限界」の“自由”を見る。

　こういうクルマは普通に乗っても余韻は感じられるが、速く走らせた時の挙動のすばらしさはクルマから「目覚めよ！！」と言われているようだ。そうやって目覚めた人達はサーキットに通い始める。しかし、これも矛盾を感じないわけではない。
　というのは、サーキットではまたよりグレードの高い「感覚限界」の世界がある。前の日記に書いたが、アラン・プロストが「GT3RSはいいことはいいんだがレーシングカーと呼ぶには・・・」と口ごもったのはそういうことだったのである。
　頂上だと思って山に登ったが、本当の頂上はまだ先にあったという「青い鳥」にも似た話である。

　もっとも「感覚限界」より先に「金銭限界」があるから、たいがいの人はほどほどで留まるのだけど。