2014.年9月12日(金)
最終日の朝、空は雲一つなく風は冷たい・・・秋はもうすぐやって来る。
13時過ぎに電力会社のブレーカー等の撤去に立ち会った後、シャッターを閉める。
降り出した雨は、今もそのまま降り続いている・・・
おばちゃんを見舞い、店舗のカギを返す。
長い間ご苦労様、そうそう!おばちゃん、昨日の夕方な・・・・・・・・
11日木曜日・・・殺風景の店内で一人片付けをする・・・
殆どの物が無くなったというのに店内は小さく感じる。
8月31日で閉店・・・模型屋の閉店は区切り良く終わるハズだった。
ラスト1週間、地元の夏祭りと共にこの週が始まり、自分としてもお客さんが沢山買ってくれないかな・・・と思いながら手伝うつもりだった。
しかし・・・祭り初日の金曜日から土、日・・とシャッターは閉じたまま、何度見に行っても開く事は無かった。
残り1週間・・・おばちゃんは自宅で怪我をして入院・・・退院の見込みなく、31日を迎えた。
店はそのまま終わってしまった。
見舞いに訪れたベッドでは、30度までの起き上がりしか許されない体のおばちゃんの姿があった。
「よりによって・・・ほんとあと1週間だったのにね。でもまあ、運命なのか仕方ないね・・」
ホントにそうさ、なんでまたこんな時に・・・しかも、旦那のおっちゃんも入院中じゃないか。
息子は居ないおばちゃんだから、身内は姉・・・姉も高齢だ。
何も出来ないまま更に一週間が経った・・・そして、9月6日に事態は大きく動いた。
13日朝から当初の予定通り、店の解体作業を始めると工事業者が来たというのだった。
自分がこの状態だから・・・ではなく、契約通りの進め方で、今止めるなら契約不履行という。
待った無し・・・・時間は・・・ない。
「悪いんだけど、アナタ何とか出来ないかな?、リサイクル屋でもなんでもいいから店の物持っていってもらってさ、展示ケースとかは欲しがってる人に連絡っ取って引き取ってもらって。」
仕方ない・・・乗りかかった船だ、水曜から3日間有給を取って、何とかするか。
しかし、店一軒が3日で何とかなるのか?
この3日間のスタートはこんな感じで始まった。
とにかく水曜から開けるから、何とか都合を付けて来てほしいと各方面に連絡し、残った約300以上のプラモデル・ラジコン品の最終引き取り先を探した。
幸いにも、買い取り先候補が来たが、肝心のおばちゃんの返事が渋かった。
病院の一室、大人の事情の話し合いの傍らで展示ケースの搬送の連絡をし、行き先が決まった店内の物の運び出しは水曜の真夜中に行った。
そして、木曜の夕方に処理出来る物の運び出しが終わった・・・寄付出来た物もあった。
何とかなった・・・かなり強引だった・・・乗りかかった船は、大波に揺られて行き先を見失う寸前だった。
自分の人生の中で、店舗の最後を締めるという事は初めてだった・・・まるで人生の縮図のようだった。
初日にカギを預かって開けた店内では1/3以上のモノが忽然と消えていたり、その行き先から回収して店舗に搬入したり・・・まるでこの店の歩んで来た歴史そのものがこの3日間に凝縮しているようにも感じた。
さよなら夏の日・・・
思えば、約30年の歴史のほぼ半分は営業していなかった。
おばちゃん自身の数度の手術、おっちゃんの度重なる入院、開けたら閉めるの繰り返し・・・
だけど、このひと月に訪れた方々の殆どは
「昔、よくココに来てたんだよね・・・」・・・そういう言葉をかなり聞いた。
開いていた年数よりも、皆の心に残っている店・・・ここはそういう場所だったのかもしれない。
この3日、片付けをしていると通学路を通る小学生達が店内を覗く・・・
「なんで止めちゃうんですか?」
「開いてる時は完成したプラモデル見てました」
「ああ、ここで買いたかったなあ・・・」
そうか、そうか・・・今の子供はゲームだけか?
いや、この反応は違うんじゃないか??
65歳の父が、「おい、ライトプレーン有るなら作りたいんだが・・・」と、作り始めた。
完成した午後、テスト飛行で近所の4歳児R君が飛ぶ飛行機を見て走って来たそうだ。
自分も飛ばしたい、欲しい!!と。
もう一機有る未組立を「お父さんに作ってもらいな」・・・と、父は手渡したそうだ。
「やっぱり楽しいわ・・・・」
酔っぱらいながら主翼の調整をする父の眼差しは、あの夏の日の少年そのものなのだろう・・・
あの頃のボクらは、カッターで手を切ったり、手を塗料だらけにしたり、作っては直ぐに壊してみたり・・・あれから何十年と過ぎ、作る時間が・・手間が・・と、なっていくのだろうけど、この模型飛行機が飛んだ瞬間や、模型屋を訪れた時の懐かしさ、久々に作った楽しさは大人という経験と知識とは裏腹に子供を理解させる事が出来ない理屈の言い訳をする事を覚えた・・・いや、無意識に心に蓋をしてしまった事を忘れ去る魅力が模型には有るのではないか?
もっと単純で良いのではないか?
この夏、まるで夏休みのような濃さを経験した。
お店は残念だったけど、最後は何とか締める事が出来た。
荒れて殺風景になった店内で一人、夕暮れの中片付けをする・・・
自転車のリアブレーキのロック音、聞き覚えの有る声・・・この店の一番若い常連客2人。
来てくれたか・・・。
最後の〆が君達で、おっちゃんは嬉しいよ。
そうだ、残っているのは好きなだけ持って行って良いぞ・・・もう誰も買わないから。
今日、これが最後だ、明日は電気を止める時にだけ来て、シャッターは開けないから。
袋か?そこに沢山あるよ・・・
それも良いぞ!・・・良いんだけど、何に使うかおっちゃんも分からないんだけどな・・。
門限を超えて、携帯が鳴るのは無視。
そうだ、お母さんには悪い事だけど・・・袋に入るだけイッパイ持って行ってくれ。
おっちゃんはこの夏、キミ達に会えてホント良かったよ。
あの眼差し、あのしぐさ・・・おっちゃんのあの頃と同じだからさ。
「このお店は絶対に忘れません!」
そうか・・・おっちゃんはそれだけで十分だ。
その言葉が最高の賛辞だよ。
これから幾度となくやって来る夏の日・・・昨日、初めて模型飛行機を見たR君やこの夏この店に入り浸った君達が、この夏の出来事が何かのキッカケというか心に残っているならそれで良いんだ。
そしてごめんな・・・大人の事情という妙な理屈でキミ達の心をさみしくさせてしまった事を・・・。
これが今年の夏の最後のストーリーです。
最後に、このお店に来られた方々、愛して下さった方々に店主に変わりお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
この夏、自分は今までで最も濃い夏を過ごしました。
出会った人々、子供の純粋な心、大人という名の理屈の押しつけ、年令の壁、お金・・・本当に色々な事が有りました。
どれほどの価値がある物でも、地位や名誉が有る方でも、必ず終わりは来ます。
ただ、この小さい模型屋のドラマの千秋楽に居た事は幸せに思います。
買われて行った模型やラジコン等は、多分に生かせるであろう場所に行きます。
そのご報告が出来る事を願って止みません。
その名の通り、太陽が輝くような光がこのお店に来た方々の心に差し込んだのであれば、この店は開店していた年数以上に思い出に残ると思います。
皆さん、上手いとか下手とかは関係ありません。
模型作ってみましょうよ!