THE TALLのブログ一覧

　深刻な文調で書き始めたのが悪かったのか，みん友さんには随分とご心配をかけている“引導を渡す”シリーズ。家族も本人も，特にがんばってる！ということでもなく，事実は事実でしかないと日々を送っているのでご心配なく(笑)。

　人の生き方が人それぞれであるように，人の死に方も人それぞれ。見送り方もまた，人それぞれである。

　ある家族の話として，拾えるところがあれば拾っていただければ，父にとっても幸いだろう。

　さて，目覚めるとテーブルの上に紙の束。色んな指示が書き留めてある。

　小生と御台所への感謝の言葉に続き…
・死亡通知の提出先
・連絡先
・預金口座
・喪主
・導師とお布施
・葬儀に関して宿泊させる者のリスト
・相続

　まぁ，浄土真宗門徒であるから「天国って言うな。お浄土と言え」という注文をつけるのは理解できるとして…(-_-;)
　坊さんへのお布施の額まで指定する？(笑)　

　　さすが，友人から「石橋を叩いて壊し，かえって渡れなくなる」と評されただけのことはある。父の実直さにはあきれるというかなんというか…。まぁ，これは本人の思いだからよしとしよう。

　

　極めつけはこれ！

　なんと，小生が務めるであろう喪主の挨拶原稿が書いてある。

　そこぐらいは，好きにしゃべらせろや(笑)！

　いつまでたっても息子は頼りない存在なんですな。

　

　末期癌の告知から（こっち参照）自宅療養を選択して退院後，一番最初に連れて行けといい出したのが葬儀屋（こっち参照）だった(笑)。

　他にも行きたかったらしいが，体力的に叶わず葬儀屋だけでヘロヘロ。日を改めることに。30分ほど座っていると疲れるようだ。すでに車の運転も無理なようだ。

　癌で一人死ぬのならそんなもんだけど(笑)，下手な交通事故で他人様を巻き込んじゃぁ困る。小生がお供いたそう。
　
　そういうわけで，数日に分けて幾つかの銀行へ出向く。小生もコロナ騒動で休暇が取りやすい。つくづく予定調和だわ。

　数日後には，写真のような袋も渡された。
　この書類は使うものではない。さしあたっては，玄関先に置いてある父の車。バッテリーがあがると面倒だ。キーを預かろうとすると…
　「担当医は車の運転してもいいって言った。」
　と渋る。

　土地家屋の権利書渡しても，車のキーは渡さんのかい！(笑)

　
　小生も，最後の最後までCobas（こっち参照）のキーは渡さんな(笑)。



　　

　「家族葬は嫌じゃ。」
　あらま，思ったより俗なことをおっしゃる(笑)。でも今ポックリ逝ったら，コロナ感染を防ぐために家族葬なのよ(笑)。


　信長が加賀一向一揆を制圧するまでの90年間，“百姓の持ちたる国“として門徒が統治したほど，当地には浄土真宗が民衆に深く根付いている。
　小生の祖母や曾祖母も信心深く，その辺の坊主よりずっと悟った人だったらしい。
　
　この祖母や曾祖母の臨終について書いた父の文章が書籍化されている。五木寛之が寄稿を募り監修したものに収録されたのである。



　祖母や曾祖母の臨終の様子もあって，父に末期癌を告知した。本人の選択は，たとえ効果が低くても入院より自宅療養での抗癌剤投与だった。「やりたいことがある」というのだ。

　なかなか肝が据わってらっしゃる(笑)。

　自宅療養で，一番最初に行きたがった所は…

　一番は葬儀屋かいっ！

　あんたが参列するわけじゃなかろうが(笑)。

　

　そこで冒頭のセリフが出たのである(笑)。普段からなんやかんやと信心深いことを言ってはいたものの，祖母や曾祖母ほどの域には達してなかったらしい。

　いや，そういう俗な親父を見るのも，また愛おしいものである。

　もし，人生という蝋燭の長さを知ることができるのなら…
　知りたい？　知りたくない？

　末期膵臓癌で余命数カ月。これを父に告げるべきか否か…。
　人それぞれだろう。
　だが，さして長くないのが確実なら，小生は是非とも知りたいと思う。産まれ方は選べんが，死に方は選べる。知らぬ間の幕引きだけは御免だ。


　父もきっとそう思うに違いない。ただ，引導ぐらいは俺が直接渡してやりてぇ。
　そう思い，コロナ騒動で本来は面会が認められないところを頼み込み，一部屋貸していただいた。




　ひょっとしたら不治の病では無かろうか…薄っすらとは感じてはいたようだ。
　
　今年の秋は無いだろうことを伝えられた父，特に取り乱すこともなく冷静であった。
　あからさまに表情に出すことはしなかったにせよ，さすがに胸中は穏やかではなかったようだ。時折，眼が潤んだように見えたのが，かえって不憫である。
　
　「言ってくれてありがとう。」
　帰り際にそう言えた父。我が親ながら天晴れである。



　翌日，医師からの検査結果説明。洗いざらい伝えてくれと頼んであったので，小生が受けたのと同じ説明を聞く。
　一晩過ぎて多少は落ち着いたのか，今回は眼を赤らめることもなく冷静な父。ただ，65歳で胃がんになったが91歳の大往生を遂げた祖父の話を始めたところに，生への執着を垣間見る。やはり人間である。
　

　
　
　一人称の死がいずれ小生にも訪れることは必定。
　逢茶喫茶　逢飯喫飯
　己の短い蝋燭を無造作に呑めるだろうか。いや，そうありたいものだ。死に様は生き様そのものである。

　


　　

　４月28日夕刻，約束した時間に病院へ出向き，医師から話を聞いた。

　父は激しい嘔吐で入院したが，これは“幽門狭窄“だという。平たく言えば，胃の出口が狭くなって詰まったのだ。それで，食べた物が通らなくなり吐きもどしたというわけ。

　問題は胃の出口が狭まった理由。
　胃の裏側にある膵臓の腫瘍だ。これに押されて狭くなっているという。

　腫瘍は大きく，周囲の動脈や大腸へも浸潤し切除は不能。肺への転移の疑いも濃い。Ⅳ期，末期ガンだ。統計的に余命は３～４カ月とのこと。

　先ほど電話で聞いた内容と同じだが，今回は画像データーで説明を受ける。


　ふ～ん，なるほど。画像だと分かりやすいわ。素人にも理解しやすい話し方は，さすがプロ。
　意外に冷静な自分に驚きさえするが，先刻の電話で聞いた時よりは“自分ごと“に思えてきた。

「本人には，どこまで話しますか？」
　直観的だったけど，電話を受けた時に腹はもう決まってたわ。
　でもとりあえずは家族と相談して…そう返答して帰ってきた。