
まだガラケーの時代の話です。得意先でトラブルがあり、東京から出張して、大分県の営業担当者と同行することになりました。自分の父親に近い年齢のベテラン営業マンで、織田さん(仮名)という方でした。電話では頻繁に話しており、声はよく知っていました。
問題は、面識がないことでした。待ち合わせ場所は、割と人が多そうな公共施設のロビーになっていました。織田さんに、この不安を直截的に相談すると、電話口から豪快な笑い声が聞こえてきました。
「心配ねえよ。ロビー着いたら、周りを見渡してくれや。一人だけ異様に人相が悪い人間がいるはずよ。それが俺だからのう」
本当にこんな段取りで大丈夫なのか不安でしたが、指示されたとおり、待ち合わせ場所へ向かいました。
ロビーの扉が開いた瞬間、織田さんの言葉を思い出してしまい、笑いを堪えるのに必死でした。ちょい悪どころか、どう見ても、本物本職の、しかも最上級幹部にしか見えない初老の男性が視界に飛び込んできたのです。
当時の形容でいえば、日産シーマが似合いそうなオーラがありました。現代風に表現すれば、北野武監督の映画に出演できるような、強烈なこわもての方でした。そして、俳優になれるくらいダンディな風貌でした。
いきなり、その方のもとへ飛び込むのも失礼にあたるかと思い、その方と何度か目を合わせてから、キョロキョロ、ウロウロを演技で続けました。やがて、織田さんが自ら立ち上がってくれましたので、軽く驚いた表情を見せてから近づき、挨拶をかわしました。
Posted at 2022/08/21 08:50:55 | |
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