
ようやく日本でも、F32というコード・ネームを持つ「4シリーズ」がデビューを果たし、そろそろ試乗車も出てきたようだ。そしていよいよ、待望の新しいMモデル、F80(M3=セダン)やF82(M4=クーペ)デビューの足音も聞こえてきている。
そこで今回は、まだ詳細は不明なものの、BMWのプレス・リリース等の情報をもとに、このM3/M4のエンジン、ギアを予想し、それを最新のALPINA B3/D3と比較してみたい。
最初に、新しいMモデル(F80/82)に搭載されると噂されている、3L直列6気筒ツイン・ターボ・エンジンの出力特性(dyno)グラフを、これまでのM3(E90/92)の4LV8NAエンジン、そしてALPINA B3/D3BiTurboの3L直6ツイン・ターボ・エンジンと並べて比べる。
新しいMモデルのエンジン(赤ライン)は、1Lもダウン・サイジングされながらも、これまでのMモデルのエンジン(緑ライン)に比べて、大幅に上回るトルクと、やや上回るパワーを持つ。また、ガソリン・エンジンのB3BiTurbo(青ライン)に比べると、トルクで若干劣り、パワーで若干勝る(ここはM5とB5の関係に似ている)。さらに、ディーゼルのD3BiTurbo(オレンジ・ライン。これまでの2L直4から3L直6へと大型化された)は、700Nmもの強大なトルクによって、4,000回転までの間なら上記すべてのエンジンを上回るパワーを誇る。

なお、ここで新しいMモデルのエンジンは、最高トルク575Nm[1,750-5,250rpm]、最高出力316kW[5,250-7,200rpm]と仮定してグラフを描いた。その根拠は、BMW A.G.のプレゼンで示された左の図によるものだ。
実際は細かな数値では異なることになると思われるが、そう大きくずれてはいないと思う。
次は、これらのパワーが、実際にどのような車の動きとなって現れるか、ということを比べてみる。
このグラフは、上記各車のエンジンに組み合わされるギア(Mモデルは7速DCT、ALPINAは8速AT)の違いによる、1速~3速まで(D3のみ5速まで)のそれぞれのギアの最高出力と速度の関係を表したものだ。上の出力特性グラフと比べてみると、M3/M4の赤ラインが、B3の青ラインを上回るパフォーマンスを示していることがわかる。その理由は、次の表のように、7速M-DCTのトータル・ギア比が、ALPINAの8速ATよりも、クロス・レシオであるためだ。
(しかし新型M3/M4でギア比が変更される可能性もある。これについては記事末尾の追記参照)
BMW M3/M4 : 7速M-DCT |
ギア |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
ギア比 |
4.780 |
3.056 |
2.153 |
1.678 |
1.390 |
1.203 |
1.0 |
― |
ファイナル比 |
3.154 |
トータル比 |
15.076 |
9.639 |
6.791 |
5.292 |
4.384 |
3.794 |
3.154 |
― |
ALPINA B3/D3 : 8速AT |
ギア |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
ギア比 |
4.714 |
3.143 |
2.106 |
1.667 |
1.285 |
1.0 |
0.839 |
0.667 |
ファイナル比 |
2.813 |
トータル比 |
13.261 |
8.841 |
5.924 |
4.689 |
3.615 |
2.813 |
2.360 |
1.876 |
最後に、上のグラフを単純化して、アクセルを目一杯踏み込み続けた場合(そういえば、最近話題のローンチ・コントロールを使えば、まさにこのようなイメージで加速していくと思う)の、各ギアのつながり具合を比較したグラフを見てみる。
E90/92M3(緑ライン)の段差が目立つのに対して、F80/82-M3/M4(赤ライン)の方は、つながりが実にスムーズでロスがない。それは8段ものギアを持つF30/B3BiTurbo(青ライン)をも上回っているが、ここにも、Mモデルに装備された7速M-DCTのクロス・レシオと、新しいMモデルのエンジンの特徴的な、高回転型のフラット・パワーが功を奏していると思う。1,500kgを下回ると噂されている、かつてない軽量なボディとあいまって、目が覚めるような鮮やかな加速が目に浮かぶようだ。
また、F30/D3BiTurbo(オレンジ・ライン)に目を移すと、140km/hほどまでの間に、5段ものギアを使っている。その速度域では、緑ライン(E90/92-M3)などは、まだ3速で加速を続けている間だ。このことは、トルクフルなディーゼル・エンジンと、ワイド・レシオな8速ATとの、抜群の相性の良さを表しているようだ。実は、ALPINAの8速ATのファイナル比は、どのようなモデルのどのようなエンジンでも、「2.813」が採用されている(F10-D5Turboのみ2.471とさらにワイド)が、それは、このような場合のみならず、優雅な乗り味を売りとするALPINA車全般の、スポーツ性と日用性の両立志向の現れではないかと思う。
※ この記事は、
どれだけ違うのでしょう…M3/M4のエンジンとALPINA B3Biturboについて書いています。この記事の作成にあたり、RANちゃんさんから貴重なデータの提供を頂きました(というか検証を頼まれたw)。記して感謝申し上げます。
※ 10/10追記 …
現行型のF10-M5に装備されている7速M-DCTは、ファイナル・ギア比はE90/92-M3と同じ「3.154」だが、1~7速それぞれのギア比は少しずつ違っていて、全般にワイド・レシオである。新しいF80/82-M3/M4のセールス・ポイントには、高出力化と同時に低燃費化が挙げられている。そのため、このM5に採用されている、ワイドなギア比が用いられる可能性もある。その場合は、上記本文中に挙げたギア比の表は、次のようになる。
BMW M3/M4 : 7速M-DCT (M5 Ver.) |
ギア |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
ギア比 |
4.806 |
2.593 |
1.701 |
1.277 |
1.0 |
0.844 |
0.671 |
― |
ファイナル比 |
3.154 |
トータル比 |
15.158 |
8.178 |
5.365 |
4.027 |
3.154 |
2.662 |
2.116 |
― |
ALPINA B3/D3 : 8速AT |
ギア |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
ギア比 |
4.714 |
3.143 |
2.106 |
1.667 |
1.285 |
1.0 |
0.839 |
0.667 |
ファイナル比 |
2.813 |
トータル比 |
13.261 |
8.841 |
5.924 |
4.689 |
3.615 |
2.813 |
2.360 |
1.876 |
これに応じて、上記本文中に挙げた二つのグラフも、次のように変わる。
M3/M4がB3/D3よりもクロス気味、つまりギア比の数値が大きいのは、上の表やグラフからわかるとおり、1速のみである。それ以外の2~7速の各ギアは、B3/D3よりもさらにワイド寄りとなる。その結果、上のグラフ中のF80/82-M3/M4(赤ライン)は、特に1速から2速へのシフト・アップ時の段差が目立つようになる。しかし、やはり2速以上ではスムーズにつながっていく。運動効率と燃費率のバランスが取れた設定と言えるかもしれない。
※ 10/14追記 …
前回、10/10の追記で、現行型のF10-M5に装備されている7速M-DCTと同じギア比の場合を示した。けれどもその後、RANちゃんさんとのコメントやメールのやり取りの中で、さらに適切と予想されるギア設定の可能性に思い至ったので、ここでそれを説明したい。それは、E92-335i等に搭載されている7速DCTの設定である。ギア比の表は次のようなものだ。比較のために、やはりALPINAB3/D3の8速ATも併記する。
BMW E82-135i / E92-335i / E89-Z4 35is : 7速DCT |
ギア |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
ギア比 |
4.780 |
3.056 |
2.153 |
1.678 |
1.390 |
1.203 |
1.000 |
― |
ファイナル比 |
2.563 |
トータル比 |
12.251 |
7.833 |
5.518 |
4.301 |
3.563 |
3.083 |
2.563 |
― |
ALPINA B3/D3 : 8速AT |
ギア |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
ギア比 |
4.714 |
3.143 |
2.106 |
1.667 |
1.285 |
1.000 |
0.839 |
0.667 |
ファイナル比 |
2.813 |
トータル比 |
13.261 |
8.841 |
5.924 |
4.689 |
3.615 |
2.813 |
2.360 |
1.876 |
この表の、特にトータル比を見比べれば、E92-335i等のギア比は、むしろB3/D3のギア比よりもワイド寄りであることがわかる。かろうじて6速、7速の2段だけがクロス気味となっている。それでも、このE92-335i等のギア比は、新型M3/M4には向いていると思われる。その理由を述べるために、次にギア単体のグラフをいくつか挙げる。
まず、この記事で最初に仮定したE92-M3のグラフを見てみる。この車に積まれているV8NAのエンジンの特徴は、何と言っても高回転型であることだ。レッド・ゾーンを含むタコメータの上限は9,000回転もあり、それだけエンジンを回すことで、速度計の上限330km/hに向かって加速していくのだ。ところが、ターボでトルクを稼ぐ新型M3/M4のエンジンはこれほど回せない。その上限は、やはりN55エンジンと同じ8,000回転(グラフの横赤ライン参照)か、それを少し上回る程度だろう。だとすれば、最高の7速を使っても330km/hには届かない。つまり、高回転域が不足しているのである。
次に、この記事の追記で仮定した、F10-M5のグラフを見る。この車にV8ターボのエンジンが搭載されていて、レッド・ゾーンを含むタコメータの上限は8,000回転に抑えられている。先ほどのE92-M3に比べれば、ターボの強力なトルクを生かしながら、ワイドの寄りのギア比によって、ゆとりを持って最高速に達するばかりでなく、6速と7速はオーバー・ドライブまで持ち、高速かつ低燃費の走行さえ可能である。けれども、そのゆとりは680Nmもの強大なトルクを前提とするものである。
500~600Nmほどのトルクを持つ新型M3/M4には、上のF10-M5よりも少々クロス寄りのギア設定とすることで、トルクを生かした加速性能と高回転域でのゆとりとの両方が欲しいところだ。ところで、このE92-335i等の速度計の上限は280km/hだ(グラフの縦赤ライン参照)。このグラフは、新型M3/M4に向けて、その上限を330km/hまで上げてある。その結果、このギア比によって7速7,000回転でちょうど330km/hに達することとなり、この車のスポーツ性が最大限に発揮できると考えられるのである。
最後に、新型M3/M4に、このギア比が採用された場合の、各車のエンジンに組み合わされるギアの違いによる、1速~7速または8速までの、それぞれのギアの最高出力と速度の関係を表したグラフを挙げる。この場合、それまでのグラフと違って、新型M3/M4の初期加速はD3はむろん、B3にも及ばない。しかしパワーが勝る分、徐々にその差を詰めていくように見える。また、ギアのつながり方はやはりスムーズだ。これに1,500kgを切ると言われている軽量なボディの差が加われば、その差はもっと縮まるか、あるいは逆転も十分に考えられるだろう。

