
静岡市の日本平で開かれた、ALPINAを中心とするオフ会に、お友達のRANちゃんさんからお誘いを頂いて、喜んで参加してきた。当日集まった6台のBMWは、3台のALPINA(D3 BiTurboツーリング、B3GT3クーペ、D5 Turboセダン)とM5セダン、そしてオープンのZ4-23iと私の523iセダンという、実に贅沢で多彩な顔ぶれだった。その上誰もが、自分の大切な車を運転してもらおうという、素晴らしい心映えのオーナーばかりだった。そこでまず最初に、それぞれの車のインプレッションを書きたいと思う。
こまっちゃん@さんのALPINA B3GT3(クーペ)~優しく固い車
※タイトル画像に使わせて頂いた。
やはりいつもの高級車の試乗の時と同じように、最初はとても緊張した。この日最初に乗ったALPINA車だったこともあって、ステアリングの据え付けの固さに改めて驚いた。ウィンカー・レバーまでも固い。いつも思うのだが、それらはまさにポルシェの味わいと同じだ。さらに、この車のステアリングは、固いと同時に、どのALPINA車よりも重かったが、その感覚もポルシェを思い出させた。
走り出してみると、コツコツと路面の感触が伝わってきた。よく「絨毯の上を走るような」というたとえがあるが、同じ言い方をするならば、「ビロードの上を走るような」優しい固さなのだ。それだけに、路面をしっかりつかまえ、蹴り出して進むような着実感が濃厚にあった。今思い出してみると、実はその感触もポルシェと似ている。要するに、ポルシェの剛体感を持ったBMWが、ALPINA B3GT3だと言えるのかもしれない。けれどもこの車は、改良が加えられたBMWの直6ターボ・エンジンを搭載したFRなのだから、もちろんそこはポルシェに勝る。
試乗コースの折り返しを経て、坂を上り始めてから、ようやくシフト・パドルを操れる気持ちになると、408psものパワーを持ったこの車が、一変して面白くなった。少し涙がにじんだほどだった。専用のエアロ・パーツも比類なく美しく、まさにスーパー・カーと言うほかはない。
RANちゃんさんのALPINA D3 BiTurbo(ツーリング)~柔らかに粘る車
すでに何度か運転させていただいているこの車だが、リア・タイヤを新調した後で、しかもワインディングを走るのは初めてだった。やはりすぐに、タイヤが違うことが感じられた。自分程度の感覚でもわかるほどなのだから、この車が、どれだけ忠実に路面の感触をドライバーに伝えていることかと、心底驚かされた。フロントとリアがシンクロして、路面に柔らかく粘り着いているかのような独特な感じだった。少し柔らかすぎると思うほどだが、かなりの速度でも安定してコーナーをいなしていく。快適で速いのだから申し分ない。そしていつも同じように、それがワゴン・ボディであることをすっかり忘れさせるような、ブレのない挙動だ。
ALPINA D3 BiTurboのパワーは低回転域からの十分以上のトルクに助けられて、大パワーのガソリン車に引けを取らない勢いで、グイグイと坂を加速して上ることができる。それでいて、踏んでもオーバー・パワーには至らない(実はRANちゃん号は至ると思う)ような安心感がある。だから運転していて、日常走行からスポーティなワインディング走行まで、幅広くその性能を使い切れる(実はRANちゃん号はドーピングしているので使い切れない)という充実感がある。そんなパワーが、よくチューンされたALPINAのボディに収められた、素晴らしい車なのだ。
kota_2007さんのALPINA D5 Turbo(セダン)~力を秘めて優雅な車
意外と落ち着いて運転できたのは、それがALPINA D5 Turboと言えども、とりあえず自分の車と同じF10だったから、という理由があると思う。そして以前世田谷の店で試乗した時と同じように、ボディの大きさ、重さをまったく感じさせないパワーの、スムーズな出方に感心した。ディーゼル・エンジンのネガティブな面も、同じようにまったく感じられなかった。
逆に、その試乗の時と違って感じられたのは、エンジンやマフラーの響きの穏やかさだった。これは、その後借り出したF10-M5や、この当日の他の車、特にE60-M5やALPINA B3GT3などの、それぞれに目立つ音と比べられることになったせいだと思う。しかし、この車は61.2kgmもの爆発的なトルクを秘めているのだ。
この穏やかという印象は、音に限らず、今回のALPINA D5 Turboの雰囲気や挙動などの色々な面に感じられた。それは優雅と言って良いものだ。そしてこれはkota_2007さんの車だったから、それはオーナーのスタイルを表しているのだろうと思った。納車からのわずかな期間に、すっかりkota_2007さんの掌中に収まって取り澄ましていた、この白いALPINAには、少し嫉妬を覚えたほどだった。
yonechaさんのE60 M5(セダン)~繊細で激しい車
ちょっと前に、恐ろしく元気が良くて楽しい、V8ターボを積んだ現行のM5を乗り回してきたが、この先代M5のV10NAの音やフィーリングはさらに素晴らしいと聞いていた。そして図らずも、今回初めて運転させていただく機会を得た。
Mのエンブレムを背負った重厚感のある音は、意外と滑らかで繊細だった。そしてV8ターボよりも、むしろ直6NAの方に似ていると感じた。低速ギアだったが、上まで回すことが容易で楽しかった。
後半になってようやく思い出したMボタンを押すと、にわかに本物のMらしさを発揮した。いくぶん柔らかめだった足が固くなり、エンジンやアクセルのレスポンスが上がり、強い加速感とともに、音に迫力が加わった。面白くなって、何度もシフト・ダウンしてエンブレ音を楽しんだ。追走していたD3の車内ではその爆音がウケていたらしいが、自分はそれほどと思わなかった。そこが現行のM5と違うところだろう。現行のM5は普通にバックするだけでも爆音が車内に流れ込むように造られている。それは、ダウンサイジングの劣等感を覆い隠す仕組みだったのかと邪推したくなるほどだ。
2ペダルMTのSMGはやや気むずかしく、DCTよりもMTの感覚に近かったが、この日常世界を突き抜けた車には、それが似つかわしく感じられた。
赤カブ望さんの Z4 sDrive23i(オープン)~気持ち良くヤンチャな車
赤カブ望さんのZ4に乗ったのは、これで四度目だろうか。驚くことは、乗るたびに違う顔を見せていることだ。そしてそれは紛れもなく成長といっていいものだと思う。
今回は、車の機嫌がとても良かったらしく、実に元気で、楽しそうに誇らかにエンジン音を響かせながら、荒い路面を跳ねたり、テールを滑らせたりしながら走っていた。オーナーの調教が進んでいたことに加えて、午前中から多くの人々に、心から楽しんで乗ってもらっていたせいかもしれない。
青天井で地面に近いシートに座り、直6NAの快音とパワーを、6速スポーツATで自在に操る。ドライバーのラフな操作をラフに返してくる。軽いジャンプの後で、ボディは盛大に揺れる。だが不安感はなく、さらに楽しくなるばかりだ。
私は赤カブ望さんが親しんできたロードスターという車にはまだ一度も乗ったことがないが、このZ4を運転するたびに、それはきっとこんな味わいなのだろうといつも思うが、人馬一体感という点ではまだ及ばないそうだ。しかし、これだけ成長を続けているこの車だから、またこれからも様々な違った顔を見せてくれるに違いない。
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私の車のインプレッションは、運転して頂いた
kota_2007さんからは、「窓を閉め切って、ロードノイズを遮断し、ホールド性の高い、アルカンターラなスポーツシートでエンジン音を楽しむ」、「音と回転フィールでもって「遅い」と感じさせない」という、同乗してくださった
RANちゃんさんからは、「エンジン音だけが入ってくる感じなので、直6のサウンドが楽しめます」、「車体が安定して不安感なく綺麗に曲がるのが素敵」という、同じく同乗して頂いた
yonechaさんからは、「あの驚異的なkota様の運転技能と相まって素晴らしいドライブ体験」という素晴らしいお言葉を頂いた。また、最後に私の車を「もう一周していい?」と言いながら、とても楽しそうに運転して頂いた
赤カブ望さんからは、車内で色々な印象を話していただけた。車の個性を心から感じ取って、それを素敵な言葉で伝えてくださった皆さんに、心から感謝します。
そんなオフ会やブログでのやり取りの中で、今も心に残るのは、
こまっちゃん@さんだ。彼はなんと「今回のコースではスパグラ号を味わうには自分には力量不足」と判断して、私の車を運転しなかったのだ。そして彼のブログには私の車のことではなくて、「緻密なデータに基づいたブログから抱いていた印象とは違って、オーナーとの会話で車への思いや付き合い方などを聞いて車の持つ雰囲気をつかむことを大事にされているように思え」た、と私の印象を書かれている。このどちらにも私は参ってしまって、今もメッセージのやり取りを続けている(のに、ブログなんか書いてお返事が遅れてすみません)。
私はALPINA B3GT3などという高価な車を買われたお気持ちが知りたくて、ぶしつけにも初対面から、こまっちゃん@さんにそんな質問したように思う。それは偶然、B3GT3のメカニカルな話題と同じように、彼の心に触れたらしい。そして彼からは私のコメントへのレスに、「車好きって、自己満足の塊だと私は思っています。100万円の車も2000万円の車も道路を走るうえでは、どちらも同じルールですが、オーナーの思いの深さに違いは現れます。その思いは、他人から共感されないことも多いですが、自分がそれで良ければ、それ以上のものはないです」、「オーナーの思いが詰まった車たちは、どれも素晴らしいです」という言葉が返ってきた。
良い言葉ばかりだが、私は特にその中の「オーナーの思いの深さに違いは現れます」という言葉に、また参ってしまった。そこには、車と人の間の奥深い関係の底について、私が日頃悩みつつ求めて得られなかった答えのヒントがあると思ったからだ。
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話は最初に戻って、上の五台の車の特徴を小見出しにした。それぞれのインプレッションを書きながら、それは車ではなくてオーナーの個性だったと気付き、それからは少し「人」を意識して書いた。だからたとえば、「優しく固い車」に乗るこまっちゃん@さんからは、その優しい面影に、強固な決意を持った求道者が感じられるのだ。他の方々もそれぞれ別様に同じだ。そんな「オーナーの思いが詰まった車たちは、どれも素晴らしい」。そして最後にもう一度、彼のメッセージから引用したい。「オフ会は、この自己満足の部分を少しでも共感できるから楽しい」のだと思う。それは案外、深い孤独を包み込んだ明るい交際なのかもしれない。
※ 3/15追記 … 車を交換して運転中に、万一、事故があった場合にはどうなるのか。基本的には、自分が契約している自動車保険が、車両保険と他車運転特約(被保険者が他の車を運転中に起こした事故を、その契約条件に応じて補償する特約)を含んでいることが必要となる。これによって、車の所有者に負担をかけることなく賠償が可能となる。
また、貸した相手が自動車保険を契約していないか、その契約内容がわからない場合もある。そのために、自分が契約している自動車保険の運転者限定は解除しておいた方がいい。
もちろん、ひと様の車を運転する時は、よく注意して事故を起こさないことが第一だ。いくら金額の補償ができたとしても、生産終了になった車を再び新車で取り戻すことはできない。軽い擦り傷であったとしても、オーナーの心は深く傷つく。

