引導を渡す　～父へ告げる～

　もし，人生という蝋燭の長さを知ることができるのなら…
　知りたい？　知りたくない？

　末期膵臓癌で余命数カ月。これを父に告げるべきか否か…。
　人それぞれだろう。
　だが，さして長くないのが確実なら，小生は是非とも知りたいと思う。産まれ方は選べんが，死に方は選べる。知らぬ間の幕引きだけは御免だ。


　父もきっとそう思うに違いない。ただ，引導ぐらいは俺が直接渡してやりてぇ。
　そう思い，コロナ騒動で本来は面会が認められないところを頼み込み，一部屋貸していただいた。




　ひょっとしたら不治の病では無かろうか…薄っすらとは感じてはいたようだ。
　
　今年の秋は無いだろうことを伝えられた父，特に取り乱すこともなく冷静であった。
　あからさまに表情に出すことはしなかったにせよ，さすがに胸中は穏やかではなかったようだ。時折，眼が潤んだように見えたのが，かえって不憫である。
　
　「言ってくれてありがとう。」
　帰り際にそう言えた父。我が親ながら天晴れである。



　翌日，医師からの検査結果説明。洗いざらい伝えてくれと頼んであったので，小生が受けたのと同じ説明を聞く。
　一晩過ぎて多少は落ち着いたのか，今回は眼を赤らめることもなく冷静な父。ただ，65歳で胃がんになったが91歳の大往生を遂げた祖父の話を始めたところに，生への執着を垣間見る。やはり人間である。
　

　
　
　一人称の死がいずれ小生にも訪れることは必定。
　逢茶喫茶　逢飯喫飯
　己の短い蝋燭を無造作に呑めるだろうか。いや，そうありたいものだ。死に様は生き様そのものである。