
30年前の思い出として、前編では、プロゴルファーのセベ・バレステロス似の先輩が180km/hまで急加速した話を記しました。
後編は、その数週間後の出来事です。
事務仕事を片付け、ようやく帰宅できる態勢になったのは、21時過ぎでした。金曜日でしたので、会社には、最年少の私一人しか残っていませんでした。
まさに戸締りをしようとしていたところに、外線電話が鳴りました。こんな時間に顧客であるわけがない、でも顧客だったら相当重要な連絡に違いないと考え、電話を取りました。
電話は、ギャランの先輩でした。携帯電話がない時代でしたので、藁にもすがる思いだったと思います。
「よかったああああ。お前が会社にいてくれて」
「なにかあったんですか?」
「今、インターチェンジにいるんだよ。詳しいことはあとで話すからさあ。インターまできてくれよ。料金所のところに。なあ、頼むよ。飯、うまいもん、なんでも御馳走するからさあ」
あとで聞いたのですが、高速走行中にタイミングベルトが切れてしまったのです。
インターチェンジの料金所まで車で迎えにいくと、スーツ姿で繁みにもたれるように体操座りをしている先輩がいました。
あれほど嬉しそうな先輩を見たのは、初めてでした。無人島に漂着後、苦労してようやく貨物船に発見したもらえた遭難者のような喜びかたに見えました。
どこの焼肉屋でご馳走になろうかな、と下心を抑えながら思案していると、先輩のほうから提案がありました。
「おっ、ここの喜多方ラーメン、美味そうだよな。前から思ってたんだ。いつも混んでてよう。一度食ってみたかったんだよ。ここでいいよな。お前もラーメン好きだよな」
頭の中が、キムチ、ナムル、サンチュ、厚切りタン、コムタン、カルビの流れになっていましたので、気持ちを切り替えるのに時間を要しました。普通のラーメンだな、としか思えませんでした。
――あれから、30年が経過しました。
今でもそのラーメン屋は営業しており、そこそこの繁盛店になっています。当時の先輩は、嗅覚も、味覚も、ともに正しかったことに驚かされています。
備考
トップ画像は、イメージであり、実際の店舗のものではありません。
Posted at 2022/08/06 10:21:49 | |
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