
琉球のミスター・バーディこと、大西さん(仮名)との珍道中を3編に分けてご紹介しました。バーディには隠れた意味を込めており、滅多に出会えない稀少な人物である、と読みとって下さい。パーよりもすごい、その上をいく人という意味だけは、まったくありません。大西さんは、九州の有名大学を卒業されています。
沖縄本島最南端の糸満市にあるスポーツセンターにチェックインしたのは、18:30くらいでした。部屋は、東京都内にあるビジネスホテルのゆうに5倍はある広さで、思い切り野球の素振りができる空間がありました。
大浴場でさっぱりしたあとが大変でした。TVのチャンネルが3つしかなく、ビデオオンデマンドのようなものはまったくありません。スマホがない時代でしたから、ネットも見れず、読書の準備もしていませんでした。夕飯は、ピーナッツ1粒さえ調達できず、なにもありません。
明瞭に空気の変化を感じたのは、21:00過ぎでした。魔王が発する唸り声とともに風雨が極限まで強くなり、島全体が揺れているような感覚に襲われました。瞬間最大風速ではなく、常時最大風速60mの世界でした。鬼哭啾々の気配に包まれ、室内でも恐怖を覚える荒天になっていました。
しかし、あまりにも退屈すぎて、大西さんに対する恨み節がこぼれてしまいます。人間は、呼吸するのと同じくらいは会話も大事なんだと悟りました。なによりも、話し相手もいない退屈が苦痛で仕方ありません。
気づいたら、テラスに出ていました。その勢いで外に出ました。前に進めないどころか、後退気味になってしまうほどの暴風でした。
当然無人で、車も走っていません。平時なら職質必至の格好でしたが、そのリスクは皆無でした。初めて耳にする魔王の怒声に恐怖を抱きながら、その何倍もの身震いを伴うような快感に包まれていました。命の洗濯とは、ああいう状態なのだと思います。大西さんへの恨みもきれいに流されていきました。
「魔王! 俺はこのとおり丸腰だぜ。やれるもんならやってみろ」
そんな無意味な劇団ひとりを繰り広げていました。
目の前で落雷のような大音響を伴う倒木があり、それがかなりの樹齢の大木だと分かって、ようやく部屋に戻りました。あの風速60mの世界は忘れ難い思い出です。
翌日は、台風一過の晴天になりました。優先搭乗850番に指名がかかったのは15:00過ぎでした。
Posted at 2022/08/25 00:02:06 | |
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