
武道系の競技では、「残心」という要素があると聞きました。弓道でいえば、矢が離れたあとの姿勢がそうで、「残身」や「残芯」に通じる美しい余韻が必要なのだそうです。的に当たっても残心が悪かったと反省することもあるとか。剣道では、渾身の一撃を放ったあとに「残心」を入れないと一本を認めてもらえないことがあるとも聞きました。
私が長くエンジョイしているテニスには、「残心」という要素はありません。いつ、なんどきでも、次の反撃に備えるフットワークと重心移動を行っています。ボクシングと似ていると思います。コートの左サイドへ走りながら打ったら、インパクトからフォロースルーに移行する段階で、重心移動を行い、コートのセンターへ戻る動作が始まっている感じです。
特殊技術として、ドロップボレーやドロップショットを放った際に、見た目としては、「残心」が生じる感じにはなります。それは余韻ではなく、相手に拾われるかどうかを観察しながら、次の動作の準備に入っているだけです。
ところが、最近、テニス歴40年目にして、プレー中にものすごい「残心」を目撃してしまいました。
ダブルスで4人がネットに詰めているボレー&ボレーの展開中に、パートナーの小倉君(仮名)が難易度の高いバックハンドローボレーを放ちました。打球は、相手ペアの中央を切り裂き、コートの最深部に突き刺さりました。往年のジョン・マッケンローが憑依したようなスーパーショットでした。
「ナイショオオオオオオオオ」
「ナイスボレー」
相手からも自然に賞賛の声が上がりました。
小倉君は、残心をとり、石像のように固まっていました。
一秒、二秒、三秒、……、十秒。
小倉君は、なおも残心をとり続けていました。
そこで異変に気づきました。三人が、小倉君のところへ駆け寄りました。
「うっ、うっ、動けねえ。たっ、頼む。ベンチまで運んでくれ」
三人で彼を抱えて救護しました。ぎっくり腰で、そのまま整形外科を受診することになりました。
Posted at 2023/08/19 08:50:26 | |
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