
まだパワーポイント等のプレゼンテーションソフトが出始めたくらいの時期でした。今回は、この背景がきわめて重要な話になります。
職場に池上(仮名)さんという方がいました。東大理系卒の秀才で、しかも現役合格です。まったく居丈高なところがないどころか、むしろ腰が低いくらいの方でしたので、周囲からは、「池さん」と慕われていました。
あるとき、池さんに「大学への数学は、やられていたのですか?」と訊ねたことがありました。当時の「大学への数学」は、難問を解くコンテストが定期的にあり、東大受験生等、ごく一部の秀才高校生だけが手にしていた最難関の参考書でした。池さんは、「文系を対象にしたコンテストに、文系志望だと偽って入選したことがあるんだ」と恥ずかしそうに答えていました。
ある日の午前中、池さんが、いつになく集中していることに気づきました。なにをしているのか興味を覚え、軽く声をかけると、製品仕様書に使用する模式図を作成されている最中でした。現代ならパワーポイントを使用して数分間で終わるような作業です。池さんは、曲線に拘泥され、画面に向かって憤慨していました。イメージどおりのラインが描けないというのです。当時の描画ソフトは、フリーハンドでないと、複雑な曲線を表現できませんでした。
夜になり、帰り支度をしていると、池さんが歓喜の声を上げながら、私のほうへ近づいてきました。ついに、イメージどおりの描画ができたというのです。
池さんは、興奮状態で、どうやって様々な曲線を描いたのか、――Excelファイルを開きながら――説明してくれました。驚愕しました。なんと、自分で関数式を作成し、変数を少しずつ調整しながら、そのグラフで複雑な曲線を作り続けていたのです。
Posted at 2022/08/26 23:42:52 | |
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