
同級生に尚子(仮名)さんというおとなしい女子がいました。私が所属していたテニス部とは無関係でした。
「もう恋なんてしない」と周囲に宣言するほどの大失恋をしたのに、1週間後には、尚子さんの存在が気になりだしていました。
平日の練習が終わると、大学の外周を2周するランニングがありました。1周目は声出しをしながらの全体走で、2周目は競争です。
正門を2回通るわけですが、尚子さんがその周囲にいるとテンションが上がります。先頭に躍り出て、彼女に手を振り、テニス部では圧倒的に1番速いというアピールをしていました。
アップダウンがあり、ラスト200mは延々と登り坂なので、中間地点の正門前でのスパートは禁忌でした。彼女へのアピールのために、その日の競争は捨てました。
ある日、練習が途中で中止となり、部活の同級生と2人で部室を出ました。篠突く雨でしたので、傘を持っていました。
すると、友人が足を止め、「あれ見ろよ」と言うのです。
尚子さんが1人で下校するところでした。
私の全身から、「先リード」のオーラが出ていたのでしょう。
テニスのゲーム中に、30-30やデュース等の拮抗した状態で、先行するぞを意味する「先リード」という声出しがあります。まさに、そのシチュエーションでした。
「どうする? 行くのか?」と訊かれ、迷いました。
彼女は、いつも数名の仲良しで固まっていることが多く、確かにチャンスでした。
尚子さんを100m先行させたところで、決意しました。
傘を友人に預け、全力疾走を開始します。
後方を一度だけ振りかえると、友人が敬礼のポーズをしていました。
計画どおり彼女に追いつくと、傘に入れてくれました。
駅までのhappy time でした。
「へえ、尚子ちゃんも巨人ファンなんだ」
会話が弾みます。
今度観に行こうか、と誘うと、肯定も否定もありませんでした。
「本気?」と何度も訊かれ、信じてもらえませんでした。
そして、最後は、笑顔でかわされました。
今思えば、明らかに押しが足りませんでした。
Posted at 2022/11/23 07:37:30 | |
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