
【本稿にはオカルト要素がありますので、苦手な方は、ご注意下さい】
正二郎は、朝食を終えると、今日は車に関する重要な用事があることを思い出した。ところが、日付があやふやだ。
スマホで11月13日であるのを確認した。午後からは、初回車検でカーディーラーに行くことになっていた。
ガレージで洗車をはじめると、妻の百合子が非常に不機嫌なことに気づいた。何故、今日わざわざ洗車する必要があるのか、と眉根を寄せながら買い物に出掛けていった。
ディーラーは、機械洗車だ。正二郎は、ずっと手洗いに拘泥していた。車好きでなければ分かるまい、と胸中に呟き、再び作業に専心した。
この日の洗車は戸惑った。長男が弄ったのか、道具の置き場所が不自然になっていた。整理整頓能力は遺伝しなかったようだ、と渋々納得するしかなかった。
正二郎は、目をつむってでも洗車ができる。愛車とはそういうものだと思う。完璧にディテイリングし、ディーラーに向かった。
道中は、渋滞があり、迂回した結果、かえって時間をロスしてしまった。途中、方向感覚を失いそうになり、半年経つと街並みも変わるものだと驚いていた。
ディーラーに到着すると、ハイテンションの営業マンが出迎えてくれた。あまりの能天気ぶりに怒髪天を突く怒りを覚えた。あとで所長に訴えてやる、と決意したほどだった。
正二郎は、思った。初対面では名刺を出すのが常識だろう。しかも、1年間待った新車が納車されたという。今の車にはまだ愛着がある。だからこそ車検を通す決意をした。それ以前に、国産車の新車納期に年単位の待ちがあるなんて、一部の人気車以外に聞いたことがない。大抵は、1ヶ月ちょっとだ。ほかの誰かと間違えられているのに違いない。
立て続けに腹立たしいことが起こった。スマホの着信だった。
「俺が愛するのは、生涯ただ一人、妻の菊池桃子だ。誰なんだ、百合子って」
Posted at 2022/11/16 15:40:37 | |
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